対魔騎士学園の英雄譚

白野さーど

第一章 二百年前の“英雄”

第1話 英雄の伝説

 二百年前、人々は…――――――自分の目を疑った。




 突如とつじょ、空一面に広がった謎の“黒いオーロラ”。


 それは世界各地で確認され、人々の興味を誘った。ある者は魅了され、またある者は不安を抱いた。


 大災害の前触れか、はたまた世界が終末を迎えようとしているのか。人々の中で様々な憶測が飛び交っていると、状況が一変した。


 突然、空にポッカリと開いた“巨大な大穴”から、大きな眼が地上を見下ろしたのだ。


 その眼は二度、三度瞬きをすると、穴をこじ開けるようにしてその姿を現した。


 ゾウを遥かに超える巨体に鋭い牙を持ち、人類を地獄の底に突き落とす災厄の存在、人々はそれを――――“魔獣”と呼んだ。


 地上に降りた魔獣の大群は、逃げ遅れた人々諸共もろとも、街や村を次々と破壊した。


 命からがら生き延びた人々は剣を取り、銃の引き金を引いたが、獰猛な魔獣には全く歯が立たない。


 一人、また一人と戦う意思を失い、世界を絶望が覆い尽くした……そのとき、魔獣の群れの前に天から一筋の光が放たれた。


 魔獣の視界を奪うその眩い光の中に人影があったのだ。


 目深くマントを被り、その手に黒いオーラを放つ剣を持った――――“謎の存在”。


『………………』


 街を背にして魔獣の大群の前に立ち塞がると、襲い掛かる魔獣たち全てをたったの一振りで一掃した。


 街が救われ、歓声を上げる住民たちの目の前で“謎の存在”は正体を明かすことなく、姿を消した。だが、その姿は世界各地で目撃され、魔獣の侵攻を完全に防ぐ活躍を見せたのだった。


 その後。命を救われた人々は、敬意と感謝を込めて“謎の存在”をこう呼んだ。




 ――――『英雄』……っと。

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