第四章 少年の“依頼”と“勉強会”

第15話 謎のゲーム少女

 次の日の朝。


「ねぇー、いい加減に教えなさいよー!」


 廊下を進む包帯だらけのアイラは、隣を歩くルナの胸の前のスクリーンに向かって文句をぶつける。


『お前は黙ってついて行けばいいんだよ』

「こっちはねぇーっ、日課のトレーニングがまだ――」

『今トレーニングしたところで昨日と変わんねぇーって』

「は、はぁあああああーっ!?」

『朝からうるせぇーなー』

「ふ、二人とも、そろそろその辺にしよ……ねっ?」


 そんなこんなでやってきたのは、敷地内にある研究者棟だった。


 普段は関係者以外立ち入り禁止の場所なのだが、ルナの顔パスで通ることができた。


 ――ルナちゃんって…………もしかして、大物?


『お前、魔研まけんは知ってるか?』

「魔剣? 知ってるわよ、当たり前でしょ? バカにしてんの?」

『あぁー、そっちじゃなくて、魔力研究所<ラボ>のことな?』

「魔力…研究所……?」


 ――初耳なんですけど……。


『これから会う奴は、魔力分析においては学園トップの天才だ』

「ふ、ふぅーん……」

『いいよなぁー、一度でいいから“天才”って言われてみてぇーよ』

「……ちまたで“英雄”って言われている人に言われたくないわ」

『あはは、それほどでも〜』

「褒めてないし。…………ウザっ」


 と会話を交えながら廊下の奥にあるエレベーターに乗り込むと、自動で扉が閉まり、下へと降りていく。


 ――上じゃないんだ……


 そして数十秒かけて下りると、止まる感触と同時に扉が開いた。


「え」


 目の前にあったのは、学生寮と同じ扉だった。


「ちょっとだけ待っててください」


 ルナは扉の横にあるドアロックにカードキーをかざすと、ドアスコープの網膜スキャン、ドアノブの指紋認証を次々にクリアし、扉を開けた。


「なんか、アンタの部屋にそっくりね……」

『あの部屋を改造したのがこれから会う奴だからな』

「ふーん……え?」

『おぉーいっ、ハテナー、起きてるかー?』

「は、はてな……?」

『マークの方じゃないぞ?』

「わ、わかってるわよ! それくらい……っ」

「あははは……。ハテナさん、入りますよー」


 ルナの後について行く形で恐る恐る中へと入る。


「お邪魔しま……暗っ!? …………ん?」


 足元すら危うい暗闇の奥、一際明るい六つの画面の光が一人の少女を照らしていた。


 ――可愛い……。


 体よりも大きいイスにちょこんと座るその姿に、思わず本音がこぼれる。


「……というか」


 壁を埋め尽くす機械の数々と、床に広がる絡まりまくったケーブル……。


 ――如何いかにも掃除ができませんって部屋ね……




「回復――遅い――」




 一向に二人がいることに気づかない少女はブツブツ呟くと、目にも止まらぬ早さでキーボードを打ち、マウスを巧みに動かす。


 ――なんかすごっ!! ……あれって、ゲーム……?


「終わるまで待つしかないですね……」

「え、う、うん」


 ――声をかければいいのに、わざわざ待たなくても……。


 ……。

 …………。

 ………………。


 それから一区切りつくまで渋々待つこと、ニ十分。


「…………勝った」


 キーボードの横に置いてあった飲み物の缶を持つと、少女は小首を傾けた。


 どうやら、缶の重さで中が空だったことに気づいたようだ。


「………………」


 空の缶をテーブルに置くと、隣にあった小さな冷蔵庫に手を伸ばす。


『ほんと、それ好きだよなー』

「これはわたしのエネルギー源、生きていくのに欠かせな…………」


 声に気づいて顔をクイッと向けると、小さな口が丸く開いた。


「クゥール」

『よっ、どうだ? 今日の調子は』

「ノープロブレム……ム、ム…………開かない」


 冷蔵庫から出した缶の蓋を開けようとするが、力が入らないのか、一向に開く気配がない。


 ――いや、問題あるじゃん……


「クゥール、開けて」

『いや開けられねぇーよ、見ればわかるだろ。てか、蓋を開けられないって、何時間インしてたんだ?』

「うぅーん……」


 指を折りながら数え始めるが、それは片手だけでは終わらなかった。


「十二……十三…………三十時間くらい?」

「いや、飛び過ぎでしょっ!! ……ていうか、さ、三十時間!?」

「? 誰?」


 不思議な顔でアイラを指さす。


「アイラさんだよ」

「あ、えっとー、アイラ・ハーヴァンです……よろしく……」

「ふーん」


 謎の少女はジト目でアイラの全身を吟味ぎんみすると、ポツリと呟く。


「――――…あなたが…ねぇ……」

「え、なに?」

「なんでもない」


 ――なんでもないって顔には……見えないんだけど……。


「………………」


 ――うぅぅ……ん、不思議な子だな……。

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