第21話  崔は惚れる!

「よろしくお願いします-!」

「あ、はい、よろしくお願いします」

「こちらへどうぞ」


 手を繋がれて、静香についていく。手が汗ばむのがわかる。緊張しているのがバレる! これは恥ずかしい。


「この部屋です。座って楽にしてくださいね」

「はい! 失礼します」

「失礼しますって、なんか堅苦しいですね」


 静香に笑われた。まあ、嫌味の無い笑顔で良かった。


「この店は初めてですかー?」

「というよりも、全てが初めてです」

「え? 全てって? どういうこと?」

「風俗に来るのも初めてやし、Hするのも初めてです」

「え? 初体験の相手は私でええの? なんか私が相手で申し訳無いわぁ」

「いやいや、静香さん、僕の理想のタイプなんで、初めてが静香さんで嬉しいです」

「そうなん? 本当に? まあ、それなら良かった。何か飲む?」

「ブラックのコーヒーありますか?」

「あるよ、はい」

「ありがとうございます」

「なあ、敬語やめてくれへん?」

「いや、静香さんの方が年上やと思いますし」

「そんなに変わらへんやろ? 今、私、普通に喋ってるやん」

「ほな、なるべく敬語を使わんようにするわ」

「そうそう、気楽にしてや、緊張し過ぎやで」

「だって、キスもしたこと無いし」


 僕の唇が、静香の唇で塞がれた。長いキス。僕は呼吸も止めていた。

 静香の唇が離れたとき、僕は慌てて息を吸いこんだ。


「キスしながらでも息はしてもええんやで」

「そうなんや、ああ、ビックリした。キスって無呼吸かと思ってた」

「でも、ほら、もうキスはしたやろ」

「あ! ほんまや」

「緊張し過ぎやねん。まあ、スグに慣れるわ。でも、なんで今まで初体験が出来へんかったんかなぁ?」

「それは、単純にモテへんからやと思うんやけど」

「嘘! 彼女いてそうに見えるで」

「よく言われるけど、女の子と付き合ったこと無いで、マジで!」

「ちゃんとアタックしてきた? 待ってたらアカンで」

「学校が男ばっかりで、バイト先の先輩を好きになったんやけど弟扱いされて男として見てもらえなくて、3人紹介してもらったけど3連敗で、また1つ年上の女性を好きになったんやけど、モタモタしてたら他の男と付き合い始めた。で、今に至ります。要するに、僕は誰からも選んでもらえなかったんや」

「要するに、ついてなかったんやな」

「いや、モテへんからやろ。好きになっても弟扱いされるし」

「弟扱いされるのは、見たらわかる。私も今、弟みたいやなぁって思ってたもん」

「やっぱり-! 僕は男として見てもらわれへんのかあああ!」

「大丈夫、これから変われるから」

「ほんまに?」

「私が変えてあげるから。じゃあ、お風呂に入ろうか、服脱ごうや」


 静香も服を脱ぎ始めた。僕の初体験が、いよいよ始まる。



 それは、とてもとても幸せな時間だった。



「楽しかったわ、また来てや」

「うん、また来る! 絶対に来る!」


 僕は、最高の笑顔で手を振った。



 翌日の日曜日。


「約束通り、また来たで」

「早っ! 昨日来たところやんか」

「また来るって約束したやんか、僕、約束は守るねん」

「あんた、まだ学生やろ? お金無くなるで」

「大丈夫、ずっとバイトしてるし、貯金もあるし」

「でも、無理はしたらアカンで」

「まあ、ええやんか、今日もよろしく」

「まあ、崔君やったら歓迎やけど」


 プレイの後、ベッドの上で静香と話すのが楽しい。


「昨日よりも、だいぶ上手くなってるで」

「ほんまに?」

「うん、もう自信を持ってもええで」

「早いな! これも静香さんのおかげやな、おおきに」

「童貞を捨てて、一気に気分は変わったやろ?」

「うん、1日でだいぶ変わった。全て静香さんのおかげやわ」

「そう言ってもらえて良かった。童貞の相手をするのも珍しいからなぁ」

「静香さんってさぁ」

「何?」

「どんな音楽を聴くの?」

「いきなり音楽の話? 私はマニアックやで。〇〇〇〇っていうバンドとか。どうせ知らんやろうけど」

「京都のバンドやろ?」

「え? 知ってるの? そうやねん。私、地元が京都やから、よくライブに行ったわ」

「CD全部持ってる。今度、持ってくるわ」

「え? CD持ってるの? インディーズじゃなかった? ほんまに好きやねんなぁ」

「僕は、最近は△△△△ばっかり聞いてる。CD全部持ってるわ」

「私も好き!気が合うなぁ。私、高校の時にバンド組んでてん。ギター弾いてた。崔君は? バンドとかやってそうやけど」

「僕もバンド組んでた。って言うても文化祭バンドやったから、ライブハウスとかではやったこと無いけど。僕はベースやったわ。低音が好きやねん。ドラムと合わせづらくて苦労したわ。僕、下手やったし」

「なんかええなぁ、崔君って。一緒にいて、すごく落ち着くわ、楽しいし」

「僕は、静香さんと一緒にいると嬉しくてウキウキしてしまうわ」

「おっと、風俗嬢に惚れたらアカンで。遊ぶ場所で本気になったらアカン!」

「もう遅いわ。とっくに惚れてるから」


 僕は静香にキスされた。長いキスの後、靜香が言った。


「私、基本的に仕事ではキスせえへんねんで」

「僕って、ちょっと特別なん?」

「かなりの特別待遇やで」



 今度は、僕の方からキスをした。







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