第21話 誰かが見た景色
涼しい風が肌を撫で、少女の長い髪を揺らす。
――んっ……んん…………
瞼を持ち上げると、視界一面に青い海と白い空が広がった。
――こ……ここは…………
顔に当たる眩しい日差しを手の甲で遮ると、どこからか声が聞こえてきた。
『――
緊迫感を与えてくる、男の切羽詰まった声……。
『――無謀すぎる…――味方の援護が来るのを――』
『落ち着け――――、俺を誰だと思って――』
もう一人の男は背を向けているため、顔を見ることはできない。
――でも……。
『俺は――英雄に…――――』
――この…声は…………
「――――…っ!!」
目を開けると、視界に広がったのは青い海でも白い空でもなく、心配な顔で覗いてくる少女の顔だった。
「アイラさん……っ!」
「ルナ…ちゃん……。ここは……」
「俺の部屋だ」
下の方に視線を下げると、ベッドにもたれかかるクゥールが「はぁ……」と息を吐く。
「どうして……アタシ……」
「アイラさん、急に倒れたんだよ?」
「倒れた? ……そうなんだ……。んっ……」
ルナに背中を支えられる形で上体を起こす。
「……え、ええ?」
窓から見えた空は、すっかり陽が落ちて真っ暗だった。
「……っ!! もぉー夜なの……!?」
「お前、五時間も寝てたんだぞ」
「ご、五時間……っ!!?」
アイラはポカーンと口を開けることしかできなかった。
……。
…………。
………………。
その後。
ルナが簡易キッチンで用意してくれたホットミルクを飲みつつ、気を失ってからの経緯を聞いた。
「え、カリア先生が診に来てくれたの?」
「なんだ、カリアを知ってるのか?」
「……ま、前に一度、保険室で治療してもらったことがあったから……って」
――呼び捨て……?
「診察した感じだと、これといった問題はなかったみてぇーだから、今日はもう部屋に戻って休め」
「……えぇ、わかったわ」
「おぉ? やけに素直だな」
「っ……起きるまで待っていてくれたみたいだし? 今くらいは言うこと聞いてもいいかな……って」
「いい心がけじゃねぇーか」
クゥールは前で腕を組むと、感心した顔で二度、三度頷く。
「……あ。そういえば、気を失う前に、女の人の声が聞こえた気がするんだけど」
――――――――――――――――――。
突然、しーんっとした空気が流れると、二人の視線がそれぞれ壁や窓に向けられた。
「? どうしたの、二人とも? ……もしかして、ここに誰か――」
「っ……き、気のせいだよ……っ!! ねっ、クゥール……?」
「………………」
「気のせい……?」
――明らかにいましたよって、顔に書いてあるんだけど……
『俺は――英雄に…――――』
――っ!! あれって……
「………………」
「? なんだ?」
アイラからじーっと見つめられていることに気づいたクゥールが眉をひそめる。
「いや、なにもない……」
「なんだよ、俺に惚れたのか?」
「え――アイラさん、そうなの!?」
突然慌てふためくルナ。
「……ううん。そんなこと…あるわけないでしょ……」
アイラは首を横に振ると、飲み終わったコップの底をじっと見つめた。
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