第33話 師匠の一面

「んんー……やっぱ、わけわかんねぇーなー」




 魔力量――――――測定不能




 ――今までいろんなやつに会ってきたけど。


「こんな奴もいるんだな……」


 クゥールは、コタツの上のスクリーンを見つめながらポツリと声をこぼす。


 そこに映し出されていたのは、アイラに関する収載なデータだった。


 個人情報を勝手に見るのは良心が痛むが、これも弟子のためだ。


 ――俺はあいつの師匠なんだ……うんうん。


 まるで自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、スクリーンに集中した。


「どれどれ……へぇー。アイツ、体重が――」


 ――見てんじゃないわよッ!!!!!


「…………ッ!?」


 急に声が聞こえた気がして周りを見渡したが、誰の姿もなかった。


「っ……はぁ。わかったよ」


 他に誰もいないが一応返事をすると、別の映像に切り替えた。






 その日の放課後。


「入るわよー……って、寝てるじゃない」


 部屋に入ると、コタツから顔を出したクゥールが寝息を立てて眠っていた。


「まったく…………ん?」


 呆れた顔でため息をこぼすアイラが見たのは、コタツの上のスクリーンに映し出された映像だった。


「これって……」


 流れていたのは、アイラの一撃が炸裂したアリーナでの一戦だった。


 当時の映像は始めて見るが、


「ふっ……ふふっ、ふふ……っ」


 何度もリピートされる映像をニヤけ面全開で見るアイラ。


 ――なかなかいい映像が撮れているじゃない……っ。あとでコピーしたデータ送ってもらおっ。


「ふふっ。……? なんだろ」


 すっかりご機嫌なアイラは、映像の横に書かれていた小さな吹き出しを見つけた。


 ――腕を上げたときに脇を締めきれていない。これだと剣を振り下ろしたときに角度が数ミリズレる。


「……っ!! これは……」


 ――脇が甘いから肘の角度と向きもおかしくなる。まぁ、あの性格じゃしょうがないか。大体――――


「ムカっ! なによ、これッ!!」


 ――こんな不格好なフォームだから、力任せに腕を振ることしかできない。フォームを改善する必要がある。


「ぐぬぬぬッ……」


 ――否定できないから余計にムカつく……ッ!!!


 他になにが書かれているのか気になり、スクリーンを凝視すると、


 ――体幹を強化すれば、咄嗟の切り返しと回避への動きがスムーズになる。剣を教えるのは、体幹のトレーニングを難なく熟せるようになってからにしよう。


「…………っ」


 宙のスクリーンから目を離し、今も眠り続けるクゥールの顔を覗き込む。


 ――本気なんだ……。


「………………」


 気持ちよさそうな寝顔を見つめながら小さく頷くと、アイラは徐にスカートのポケットから端末を出す。


 ――“あの人たち”なら……。


 画面をスクロールすると、ある人物の名前が表示された。




「――あの、お願いが……あるんですけど」






「――はぁ~いっ、じゃあシャツを捲ってね~」


 言われるがままシャツを捲ると、肌に触れたひんやりしたものにピクッと体が反応する。


 ――冷た……っ!


「ふむふむ、シャツ戻していいよー」


 聴診器ちょうしんきを肩にかけると、カリアが眩しい笑顔で答えた。


「うんっ、問題なし!」

「あ、ありがとうございま……って、なにをしてるんですか!?」

一応いちおう、ねっ?♪」

「…………っ」


 保健室はカリアの領域。そんなところに足を踏み入れれば、果たしてどうなるか……。


 ――まぁ、なにも問題がなかったからいっか……。


 シャツの袖をスカートの中に入れていると、ウィーンと扉が開いた。


「来たぞ」

「あっ、ミラ~♪ やっとワタシに診察してもらう気になったの~?♪」

「なわけあるかっ」

「………………」


 クゥールのことについてなにかと詳しい城崎ミラと、クゥールのことを『クゥーくん』と呼ぶカリア・フレイル。


 ――二人なら……。


「早速、説明してもらおうか。なぜ私をここに呼んだんだ?」

「え? ワタシ呼んでないよ?」

「いや、聞いているのは、お前だ。ハーヴァン」

「え、そうなの?」

「…………っ」


 二人の視線を浴びながら、アイラはたどたどしくも真剣な目で尋ねた。




「……聞かせてもらってもいいですか……? ……アイツ……“英雄”のことを」

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