第31話 アイラの笑顔
「なんでアタシがこんなこと……」
第二アリーナの一階にある女子トイレ。そこでブツブツと文句を呟くアイラは、手にブラシを持ち、便器の中を“丁寧”に磨いていた。
心を込めて磨かないと城崎に一発で見抜かれてしまうからだ。
「はぁ……」
学園内にある四つのアリーナの内、修理中の第一アリーナ以外の全てのアリーナのトイレを掃除しなければならない。
時々、アリーナを使用するために訪れる生徒たちとすれ違うときがあるのだけど。恥ずかしくてしょうがない。
――ていうか、二週間の停学はまだしも、トイレ掃除はどうなの? それも一ヶ月!
「まったく……ちょっと本気でやっただけじゃないっ! そもそも、あれぐらいで壊れる方が――」
「――あ、あの……」
文句が止まらないアイラの口を止めたのは、背後から聞こえてきた女の子の声だった。
「ん?」
振り返ってみると、ショートの黒髪に眼鏡をかけた一人の女子生徒が立っていた。
「……あっ、悪いんだけど、今掃除中だから他のトイレに――」
「ごめんなさい……っ!!」
「へっ?」
それから一通りの掃除を済ませると、アリーナの客席に謎の少女と並んで腰かけた。
「えっと……アナタは……」
「っ……わ、私は……」
声をかけてきたのは、顔も忘れたクズ男に廊下で倒された女子生徒だった。
「あぁー、あのときの」
「…………っ」
あの後、二人を追って客席から様子を見ていたらしく、先日のリベンジ戦も見に来ていたらしい。
「私なんかのために…………本当に…ごめんなさい……っ」
少女が頭を下げると、目尻に溜まった涙が手の甲を濡らした。
「そんな……なにも謝ることなんて……」
――悪いのは全部アイツなんだから……。
あのときの一部始終を見ていたのなら、なにもできなかった自分を責めていたに違いない。
「……女の子にあんなことをするヤツを、許せなかっただけだから……。だから…頭を上げて、ね?」
「…………っ」
少女はゆっくりと顔を上げると、スカートから出したハンカチで涙を拭った。
「で、でも……」
「最初は不意打ちを食らって負けたけど。この前リベンジできたから、もういいの! 十分スッキリしたし、だから……もう気にしなくていいんだよ?」
「っ……ハーヴァン…さん……」
止まっていた涙が頬を流れ、また手の甲を濡らす。
「……ふふっ。アイラでいいわ」
「え……」
「アタシ、さん付けで呼ばれるの、苦手だからさっ」
「…………っ!!」
その満面の笑みに、少女は魅力された。
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