第18話  崔は驚く!

 海の後、保奈美はコバ子と別の車で帰った。今度、いつ会えるだろう?


 僕等はまたギューギュー詰めの車で教習所まで送ってもらった。

 車の人口密度があまりにも高いので、停まるとスグに出て外の空気を吸う。英美子と繭も降りて来た。やっぱり深呼吸をしている。


 しばらく3人で話していたが、タカと素子とブーが降りて来ない。

 何かあったのか? と思って車の中を覗き込むと、なんとブーが号泣していた。


「タカさん、どないしたんですか? ブーが泣いてるんですけど」

「いや、ブーが俺のことを好きらしくて……ちょっと困ってるねん」

「え! ブーちゃん、大丈夫なん?」

「大丈夫じゃないよ。素子とタカが仲良くしているのを見ているのがツライよ」

「「「えー!」」」


 僕だけじゃなく、英美子も繭もビックリだった。ブーは自分の気持ちを友人にも隠していたらしい。


 素子は黙って俯いている。多分、気の利いた言葉が思い付かないのだろう。タカも何も言えない。気まずい。結果、英美子と繭と僕がブーを慰めたり励ましたりする。


 それでも、なかなかブーは泣き止まず、ようやくブーが泣き止んだとき、ブーの車のバッテリーが上がった。ダブルショックだった。


 車通りの少ない田舎道、数少ない車を僕が道路に出て止めて、バッテリーを充電してもらった。なんで僕がこんなに頑張らなきゃいけないのか? 僕はまだ美味しい思いをしていないというのに! 僕は納得がいかなかった。僕にも美味しい思いをさせてくれ!



 その日も、タカがブーの車で送られて帰って来た。ブーは復活していた。タカは、素子の初体験を奪って、お祝いパーティーをされて戻って来たのだ。僕も声をかけられたが行かなかった。祝福出来ないと思ったからだ。だが、保奈美には会いたかった。今にして思えば、行って、少しでも保奈美との距離を縮められたら良かった。


「ただいま。崔、元気か?」

「ああ、そっちはお楽しみだったんですよね?」

「うん。一発、決めてきたで」

「朝までお祝いパーティーっすか?」

「うん、『貫通パーティー』。みんなからお祝いされたわ。盛り上がったで-!」

「良かったですね、素子ちゃん、学校が始まったら京都で一人暮らしやからデートもしやすいでしょう? これからも付き合うんですよね?」

「うん、これからも付き合おうっていう話になってるけどな」

「あれ? なんか不満みたいですね。嫌なんですか?」

「正直に言うわ、俺は沢山の女の子を経験したいねん。せやから、1人の女の娘(こ)にあんまり束縛されたくないねん。俺、明日から教習所でまたナンパするから」

「なんや、単純に数をこなしたいだけですか。まあ、その気持ちもわかりますけど」

「まあ、わかってくれなくても仕方ないけど」

「ほな、素子ちゃんの処女も数の内ってことですか? それは酷だと思いますけどね」

「酷かもしれへんけど、まあ、そういうことや」

「……」

「俺をひどい奴やと思うか? 崔」

「思いますよ。けど、そんなタカさんを選んだのは素子ちゃんですからね」

「まあ、どう思われてもしゃあないけどな。俺は明日からまたナンパしまくるから」

「僕は保奈美ちゃん狙いで頑張りますわ」

「崔の方はどうなん? 上手くいってるんか?」

「厳しいですね。保奈美ちゃん、やたら僕の頭を撫でてくるんですよ」

「かわいがられてるやんか」

「弟としてね」

「まあ、そやろな」

「一度、弟認定されたら、なかなか弟から脱出できないので苦戦してますわ。ちょっと厳しそうです。真面目に付き合いたいんですけどね」

「まあ、そっちはそっちで頑張れや。俺は俺で頑張るから」

「はーい」



 その日、僕はブーの家にいたが、タカと素子は別行動、保奈美はバイトでいなかった。男が僕しかいないという、珍しい状況だった。だが、このメンバーなら普通に喋れる。僕の“女性と何を話したらいいのかわからない病”はどこに行ったのか?


「崔君!」


 英美子が少し真面目な顔で話しかけてきた。


「何? 急にマジになって。どないしたん?」

「崔君、本当に保奈美のことが好きなの? それとも冗談? どっち?」

「え? ずっと本気やけど。本気じゃないと思ってた?」

「だったら、そろそろマジの告白してみたらどう?」

「うーん、チャンスがあればと思ってるけど」

「何を言ってるのよ、もうすぐ大阪に帰るんでしょ?」

「でも、特急で1時間半くらいやから、また来るよ」

「こっちにいる間に告った方がいいと思うよ」

「そりゃあ、そうやけど。僕は弟扱いやから」

「告れ! 告れ!」


 繭が言った。


「今から、保奈美のバイト先へ行こうよ!」


 コバ子が言った。


「保奈美のバイト先まで送ってあげるよ!」


 ブーまで応援してくれた。ここで動かなければ男じゃない!


「ほな、頼む、連れて行ってくれ!」

「OK!」


 僕たちはブーの車に乗り込んだ。



「保奈美ちゃんのバイト先ってどこ?」

「海沿いの民宿」

「住み込みのバイトなん?」

「そうだよ」

「崔君、きっちり気持ちを伝えなきゃダメだよ」

「わかってる! 僕は本気なんやけど……」

「だけど?」

「さっきも言うたけど、保奈美ちゃん、いつも僕の頭を撫でたり、弟扱いされてるからマジな雰囲気では言い出しにくくて」

「告白しないからよ」

「前にも、弟扱いされて異性として相手にされなかったことがあるから、弟扱いにはトラウマがあるねん」

「告白したら、ちゃんと男として見てくれるよ、大丈夫だから」

「わかった!」


みんなから励まされながら、僕は次第に緊張してきた。


 車が止まった。車から降りる。


「え? どこ?」

「こっち、あんまり大きな声をだしたらダメだよ、こっちの離れに住み込んでるから。大きな声を出したら迷惑になるからね」



 離れを訪れた。

 僕は驚いた。いや、一緒にいた全員が驚いた。

 そこには、保奈美と見知らぬ男がいたのだ!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る