第三章 少女の“屈辱”と“決意”
第8話 アイラを見ている者
「………………」
食堂で朝食を取ったアイラは、自室に戻りトレーニングウェアに着替えた。
今日は急に城崎がやってきたこともあって、日課のトレーニングを消化していなかったのだ。
「んっしょっと」
タオルを肩にかけると、スポーツドリンクが入ったスクイズボトルと木刀を手に、部屋を出た。
向かう先は、芝生の広場だ。
広場にやってくると、上に向かって腕をグッと伸ばす。
「んん~~~っ!! いい天気っ!」
天気は良好、ランニングのし甲斐がありそうだ。
まるで生きているかのように芝生が風に揺られる。
管理人の手入れがよく行き届いているからこそ、そう見えるのだろう。
――こういう日は、のんびりお昼寝でも…………なぁーんてね。
「………………」
青く澄み渡る空を見上げながら、頭に浮かぶのは……
「……まさか、あんな男が“英雄”だったなんてね……」
と一言呟き、持ってきたものをベンチに置くと、両脚のアキレス腱とふくらはぎを伸ばすなどのストレッチを始めた。
――もし、先生の言っていることが事実だとしたら……もしかしたら……
「……あんなヤツに教わらなくたって、アタシ一人の力で……」
念入りにストレッチをしたアイラは、早速、日課のトレーニングであるダッシュ連続十本、素振り一万回など、いつものメニューを
いつもは一つ終わるたびに五分間のインターバルを挟んでいたのだけど、今日はなぜか無心でできたため、そのままトレーニングを続行した。
……。
…………。
………………。
「ハァッ……ハァッ……もうダメ……っ」
休日用の三時間のメニューを終えたアイラは、崩れるように芝生に寝転がった。
スクイズボトルの蓋を開けたが中から一滴も出てこないため、アイラは仕方なくボトルを脇に置いた。
「ハァッ……ハァッ…………」
呼吸が落ち着くのを待ちながら、ぼーっと空を見上げる。
………………。
言葉が出てこない。ノドが渇いているからか、それとも自分の髪の色とは異なる真っ青な空に見惚れているからか。
――どっちでもいいや……。
と心の中で呟きながら起き上がると、タオルの上に置いてあるものをじっと見つめた。
「………………」
グレーを基調とした柄から先がない剣。
それは、魔獣と戦うためにオーダーが開発した“魔具”の一種である“魔剣”だ。
吸収した魔力の粒子を纏うことで、魔獣の分厚い体をいとも簡単に切断することが可能だ。しかし、その威力と切れ味は、使用者の魔力によって大きく異なる。
ちなみに今、刃の部分がないのは、“コンパクトフォーム”と呼ばれる持ち運びがしやすい形態になっているからだ。
ぐぅううう~~~。
「……お腹…空いた……」
昼食のメニューを考えながら腹を撫でていると、
ガサッ――ガサガサッ――
「ん?」
起き上がって周りを見渡すが、人影は見られない。動物の姿も……ない。
――…なに?
ガサッ――ガサッ――
「……っ!! また……」
――そういえば……ここに来てから、時々、誰かに見られていたような……。
「………………」
アイラはスッと目を閉じ、耳を澄ませた。
草を踏み分けるようなこの音の正体を突き止めるために。
――でも、誰だろう……も、もしかして、ストーカー? それとも…………アタシのファ、ファン……!?
淡い期待に胸を膨らませる前に、まずは音の正体を見つけなければ。
――オイラ、アイラちゃんのファンでゲフッ。
――ア、アイラちゃん、可愛いよ~……アイラちゃーん……。
………………………………………………。
――うぅーん……このままここにいても埒が明かない……。
なにより、これから先ずっと見張られ続けるのは……
――絶対にイヤっ!!
「はぁー……すぅぅぅー…………」
目一杯に息を吸うと、グワッと目を見開く。
「ッ――隠れてないで出てきなさーーーーーいッ!!!!!」
――わわわぁっ!!
ありったけの大きな声で叫ぶと、近くの木陰から可愛らしい声がした。
「……ん?」
予想していたのとは異なる声色にアイラは首を傾げたが、恐る恐る木陰の方を覗いた。
「いたたた……っ」
アイラの視線の先では、肩に触れる長さの金色の髪を持つ童顔の少女が尻餅をついていた。
「…………え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます