第8話 崔は武者修行!
1週間後、また亜子から電話があった。僕は、多少の自信を持って電話に出た。
「崔君、1週間経ったけど、どう? 課題はクリア出来たやろね?」
「うん、ちゃんと3人に1日に2回ずつ話しかけたで」
「おお、マジ? で、どんな風に? まさかまた天気の話とちゃうやろなぁ? 天気の話やったら電話を切るで」
「え? うーん、例えば“趣味は何ですか?”とかやけど」
「おー! ええ感じやんか! ちゃんと出来てるやん、ほんで? ほんで?」
「よく映画を見るって言ってた。映画館でも観るし、レンタルでも観るらしいわ」
「ほんで?」
「“どんな映画が好きですか?”って聞いてみた」
「おお、いい感じ、いい感じ、それで?」
「〇〇〇〇って言ってた」
「それで?」
「え? “それで?”って、どういうこと? もう、これ以上は無いよ。映画の好みがわかればええんとちゃうの? 相手を知るって、こういうことの積み重ねやろ?」
「いやいや、その後の会話は?」
「え? “あ、そうなんですか”って言ったけど。そこで話は終わりやろ? あれ? 僕、また何か間違った? 間違ってるの? 間違ってへんやろ?」
「何それ、ちょっと、マジ? 崔君、それはアカンで。ありえへんわ。期待外れやわ。ああ、期待した私がアホやったわ。こんなことから始めないとアカンのか」
「え? なんで? 何が悪かったの? そんなに悪いの?」
「信じられへん、それやったら、そこで会話が終わってしまったやろ?」
「うん、終わったで。え、アカンの? これ以上、続けられる? どうやっても続けられへんやろ? じゃあ、どう続けるべきやったか、言うてや」
「その〇〇〇〇の話で会話は膨らむはずやで」
「え! 僕、〇〇〇〇観てへんで。観てたら何か話せるけど、観てないんやもん。観てないのに何を話したらええの? 無理やろ? そう思わへん? 違うの?」
「観てへんのやったら、“どんな映画なんですか?”とか、“どんなところがいいんですか?”とか、相手に聞いたらええやんか! そうやって会話は膨らむんやで。もう、信じられへんわ、しっかりしてや、崔君のアホ! こんなのは会話の基本やんか! もっと相手に興味を持ちなさい!」
また“アホ”と言われてしまった。女子からこれを言われると、少々凹んでしまう。しかも身長150センチ、小柄で小顔のカワイイ系の亜子に言われるのだから、より一層凹んでしまう。だが、今の僕には凹んでいる暇は無い!
「あ、ほんまやなぁ、しまった。ほな、僕、勿体ないことしてたんやなぁ」
「崔君、話を膨らませるなら、いろんな話をするんやなくて、1つの話題で盛り上がらなアカンで。そんなんやったら、付き合えるチャンスがあっても逃してしまうわ」
「ごめん、反省するわ。でも、次からはもっと上手く話せるかも」
「他には?」
「え、他って?」
「他には、どんな会話をしたん?」
「ああ……普通に“休みの日は何をしてるんですか?”って聞いたんやけど」
「あ、それ大事かも。それは、ええ質問やで。ほんで?」
「でも、3人とも、デートって言うてたで」
「それで?」
「え? 彼氏がいるアピールやで! ガードされてるんとちゃうの? それを言われたら、もう何も言われへんやんか。身を引いたわ。普通、諦めるやろ?」
「何を言うてんの? この前、言うたやんか、彼氏がいても引いたらアカンって。私なんか、奥さんと子供がいても引かずに攻めてるんやで。私を見習いなさい!」
「そう言われるとツライわ……でも……3人とも僕より年上やし、モテそうやし、僕なんかが口説いてもアッサリ断られると思うねん。だから、女性と仲良くなる練習の相手やと思ってるんやけど。要するに、リハビリみたいな感じ? 違うの? これ本番? 僕はマジで彼氏のいる3人にアタックせなアカンの?」
