第22話  崔は喜ぶ!

 次の土曜日。


「また来たで-!」

「だ・か・ら、来すぎやって。学生のバイト代なんてたかがしれてるやんか」

「まだまだ大丈夫、それに、月曜から金曜まで5日間も我慢したんやから許してや」

「まあ、来てしまったもんはしゃあないかぁ、いらっしゃい」


「あれ? 崔君、服は脱げへんの?」

「今日は脱がんでええで、お話しようや。靜香さんと話してると楽しいから」

「それでええの? せっかく高いお金を払ってるのに」

「別に、靜香さんの体を買ってるわけやなくて、靜香さんの時間を買ってるだけやんか。だから、しなくてもええやろ?」

「あんた、ええこと言うなぁ」

「でも、そうやろ? この90分は、靜香さんは僕の恋人。はい、CD。全部あげる」

「ありがとう。おぼえててくれてたんや。でも、Hせえへんのは申し訳無いわ」

「そやな、ほな、Hはせんでええけど、ちょっと膝枕してくれる?」

「そんなんでええの? ええで、膝枕くらい、お安い御用や」


 靜香と楽しい90分を過ごした。


「明日は来たらアカンで!」

「え? アカンの? っていうか、明日も来るつもりやったのがバレてた?」

「バレバレや。学生さんはお金を大切にしなさい。こっちが心配してしまうやろ」

「わかった。でも、次の土曜に来るのは許してや。週イチくらいならええやろ?」

「週イチでも多いと思うけど、とりあえず次の土日までは来たらアカンで」

「わかった。ほな、また来週」



「また来たで-!」

「うわ、やっぱり来たんや」

「そない嫌がらんといてえや、あ、今日も服は脱がんでええから」

「アカン、今日はするで。あんたはまだまだ経験値を上げた方がええねんから」

「うーん、そう言われたら断りはせえへんけど……、じゃあ、よろしく」


「めっちゃ上手くなったよ」

「ほんまに?」

「私、今日イカされたから。久しぶりにイッたわ。気持ちよかったぁ」

「え? こういう仕事してるのに、普段はイカないの?」

「普段は演技や。私は仕事と割り切ってるからなぁ。まあ、仕事でイケる子も多いけど。私は基本的に仕事は演技。演技やってバレたことは無いんやで、スゴイやろ?」

「ふーん、そうなんやぁ、プロやね。プライベートと区別出来るってスゴイと思うで」

「はい、これ」


 靜香がバッグから取りだした物を手渡された。ライブのチケットだった。


「何? このライブのチケットは? △△△△のライブやんか。来週の土曜日やね」

「崔君、一緒に行こう!」

「え? マジ? これってもしかしてデート? ええの? ほんまにええの?」

「○○駅で待ち合わせ。時間は、少し早めに5時くらいでええかな?」

「OK! OK! 念のため、僕の連絡先を教えておくわ」

「うん、教えて。私のも教えるから」


 僕は、靜香とお店以外で会えることになった。急展開に、僕はただ驚くだけだった。いや、驚くだけではなかった。次第に喜びがこみ上げて来た。



 ライブは楽しかった。というより、靜香と一緒にいられることが嬉しかった。静香と一緒にいられれば、場所はどこでも良かったのだ。靜香と一緒にいられる、しかもお店以外で会える、それで僕は満足だった。


 ライブの感想を熱く語り合いながら、食事をした。

 さて、そろそろ楽しい食事も終わりかなぁ…と思った時、静香が言った。


「崔君、もう帰る?」

「え? 帰る以外の選択肢が無いんちゃう? 帰る以外に何があるの?」

「私の家に来る? ここから近いんやけど。もう遅いから、泊まっていかへん?」

「そんなん、行くに決まってるやんか」

「全く迷いが無いんやね。もしかして、女の子やったら誰でもええとか?」

「ちゃうよ、相手が静香さんやからに決まってるやんか」

「でも、良かった。明日、私、ちょうど仕事は休みやからゆっくり出来るねん」

「ほな、行こか、静香さんの家に」

「近いから、タクシーで帰ろう。歩くのしんどいわ」


 1LDKのマンションだった。部屋は広めだ。


「あ、ギターがあるやんか、まだ弾いてるの?」

「長いこと弾いてへんから指が柔らかくなってしもたわ」

「今度、聞かせてや。でも、女の子の部屋に来たの初めてやから、なんか照れるわ」

「ほんまや、ちょっと顔が赤いで。初めてお店に来たときみたいや」

「嘘! 初めてお店に行ったとき、僕の顔が赤くなってた?」

「うん、真っ赤やったで。かわいかったわ」

「なんか、今頃恥ずかしくなってきた」

「そんなことより、こっちにおいでや。ほら、ベッドにおいでや」

「え? もしかして、抱いてもいいの?」

「っていうか、抱いて欲しい。お店以外のプライベートで抱いて欲しいねん」


 その夜、僕等は遅くまで求め合った。


 目が覚めたら、昼だった。朝方まで起きていたから仕方がないが、静香は先に起きていたようでコーヒーを飲んでいた。


「あ、目が覚めた?」

「うん、おはよ。ごめん、僕だけタップリ寝てしまった。起こしてくれても良かったのに」

「ゆっくり寝て欲しかったから、これでええねん。はい、これあげる」


 静香から渡されたのは鍵だった。


「何これ?」

「この部屋の合い鍵。あげる。いつ来てもええよ」

「え? ええの? どうして僕なんかに?」

「崔君、私と付き合ってや。私、崔君に惚れてしもた。私は崔君の彼女になりたい」

「マジ? 勿論OK! これからもよろしくお願いします」

「また堅苦しくなってるで。あ、それから、もう静香って呼ばんといて。私の名前は楓やから」

「わかった。これからは楓って呼ぶから」

「出来るだけでええから、この部屋に来てほしい。アカンかな?」

「そんなん、来るに決まってるやんか!」



 その日、僕に初めて彼女が出来た。







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