第16話 ハテナへの依頼

 その後。


 アイラが代わりに蓋を開けると、ハテナが腰に手を当てのどを潤す。


「ぷはぁ~……生き返る……」


 ――おぉー……っ、いい飲みっぷり……


 ぐぅ~……。


 ――ん?


 この可愛らしい音の正体は……


「お腹、空いた……」


 ハテナが腹を擦っている間も、音が鳴り続けていた。


 どうやらゲーム中は食事を取ることを忘れてしまうらしい。


「ちゃんと食べないとダメですよ?」

「一週間までは大丈夫」

「いや、軽く怖いこと言ってるんだけど!?」

『これで平常運転なんだぜ? 面白いだろ?』

「ビックリよ!」


 アイラの素早いツッコミが次々と炸裂していると、ハテナが徐に両手をクゥールの方に伸ばし、小首を傾げる。


「だっこ」

『だっこ? ったく、しょうがねぇーなー』


 と言ってアイラをじっと見つめる。


「え?」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ――ぱくぱく、もぐもぐ。


 簡易キッチンでルナが作ったピラフにハテナのスプーンが伸びる。


「おいしい」


 ――なんでアタシが、お姫様抱っこをしてあげなきゃならないのよ……。


 恐る恐る小柄な体を持ち上げてみると、ほんの僅かな腕力で持ち上がったことに驚きを隠せなかった。


 ――さすがにちょっと軽すぎじゃない?


 冗談気味に『主食はお菓子、飲み物はコーラ』と言われても信じてしまうレベルだ。


小恋ここいハテナ、よろしく」

「え――…あ、よ、よろしく!?」


 ――いきなりっ!?


「いい反応。……んん」


 ハテナは急にウトウトした顔になると、頭を揺らした。


「? どうし――」

「すぅー……すぅー……」

「……っ!? 食べている途中で寝ちゃダメでしょ!?」

「……素早いツッコミ、前世は芸人と見た……」

「いいから早く食べなさいっ!」


 と言いながら肩を揺らし、どうにか目を開けさせることはできた。


 ――アタシって、いつからこんなキャラになったんだっけ……?


 気づけば、アイラは母親的ポジションに立っていた。


 ――ねぇ……もう帰っちゃダメ……?


 それから、どこか掴みどころのないハテナに振り回されること、五分。感じたことのない疲労感に襲われていると、ハテナが見事な食べっぷりでピラフをたいらげた。


「ごちそうさま、美味しかった」

「えへへっ、お粗末様でした」


 ハテナは「ふぅ……」と息を吐くと、三人を見渡す。


「……ところで、どうしてここに来たの?」

『…………ん?』

「って、アンタも寝てたんかいっ!」

『おぉー、やっぱナイトにするにはしいな』

「わかる」

「アンタらねぇ……。はぁ……」






「彼女の魔力について調べる。それが、今回の依頼?」

『ああぁ。それから、こいつに合う魔剣の開発も頼みたい』

「え、アタシの……?」


 アイラは目をパチクリすると、スクリーン越しのクゥールと目が合う。


「で、でも、整備科の方は……」

『整備科には、俺が昨日謝っておいた』

「え?」

『弟子の粗相を謝るのも、師匠の役目だろ?』

「ア、アンタ……っ」

『ふふんっ――――…どうだ、決まっただろ?』

「っ……全然」

『うぐッ……!』


 最後の一言がなければ、師匠として完璧だった。


「……アンタには悪いけど。アタシ、あとで謝りに行ってくる。迷惑をかけたのはアタシだし……自分で謝りに行きたいの」

『そっか。じゃ、話が終わったら行って来い』

「ええぇ」


 アイラがコクリと頷くと、クゥールの目がハテナの方を向く。


『それで、どうだ? 俺の依頼、引き受けてくれるか?』


 イメージとは真逆の神妙な面持ちに、アイラは唾を飲み込む。


 ドキッ……ドキッ……。


「クゥールのお願いは断らない」


 ――っ!! ふぅ……。って、なに安心してるのよ……。


『よっしゃ! じゃあ頼んだぜ、最高の剣を作ってやってくれ』

「んっ……」


 依頼を了承したハテナが徐にイスから立つと、


「ついてきて、案内する」

「? どこに?」


 と尋ねられたハテナがよどみのない声で告げた。




「…――――わたしのラボ」

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