第47話 決戦準備完了

「スモークか。なんも見えねぇーな、こりゃー…………フッ」


 三百六十度見渡しても変わることのない景色に、ガラードは口角を上げると、興奮した目でガシッと握りしめた右手を高く振り上げた。


「悪いが、俺に目くらましなんて通用しねぇーぞ」


 そう言って、ガラードは巨大な握り拳で…――――――地面を“殴った”。


 正確には、拳圧を地面にぶつけたのだ。それによって巻き起った暴風が、霧を払うように煙を消し去ってしまった。


「――さあ、どこに隠れたんだー?」


 かくれんぼの鬼の気分で周りを見渡すが、二人の姿はどこにもない。


 ――逃げたか…………いや。


 二人がいたはずの木の下には血痕だけが残されていたが、そこから道標のように血が木陰の方へと伸びていた。


「…………フッ」


 ガラードが一歩、二歩と近づくと、木陰からあるモノが出ていた。


 ――尻隠して頭隠さず、か。


「そこにいる姉ちゃんは、加勢しなくていいのか? このままだとヤッちまうぞ?」


 すると、音を立てることなく、椿がスッと目の前に姿を現した。


「私の出る幕ではない」

「おぉ~おぉ~、冷たいねぇ~」

「………………」


 椿の右手は、腰の鞘に納まっている短刀の柄を握っていた。


 ――ガラード・ロック……私がいたことに最初から気づいていたのか……。


 目の前の大男からただならぬ気配を感じ取り、柄を握る手に力を込めた。


 ――この男…………底が見えない。




「――いいか? 言った通りにやるんだ。チャンスは一度だけなんだからな」

「わかってるわよ、アタシを誰だと思っての?」




 ――来たか。


「フッ……フハハハッ」


 木陰からボロボロの格好で出てきた二人を、ガラードは今までにない笑顔で迎える。


「いい目をしてやがる。そうだ、こうでなくちゃ面白くねぇーよなッ!」

「うるせぇーなー」

「閉じてなさいよ、その無駄にデカい口」


 と言って足を止めたアイラの前にクゥールが立った。


「どうやら、作戦会議は終わったようだな?」

「悪かったな。いい作戦が浮かんじまって笑い転げてたんだ。おかげで脇腹が痛い、痛い」

「ほおー、そりゃ楽しみだ。せいぜいオレを楽しませてくれよ? こう見えて、かなりキレてるんだからな」

「お前を楽しませるつもりなんてねぇーよ」


 クゥールはアキレス腱を伸ばすなどの軽いストレッチを済ませると、額の汗を手の甲で拭った。


 ――っ……今度は、本気だ……っ。


 最初のときの棒立ちの構えとは異なり、今は重心を下げた中腰の体勢で剣を構えている。


「よしっ…――――行くぞ!!」


 気合の入った掛け声とともに、クゥールが駆け出す。




 ――アンタを信じるわよ……っ!

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