第34話 静かすぎる保健室

 アイラの一言に、城崎の眉がピクッと動き、カリアは口を丸く開けた。


 その反応を見れば、二人がクゥール関連でなにかを隠していることがわかる。


「えーっと……」

「知りたいのか?」


 目をキョロキョロするカリアとは対照的に、城崎はキリッとした瞳でアイラを見つめる。


「…………はいっ」


 それに対してアイラはたじろぐことなく見つめ返すと、話を続けた。


「アタシは……アイツのことをよく知りません。知っているのは、普段グータラしてるのに、時々大人びた態度を取ることや、中等部のルナちゃんにデレデレしているロリコンってことくらいです」

「グータラ……ロリコン……」

「クゥーくん……やっぱり年下の子の方が好みなのかなー」


 ――また、『クゥーくん』……。


 三人が一体どういう関係なのか、気になってしょうがない。


「カリア、今、真剣な話をしているんだ」

「わかってますよ~」

「本当にわかっているのか? ……どうした、ハーヴァン」

「あ、いえ、なんでも……」

「なら話を続けてくれ」

「はい……。アタシは……アイツのことをもっと知りたい。……どうしてそう思うのかは、自分でもうまく説明できないんですけど……」


 自信がなく、自ずと小さな声になってしまったが、今の思いを伝えるには十分だったはずだ。


「そうか……」


 その思いを聞いた城崎は、顎に手を当てて考え込む姿勢を取った。


 長い……長い時間を待った気がするが、実際は十秒も経っていなかった。


「……わかった。そこまで言うのなら」

「…………っ!!」

「ミラ……」

「隠していても、いずれバレていたさ。ハーヴァン、お前をクゥールの元に連れて行った時点で、こうなることはわかっていたからな」

「え」


 ――わかってた……? アタシが……アイツのことを聞きに来ることを……?


「今の時点で、お前はクゥールのことをどれだけ知っている?」

「え……ネットで調べただけで、細かいことはなにも……」


 ネットで『クゥール・セアス』と打ち込むと、検索候補に『英雄』や『大活躍』といったワードが出てきた。


 城崎から聞いたクゥールの活躍と、称賛の言葉が並んだ多数の記事を読めば、別に不思議なことではない。


 だが、アイラが気になったのは、その下にあった…………『死亡説』というワードだ。


 まるで監禁されているかのような、あの状況となにか関係しているのかもしれないと、検索を進めたが、確証を得られる情報はなにも出てこなかった。


「ふっ。……だろうな」


 二人が横のベッドに並んで腰かけると、城崎が小さく息を吐いた。


「先生……」


 城崎は一度深呼吸を挟むと、真剣な顔でアイラを見た。


「……話そう。クゥールが“英雄”と呼ばれるきっかけとなった事件を――――」

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