第6話 未来のための目的地

「わかった、わかったから、今起きるから……」


 城崎に無理矢理起こされた形の謎の男は、ボサボサの髪をかきながらまた欠伸をこぼす。


「やれやれ。あぁ、紹介しよう。こいつの名前はクゥール・セアス、この学園の生徒だ。…………一応な」

「一応? それってどういう――」

「すぅー……」


 ――パァンッ!!!


「痛ってぇえええッ!!」

「次寝ようとしたら、また引っ叩くぞ」

「そ、それが……教師のやることかーっ!! 体罰反対っ! ブゥ~ブゥ~」

「もう一回“イッても”いいんだぞ?」


 城崎の両の手からバキバキと骨が軋む音が鳴る。


「“イクッ”だなんて、そんな……っ」

「……どうやら、もう一度引っ叩かないといけないらしいなー?」

「お口チャックしまーす」

「………………」


 二人の軽快? な掛け合いが繰り広げられているそばで、ポツンと立ち尽くすアイラ。


 ――これが、“マンザイ”って言うものなのかしら……?


 来日する前に日本の文化についてある程度調べたアイラだったが、どうやら知らないことがまだまだたくさんあるようだ。


「ふわぁ~……」


 ――って、また欠伸あくびしてるし……


 大きく開けた口に手を当てると、目尻を擦りながら呟く。


「ああぁー……腹減ったー……」


 ――これっぽっちも話聞いてないじゃん……。大体、先生に対してあの態度はなんなの? そもそも――


「――と、まあこんな感じだ。わかったか?」

「え、あ、はい……っ」


 ――どうしよう……。話……全然聞いてなかった……


「どうした?」

「いえ、なんでも……ところで、どうしてアタシをこんなと…………ここに連れて来たんですか?」

「おいっ。今、『こんなところ』って言おうとしてただろ?」

「言ってないわよっ。ていうか口開けんなっ! このハレンチ男!!」

「なぁっ、ヒドイ言われようだな……。パンツの色で履いている人の性格がわかるって聞いたが、あれ絶対に嘘だろ……」

「なにその根拠もへったくれもない性格診断は……」


 ――あれ、初めて会うのに意外と話せてる……?


 嬉しくともなんともないことだが、どこか違和感を覚えるのはなぜだろう。


「……お前たち、私の話はまだ終わっていないぞ」

「あっ、すみません……」

「なんだよ、話って」


 ――確かに。


 アイラは、ここに来た目的をまだ聞かされていない。


「それはだな……クゥール、今日はお前に頼みがあってここにきた」

「頼み? あの“鬼のミラ”が? 珍しいこともあるんだな」


 ――お、鬼のミラ?


 物騒な二つ名を持つ城崎から、自ずと二歩分の距離を空けるアイラ。


「ほっとけ。あと、私をその名で呼ぶな」

「はいはい、なんでもいいから早く教えてくれよ。こっちはまだ二度寝してないんだからさー」


 ――こ、この男、また寝る気だったんだ……。りないというか、なんというか……。


「ならば、単刀直入に言おう」


 城崎はアイラを指さして言い放つ。 




「クゥール、こいつを鍛えてやってくれ」




 ――――はい?

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