第47話  崔は救われる!

 ソフィアを失い、亜子との進展も無く、茜と詩音という2人のセ〇レ? の相手をしながら、爽子という訳のわからないポジションの女性とも会うという、現状を楽しめそうだが楽しめない、少し凹んだ日々を過ごしていると、久しぶりに倫子から誘われた。多分、その頃の僕の顔は死んでいたと思う。


「崔君」

「なんすか?」

「バイトの後、時間ある?」

「大丈夫ですよ」

「ほな、バイト終わったらまた食事に行こうや」

「いいっすよ-!」


 この前の店。


「元彼のことで相談があるんやけど」

「え! 今頃? 何か変化があったん?」

「うん、いきなり元彼から長文のメールが来たわ」

「ふーん、なんて書いてるの?」

「結論を言えば、ヨリを戻したいという内容やねん」

「ふーん、今頃? まあ、理由は想像できるけど。他には、なんて?」

「もう浮気はしない、暴力も振るわない、お前のことを一途に想い続ける。だから、俺にもう一度チャンスをくれ、って感じ」

「ほんで、どないすんの? 復縁? よりを戻すの?」

「うーん、どうしよう? 迷ってるねん」

「よりを戻したらどうなるかな? 想像してや」

「ほとぼりが冷めたら、また浮気と暴力を繰り返しそうな気がするねん」

「まあ、そやろな。僕もそう思うわ。それで? 断ったらどうなんの?」

「OKしてたらどうなってたかなぁ、って、ずっと思いそうで怖いねん」

「あのな、迷うって事は、どっちでもええってことやねん。どちらかに心が傾いていたら迷わへんわ。今、迷うようやったら、僕なら、元彼を無視して新しい恋愛に賭けるけどな。それじゃ、アカンの? 元彼が忘れられないの?」

「やっぱり、それがええんかなぁ、新しい恋に賭けるかぁ」

「そいつ、暴力も振るってたんやろう? 最悪やん。DVは、なかなか治らへんで」

「そうやなぁ。一緒にいるのが怖いときもあったからなぁ」

「多分、元彼は付き合ってる女性と別れたから連絡してきたんやと思うで。それで、女性がほしいから、メールを送って来たんやと思う」

「それ、私も思ってた」

「僕の師匠が言うてたで、“別れた恋人をを忘れるには、新しい恋をするのが1番”やってさ。僕も、そう思えるようになった。倫子さんもそうしたら?」

「新しい恋かぁ……考えてはいるんやけど……」

「お! 気になる男性が出来た?」

「気になる男性はいるんやけど」

「へえ、そうなんや。ほな、その人と付き合った方がええって」

「でも、私の片想いかもしれへんねん」

「片想いでもええから、ドーンとぶつかったらええねん。倫子さんならうまくいくわ」

「その人は、いつも寂しそうな目をしてるねん」

「倫子さんが寂しさを癒やしてあげたらええがな。相手は癒やしを求めてるんや」

「仕事中は、無理して笑うねん」

「接客業か? 営業か? まあ、人と接する仕事でも、笑顔でいるのがしんどい時もあるやろうなぁ、今の僕もそうやけど。僕も今、無理して笑ってるわ、ははは」

「でも、一人になるとまた寂しそうで、ギュッと抱き締めたくなるんやんか」

「抱き締めたったらええがな、きっとそいつも喜ぶわ。ええやん! ええ感じやんか」

「喜んでくれるかな? 抱き締めるのが私でも」

「おお、喜ぶ、喜ぶ、きっと喜ぶ。傷ついてる時は、癒やしが必要やねん」

「でも、その人は優しいねん。相談事があったら嫌がらず全部聞いてくれるねん」

「ええ感じやんか、相談しながら自然な流れでそのまま告白や! 告白や!」

「その人は、こうやって、相談に乗ってくれて、いつも私の味方をしてくれるねん」


 ちょっと待て! 倫子の好きなのは僕か? 僕なのか? 僕っぽいぞ! もう、僕だと仮定して会話を進めてみようか? いや、もし僕の事じゃなかったら、僕は“とんでもない勘違い野郎”に認定されてしまう。だが……勘違い野郎に認定されても、失う物は何も無い! 気まずくなったらバイトを辞めればいいだけだ。思い切って、僕は勝負に出た。弱キャラだった頃が嘘みたいだ。やっぱり、今の僕は“押す”ことが出来る。弱キャラだった頃は引いてばかりだったけれど。押せ! 崔!


「倫子さんの新しい恋人、僕じゃダメですか?」


 倫子は大きな目を見開き、それから涙を流した。


「待って、待ってや、なんで泣くの? 僕が悪いことを言ったのなら謝るから、泣かんといてや、ごめんごめん。泣くほど嫌やったんか?」

「違うねん、違うねん、嬉しいねん」

「嬉しい?」

「うん、ずっと崔君からのその言葉を待ってたから」

「ほな、僕と付き合ってくれるんか?」

「うん、勿論」

「ほな、これからよろしく」

「よろしく、崔君。かわいがってね。優しくしてや」

「ほな、賭けは成立せえへんかったなぁ」

「何の賭け?」

「どっちが先に恋人をつくるかって、賭けてたやんか」

「そやね、引き分けということで」

「あ、付き合うのは1週間後まで待ってくれる?」

「ええけど、どうしたん?」

「親しい女友達と縁を切ってくるから」

「そこまでせんでもええよ。友達やろ?」

「うーん、友達以上恋人未満みたいな感じって言ったら、嫌やろ? 気になるやろ?」

「それは気になるかも」

「そやろ? だから、縁を切る。1週間後、この店でまた会おうや。その時までに、女の子達と別れるから。それから正式に付き合おう」

「わかった。私、崔君を信じてるから」


 真面目なお付き合いをするなら、詩音、茜、爽子と別れなければならない。ソフィアと付き合っていた時は、別れはせず、ずっと誘いを断っていたのだ。それは、ソフィアが“いつ、どこに行くかわからない”という危うい雰囲気を出していたからで、僕は茜達をキープしていた。僕はずるい男だった。ソフィアにフラれた時に帰れる場所を残していたのだ。だが、倫子と真面目に付き合うとなると、身辺を整理しないと倫子に失礼だろう。僕はズルズル続いていた関係を全て終わらせる決心が出来た。



「ほな、1週間後」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る