第48話 アイラの叫び
特に、クゥールに向けられる視線は鋭いものだった。
「………………」
コタツによって魔力が吸収されたとはいえ、体内の魔力が上昇し続ける現状に変わりはない。
――タイムリミットは、二分。それまでに間に合わなければ……そのときは……
最悪のケースを想定し、クゥールから目を離さないでいると、ふとその目が後方にいるアイラを見た。
緊張した面持ちのアイラは、一度息を吐くとゆっくりと目を閉じた。
――アイラ・ハーヴァン……。
監視対象<英雄>の――――“弟子”。
ボロボロでも頼もしい背中を見送り、アイラはスッと目を閉じた。
――肩の力を抜いて……体をリラックス……
頭の中で一から順番に数を数えていると、つい先ほどの会話が脳内で再生された。
『いいか? 俺があいつの注意を引きつけるから、お前はあいつの足が止まった瞬間を狙って後ろから強烈な一撃を叩き込め』
『た、叩き込めって言われても……。アタシの攻撃が効くかどうか…わからないじゃない……』
『大丈夫だ、自信を持て』
『随分、簡単に言ってくれるわね……』
『ふっ。お前が切り札だ。お前が決めるんだ』
『ア、アタシが……切り札……?』
『あぁ、お前にならできる。……お前は、誰の弟子なんだ?』
『っ……いいわ、やってやろーじゃないっ!』
――このときの自分の威勢の良さを評価したいところだけど……。
またあの恐怖の時間を体験しなければならないのだと思った瞬間、肩はこわばり、手足が無意識に震え出す。
――…もし、やられたら……アタシたち……って、なに怯えてのよ……ッ!! こんなときに、余計なことは考えちゃダメでしょ!?
目頭にグッと力を入れるが、震えが止まる気配はない。
「…………っ」
なかなか集中できず、薄っすらと目を開けると、
「おぉぉおおおおおおおおおおおおおッッッ…――――!!!!!」
アイラが見たのは、自分の背丈に匹敵する巨大な腕から繰り出される拳を次々と躱していくクゥールの姿だった。
剣が壊れかけである以上、今の彼にはそれが精一杯だったのだ。
「…………っ」
――やっぱり、アンタ凄いわ……。
彼の背景を知ったからこそわかる。――――…英雄の確固たる強さを……。
――それに比べて…………なにしてんのよ、アタシは……ッ!!
師匠の懸命な姿を目の当たりにし、アイラは自分を叱った。そして、両手で頬をパンッと叩くと、再び目を閉じた。
――さあ、一からやり直しよ……っ!
「ハァッ……ハァッ……!!」
戦闘再開から僅か二十秒、クゥールの肩は大きく上下に揺れていた。
コタツによって魔力を吸収してもらうことはできたが、半年ぶりの戦闘と極限の緊張感による疲労までは抜け切れなかったようだ。
「フッ。また隠れてスッキリしてもらった方がいいんじゃないか?w」
ガラードの下品なジョークに、クゥールは舌を打つ。
「勝手に言ってろ……ッ」
――ゴリラにお似合いの、とっておきを食らわせてやるぜ……っ。
「ハァッ、ハァッ……」
肩を揺らしながら再び剣を構えると、ガラードの脇腹越しにアイラの姿を見た。
――いつでもいいわよ。
存在感を消してガラードの後方に着いたアイラがコクリと頷く。
――わかった。
小さく頷き返すと、剣を握る手に力を込めた。……だが、そのやり取りをこの男が気づかないわけもなく……。
「作戦って言うからちょっとは期待したが、どうやら大したことはなさそうだな」
「………………」
――…え?
「お前に気を取られている隙に、あの嬢ちゃんが俺の背後から攻撃を仕掛けるって算段なんだろ?」
そう言ってガッカリしたように肩を落とす。
――み、見抜かれてる……っ!?
「……ふっ。当たりだ」
――ちょっ、認めちゃダメでしょ……!?
「そんな素人でもわかる策に、俺が引っかかるとでも……?」
「引っかかるかどうかはわからねぇーよ。……けど、一つだけ断言しといてやる」
クゥールは、ガラードを通り越してアイラを指さす。
「あいつの剣が…――――お前をぶっ飛ばすッ!!」
――――…っ!!
「フッ……フハハハハッ!! “英雄”がお取り役ってか……笑わせてくれるッ!!」
ガラードの全身が濃い魔力の粒子に包まれると、それに対抗するかのように、クゥールの剣が輝きを増していく。
――いつ砕けてもおかしくないのに……なんて綺麗なの……っ。
見惚れるアイラの目の前で、両者の魔力が開放される。
「はぁぁぁあああああああああああーーーッ!!!」
「ゴガァァアアアアアアアアアアアア――――ッッッ!!!!!」
二人の魔力が最高潮に達した瞬間、
「――フッ」
一瞬にして全身にヒビが入った岩石の左腕が――――弾けた。
「なに――」
これにはさすがのクゥールも予想外だったのか、すぐさま距離を取るため後方にジャンプしたが、岩石の礫が豪雨のように降り注ぐ。
さらにそれが目くらましとなり、一瞬、ガラードを見失ってしまった。
「クソッ――」
「――ここだ」
その声に反応して顔を上げたときには、右拳が叩き込まれ――
「ッ――ァ――ッッ――ァ――」
言葉にならない声を上げたクゥールが地面に消えた。
「そ、そんな……」
抉れた地面の真ん中に、ボロボロの背中を捉えた瞬間、
「ク……クゥゥゥーーールゥゥゥーーーーーッッッ!!!!!」
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