「当たり前やろ? そんなん、アタックしてみないとわからへんやんか」
「そうかなぁ……っていうか、よく考えたら、僕、亜子にもフラれてるやんか」
「だって、私は好きな人がいるから」
「たった今、彼氏がいても引いたらアカンって言うたくせに」
「私は……だって、将来は結婚しようって言われてるもん。普通の交際とは違うねん。だから、彼氏は婚約者。婚約者がいたら、浮気なんか出来へんやろ?」
「そうなん? そんな深い関係なん? 結婚を約束してたんや? それは初耳やで」
「うん、もう婚約してるねん。あんまり言いたくなかったけど」
「なんや、そこまで話が進んでるんかいな、はあ、さすが亜子師匠やなぁ」
「友達にも言うてへんねん。前にも言うたけど、高校生で不倫してるって言いにくいやろ? 崔君、このことは内緒やで! 中橋君にも言ったらアカンで」
「うん。勿論、誰にも話さへんよ。でも、亜子はすごいなぁ。いつも感心させられるわ。僕から見れば、亜子はもう異次元の存在やわ。亜子、もうかなり大人やんか」
「私は卒業したら短大に行くつもりやねんけど、短大を卒業すると同時に結婚する予定やねん。彼氏は今、奥さんに払う慰謝料を貯金してるんやって」
「ふーん、僕なんかよりも遙かに上の階段を上ってるんやなぁ。もうすっかり大人って感じやね。もう、ただただ感心するわ。亜子はスゴイ! としか言いようがない」
「もう、話が脱線したやんか。もう、私のことはええねん、次の課題は、1日に2回ずつ3人に仕事以外のことで会話して、今度は話題を膨らませること。あ、レンタルで〇〇〇〇を見たらええんとちゃうかな? “〇〇〇〇、観ましたよ-! 良かったです-!”って会話が出来るやんか。そういう努力もせなアカンで。大丈夫、努力は絶対に報われるから」
「うん、わかった、そうする。亜子からすれば僕は焦れったいかもしれへんけど、僕なりに頑張ってみるわ」
「しっかりしてや、私の彼氏なんか、嘘っぽく聞こえるくらい口が上手いんやで」
「そりゃあ、イケメンの30歳と比べられたら僕なんか未熟者で当然やで。比べる相手とちゃうやろ」
「あれ? なんでイケメンって思うん?」
「え、イメージやけど。亜子の相手はイケメンとちゃうの?」
「いや、イケメンやで」
「どないやねん! ほな、最初から認めたらええやんか」
「いやぁ、私って面食いやと思われてるのかな? と思って聞いただけやねんけど」
「思われてるんとちゃうか? 僕はずっと亜子はイケメンが好きやと思ってたもん」
「でも、崔君もブサイクではないやんか」
「ああ、イケメンとは言ってくれへんのやな」
「そんなことはええねん、崔君がすべきことは会話や! トークや! 来週でもう1歩前進や! 1つの話を膨らませること! 頑張れ-!」
「わかった、いつもありがとう」
「あ、崔君が本当に女性陣に聞きたいことって何? 本当に聞きたいことを聞くのもありやと思うで。興味があることの方が会話も盛り上がりやすいし」
「うーん、胸! 何カップか? とか……まあ、アカンわな。興味はあるけど」
「アホか! もう、これやから童貞は……」
「こらこら、童貞とか言わないように!」
「童貞を捨てたかったら、早く彼女を作りなさい-! 今は努力あるのみやで!」
「あ!」
「何?」
「亜子は何カップ?」
「アホ! ……Dや」
「うおおお! 亜子師匠に一生ついていきます」
「アホ」
亜子は厳しい師匠だったが、僕がダメな弟子だったのだと思う。この頃の僕は本当に最悪で最低だった。
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