第28話 アイラはなぜ合格できたのか?
コタツの上に卵やツナなどのサンドイッチが乗った皿と、インスタントコーヒーを入れた二つのコップが並んだ。
サンドイッチは、朝早くにこの部屋にきたルナが作り置きしてくれたものだ。
「感謝しろよな? 朝飯の半分をお前にやるんだから」
「わかってるって♪ ルナちゃん、ありがとーっ!」
「いや、俺に言えなっ!? まったく…――――四つあってよかった……」
――奇数だったら、面倒なことになっていただろうからな……。
「アンタ、ブラックで飲むの? …………えぇ」
「なに勝手に引いてんだよ、別にいいだろ。……ちょっとはミルクと砂糖の加減を考えろよな?」
コーヒーという名の池に白い山が浮いている。
「いいでしょ? ブラックなんて苦すぎて飲めたものじゃないんだから。ていうか、早く食べましょうよー」
――こいつ……はぁ。
「……あぁ、そうだな。お前、ちゃんと歯を磨けよ?」
「言われなくてもちゃんと磨いてるわよ。ほらっ」
アイラは口を開けると、見ろと言わんばかりに白い歯を見せてきた。
「……無駄にキレイだな」
「『無駄』は余計よっ!」
「まっ、それだけキレイなら大丈夫だろ。じゃ、手を合わせろー」
「手?」
アイラはクゥールに習って両の手のひらを合わせる。
「いただきます」
「? ……いただき…ます……っ」
ちょっぴり緊張気味のアイラであった。
「ごちそうさまでした」
「ご、ごちそうさまでした……っ」
最後も手を合わせる二人。
互いに空腹だったのか、五分もかからずに平らげてしまった。
「ああぁ~……美味しかった~……っ」
アイラは満足気な顔で自分の腹を撫でた。
――ふっ、その顔、ルナに見せてやりてぇーな。
「ふうぅ~……ねぇ、この食器って――」
「じゃんけーん――」
クゥール…………パー。
アイラ…………グー。
「はいっ、お前の負けー」
「ちょっ、それズルくない!?」
「ズルだろうとなんだろうと負けは負けだ」
「……っ、わかったわよ!」
座椅子から立ち上がると、ブツブツと文句を言いつつ皿とコップを運んだ。
……。
…………。
………………。
「はぁ、終わったわよー」
「お疲れさん」
「じゃあ時間も
「その前に、一ついいか?」
「? なによ」
捲り上げていた制服のシャツの袖を直すアイラが首を傾げる。
「前から聞きたかったんだけどさ。お前、どうやってここ合格できたんだ? 筆記はともかく、実技はどうやってクリアしたんだよ?」
「え。あ、あぁー……」
――なんだ、この気まずそうな顔……まさか!?
「そ、それは…ねぇ……」
――いや、こいつの頭で『不正』なんてできるわけがない。良くも悪くも、真っすぐなやつだからな。
「筆記は三日徹夜してなんとかギリギリ合格できたんだけど……。実技の方は……試験用の魔剣を使おうとしたら突然、パァッン!! って、弾け飛んじゃって……」
――弾け飛んだ……?
「それで?」
「その後、気絶しちゃったもんだから、学園が配慮してくれてね……」
「配慮? ……まさか、事故を
「い、『隠蔽』って、そんな物騒な言い方しないでよっ! 配慮よ、配慮!」
「ふぅーん。まっ、そういうことにしといてやるよ」
学園側が用意した魔具の不具合で受験者にケガを負わせたとなれば、大問題になるのは間違いない。そうなると、スポンサー企業へのダメージは計り知れない。
――だから、事を穏便に済ませるためにアイラを合格にしたってところか……。
スポンサーが深く関わるこの学園では、なにが起きても何ら不思議ではない。
「弾け飛んだ、か……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます