第40話 崔はナンパする!
土曜日の午後、とりあえず大きな駅の前に繰り出した。駅前には人が沢山いる。女性が沢山いる。美人も沢山いる。だが、みんなの足取りが慌ただしく感じる。ここはナンパスポットではないような気がした。僕は繁華街へ移動した。
うん、駅よりは“遊び気分”になれそうだ。では、ターゲットを決めよう。記念すべき初ナンパだ。今までに味わったことの無い緊張感に包まれる。だが、ナンパなんて本当に成功するのか? そんなの、TVドラマだけじゃないのか? ふと不安がよぎった。だが、まあ、やってみないことにはわからない。
年上好みの僕は、十代には興味が無い。20代の前半を狙う。なんなら20代の半ばや後半でもいい。……いた。僕の好みの女性が僕の目の前を横切った。
「あの、ちょっとすみません」
「なんでしょう?」
「食事に行きませんか?」
「間に合ってます」
お姉さんは、スタスタと歩き去って行った。それが僕の初ナンパだった。思っていたよりも、断られたのは悔しかった。僕のやる気が増した。“成功するまで絶対に帰らない!”、僕はそう決めた。
「お茶しませんか?」
「結構です」
「カラオケ行きませんか?」
「急いでいますから」
「ホテル行きませんか?」
「行くわけないでしょ!」
難しい。何人に声をかけたかわからなくなってきた。“もう帰ろうかな”と折れそうになる心。そこを“帰らない、成功するまで絶対に帰らない”と自分に言い聞かせる。
“ホテル行きませんか?”は、もうやめよう。抱くのが目的じゃない。目的は、長く付き合える彼女を見つけることだ。
連敗続きだが、収穫はあった。足早に歩いてる人は、多分、用事がある。声をかけても一瞬で終わる。のんびり歩いてる人は、特に用事が無い。そのような初歩的なことに気付くことが出来た。そうなると、のんびり歩いている女性を狙うことになる。
「えー! どうしようかなぁ……やっぱりやめとくわ」
と、一瞬考えてくれたりする。今までは、単純に好みの女性が通ったら声をかけていたが、好みのタイプでしかものんびり歩いてる人に限定して声をかけることにしたら、ちょっと感触が良くなった気がした。
だが、それからも連敗が続き、
「ちょっと、すみません」
「何ですか?」
「食事に付き合ってもらえませんか?」
「え? 私を誘ってるの?」
「はい、お姉さんを誘っています。お姉さん、僕の好みのタイプなんです」
「どうしようかなぁ…」
「食事だけでいいです。洒落た店を知ってるんですよ。それに、僕、男ばっかりの学校やから女性と食事に行くだけで幸せなんです」
「わかった。食事だけね」
「やった、成功した! さあ、行きましょう」
やっとOKをもらえたのは、夕方だった。
以前、一度だけ楓と行ったことのある店へ、その女性を連れて行った。その店の灯りは全て蝋燭。薄暗くて、テーブル毎にカーテンで仕切っているから2人きりのような気分を味わえる。テーブルの上にも、蝋燭の灯り。僕は、お姉さんになるべく飲ませた。僕はウーロン茶だったけれど。
お姉さんの名前は、詩音だった。
「詩音さんは、OLさんですか?」
「OLに見える? そうやで。崔君は学生?」
「世界を股にかけるビジネスマン」
「ここは、本当のことを言うてほしいねんけど」
「学生です」
「何学生? 大学生? 専門学校生?」
「苦学生です。これは本当です」
「そうなんや、まだ若いなぁ」
「でも、もうすぐ二十歳になりますから大人ですよ」
「私の歳、いくつやと思う?」
「23とか24くらいでしょ?」
「そう見えるんや」
「え? 違うんですか?」
「ううん、24やで」
「今日は、めっちゃ嬉しいですわ。詩音さんと出会えたから」
「誰でも良かったんとちゃうの?」
「そんなこと無いですよ。ちゃんと相手を見て、自分の好みの女性にしか声はかけませんから」
「私、崔君の好みなんや」
「そうなんです。ストライクゾーンのど真ん中なんです。僕、詩音さんの彼氏になりたいです」
「付き合っても、また街でナンパするんやろう?」
「しませんよ。なんで今日、僕がナンパしてたか? 彼女がいないからですよ」
「彼女がいたら、ナンパせえへんのや」
「彼女がいたら、ナンパする理由が無いでしょ? 今は新しい彼女を探してるんです」
「彼女といつ別れたん?」
「二ヶ月くらい前です」
「まだ、そんなに経ってへんやんか」
「最初の彼女に教えられたんです、“女性を忘れるには、新しい彼女をつくるのが一番ええ”って。だから、僕の心の隙間を埋めてくれる女性を探してるんです。燃え上がるように愛せる女性を」
「もし、私が崔君と付き合ったら、その心の隙間を埋められるかな?」
「きっと、埋まりますよ。そうなったら、僕はセ〇レとも別れます」
「セ〇レがいるんや」
「はい、僕と身体の相性がいいらしくて。でも、僕はセ〇レより彼女がほしいんです」
「セ〇レのいる若い男の子かぁ、なんか、興味が沸いてきたわ」
「本当ですか? 実は、この店の裏はホテルなんです。よかったら、僕と結ばれてみませんか?」
「ストレートやなぁ、でも、たまにはそういうのも悪くないかも。たまには、だけど」
「詩音さん! 今日は僕に抱かれてください」
「ええよ。じゃあ、ホテルへ行こうか」
「後悔はさせません。僕、全力で愛します」
僕と詩音は、ホテルに入った。
それは、とても幸せな時間だった。
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