第20話  崔は行動する!

「……って、感じやったわ-!」

「何それ? ただの良い人やんか、そんなことで喜んで、アホちゃう?」

「そうかもしれへんけど、好きな女性を守ったんやで、褒めてくれてもええやんか」

「褒めへんわ。結局、その好きな女性はゴリラのものになったんやろ?」

「う! それを言われるとツライ……」

「好きな女性を助けたって、そんなことで喜んでどないするねん!」


 亜子から電話があると、必ず叱られる。


「結局、合宿も収穫無しやったんやね?」

「収穫はあったで、膝枕を経験したし、乳も揉んだわ!」

「そんなことで喜ぶな! ガキか?」

「はい、すみません」

「うーん、悪質やけど、崔君は少しタカさんを見習った方がええよ」

「え! そうなん? あんなクズを見習うの?」

「そうじゃないと、ずっと“ただの良い人”で終わってしまうやろ。タカさんは、ヒドイ人やけど、結果を出してることは認めなアカン」


 亜子には、いつも何も言い返せない。



 そんな亜子から、いつもと違う緊張感のある電話がかかってきた。


「今日は何? 僕の方は今何も進展が無いけど……」

「ちゃうねん、ちゃうねん、今日はちょっとお願いがあるねん」

「何? なんか真剣な話っぽいけど、どうしたん?」

「真剣な話やで。あのな、私の彼氏の家に電話してほしいねん」

「なんで? 僕が? え! 意味がわからん」

「長い間、連絡が無いねん。私、もう我慢の限界で……。彼氏の家に電話して、私に連絡するように伝えて! お願い! 崔君!」

「そんなん、自分で電話したらええやんか」 

「出来へんねん。相手は30歳の妻子持ちやって言うたやろ? 奥さんが電話に出たらマズイやろ?」


 携帯電話が普及する直前のことだった。電話といえば家電、そんな時代。


「うーん、ごめん、断る!」

「えー! マジで? なんで?」

「うーん、ごめん、関わりたくない」

「お願い! 崔君しかおらへんねん」

「嫌や-!」

「ほな、一回だけ、崔君と一緒にホテルに行ってもええから」

「電話します!」


「あ、もしもし。崔と申します。大悟さんをお願いします」

「もしもし、お電話代わりました、大悟ですけど」

「あ、僕、亜子ちゃんの友達なんです。亜子ちゃんが連絡して欲しいって言ってます。そのことを伝えてくれと言われて電話しただけです。ほな、さいなら」

「あ、ありがとうございます、すみません」


 電話を待っていた。かかってきた。亜子だ!


「はい、もしもし、彼氏の方はどうやった?」

「ありがとう、もう、スッカリ仲直り。またラブラブになれたわ」

「それは良かった。じゃあ、ご褒美のホテルはいつ行く? 早い方がええんやけど」

「ごめん、彼氏と仲直りしちゃったからホテルに行けない! 本当にごめんね!」

「え! マジ? マジで言うてる?」

「今度、食事でもご馳走するから」

「いらんわ!」

「手作りのお弁当を持って行くから」

「いただきます!」



 なんてことをしていたら、高校を卒業してしまった! 高校生の間に彼女を作る、入学したときに抱いていた野望はどうなったんだ? なんでこんなことになってしまったのだあああ! 進学してしまったではないか。Oh! 進学しても、理工系だから男だらけだ。僕はどうしたらいいんだあああああ? 僕は猛烈に悩み、苦しみ、考えた。そして、結論は出た。


 “風俗へ行こう!”


 僕は決めた。19歳の誕生日が迫っている。しょうがないので風俗へ行くことに決めた。そんなに慌てなくてもいいのではないか? と思われるかもしれないが、当時の僕は、どうしても“初体験は18歳””と言えるようになりたかったのだ。


 この日のために、兄からもらっていたお金を使う。兄には以前から“風俗へ行け”と言われ、風俗代をもらっていたのだ。どの店がいいかなどわからないので、兄から勧められた店に行った。5月5日に店に行った。“こどもの日に大人になる!”インパクトがあるから、これで人生の記念日を忘れずにすむだろう。その日は土曜日だった。僕は、あえて真っ昼間に堂々と風俗店に入った。

 

「いらっしゃいませ、今日はお1人ですか?」 

「あ、はい、1人です。」

「失礼ですが、お名前は?」

「崔です」

「ご指名はございますか? ありませんか?」

「無いです。今日、初めて来たので」

「ご来店ありがとうございます。こちらへは何を見て来られましたか? 雑誌ですか?」

「いえ、知人からすすめられました」

「さようでございましたか、お客様、お好みのタイプはございますか?」

「どちらかというと、細身の子が好きです。ぽっちゃりさんは苦手です」

「わかりました。今日は何分コースでしょうか?」

「あ、何分のコースがあるんですか? 知らなくて」

「通常コースでですと、60分、75分、90分のコースがございます。追加料金をいただいてよろしければ、90分以上も可能です」

「あ、じゃあ、今回は無難に90分でお願いします」

「わかりました、お掛けになってお待ちください」


 待合室のソファに座る。僕の他には、オッサンが2人。真っ昼間に来て良かった。空いているようだ。だが、堂々としていたのはここまで!


 緊張する! どうしよう? 胃が痛い。


 どんな女性が僕の初めての相手になるのだろう? 期待も不安も膨らむ。待ち時間が異様に長く感じる。初めては僕好みの美人がいい。そう願うのは都合が良すぎるのだろうか? だが、初体験は大切だ。お願い! 素敵な女性でありますように。


 そして、呼ばれた。


「崔様、お待たせしました」


 店員さんに招かれてついていく。


「静香です。よろしくお願いします」



 笑顔の女性が待っていた。

 どうしよう? 待っていたのはストライクゾーンのど真ん中、僕の理想の女性だった。この女性と初体験? これは幸せ過ぎるだろう? 嬉しさと驚きで引いた。







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