第6話 崔は紹介され続ける!
さあ、デートの日。僕は気合いを入れた。朝からテーマパークに行った。全員分のフリーパスを僕が買った。僕は、ファミレスのバイトをやめ、ビルの掃除のバイトをしていたのだ。女っ気は無い(高齢者が多い)が、稼げるバイトだった。バイトしても、服を買うくらいだから、お金ならある。こういう時に、お金を使わないでどこで使えというのか? 僕はデート代を惜しまなかった。
テーマパークは、デートの場としては最適だと思った。トークが盛り上がらなくても、アトラクションが皆を盛り上げてくれる。
今回、紹介してもらったのは小夏。確かに、スタイルがいい。身長は160に足りないくらいだが、出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいる。ナイスバディーだった。顔も綺麗だと思う。だが、僕は小夏よりも中橋の彼女の彩香の方が顔は好みだった。
だが! もしも小夏が付き合ってくれるなら、僕は全力で大切にする。
アトラクションを楽しんだ後、そのアトラクションを話題に出来る。なんと会話が楽なのだろう! “女性と何を話したら良いのかわからない病”の僕でも通用する空間だ。テーマパーク万歳!
だが、僕は気付いていた。小夏との距離が遠いことに。小夏は僕に気を遣ってくれて、自分から話しかけてくれるのだが、何故か? 距離を感じた。僕は、そういうことには敏感だ。多分、小夏は僕を選ばない。
僕は、今回も断られるという予感がした。
その日は、テーマパークを出た後で、またファミレスで食事をして解散した。僕は、前回よりは少しだけ話に入れるようになった。僕は自分の成長、進歩を感じた。だけど、不安は拭えない。ちなみに、夕食は全部僕が支払った。
そして、解散。自宅で中橋からの。電話を待つ。
待っている時間は長く感じる。待ちくたびれた頃、中橋から電話があった。
「中橋、電話待ってたで!」
「崔、今日の紹介の件やねんけど……」
「アカンかったやろ?」
「なんで、わかったんや? 俺は今回はいけると思ったけど」
「話してて、なんとなく雰囲気でわかった。会話を合わせてくれてたけど、線を引かれているのを感じたんや。近くにいるのに、遠くにいるように感じたわ」
「ほんでなぁ、今回アカンかった理由なんやけど」
「うん、それが聞きたい」
「好みのタイプじゃなかったらしいわ」
「だ・か・ら、それってどうしようもないやんか」
「うん、どうしようもないな。更に、元彼のことを忘れられないらしい」
「アカンやん。でも、チャンスをくれた中橋には感謝してるで、おおきに」
「待て待て! 話には続きがあるねん!」
「ん? 何?」
「また紹介できることになったんや」
「マジか? 3連発やないか」
「おう、もうセッティングは出来てるねん。日曜に出動や。出動やねんけどな」
「何? なんかあるんか?」
「その娘(こ)が、“テーマパークに行きたい”って言うてるねん」
「うん、ええやんか」
「それやと、また崔に金を使わせるやろ?」
「大丈夫や、ずっとバイトしてたから金はあるねん。デート代は惜しまへんで」
「そうか、ほな、またテーマパークに行こう!」
「おう、ほな、よろしく」
3度目の紹介。今回は、途中で2人きりにされた。今回の相手は亜子。小柄でかわいい。顔だけで言うなら、今までの紹介の中で1番僕の好みだった。小柄で小顔で華奢だが胸はある! そういうところは、僕はチェックを怠らなかった。
「崔君、私、崔君に言わなアカンことがあるんやけど」
「ん? 何? なんか悪い予感がするんやけど」
「ごめん、私、崔君と付き合われへんねん?」
「あ、予想通りの言葉やわ。で? 理由は? 僕が好みのタイプじゃないからか?」
「そんなこととちゃうねん、私、今、付き合ってる男性(ひと)がいるねん」
「え、どういうこと?」
「まだ彩香達にも言うてないねん。相手、30歳の妻子持ちやから。この歳で不倫してるって、友達にも言いにくいやろ? だから彩香達には内緒やで」
「なるほど。でも、それなら今日は断ったら良かったやんか」
「一応、みんなには彼氏がいないって言うてるし。女子には女子の付き合いっていうものがあるから、誘われた時に断られへんかってん」
「ふーん、ほな、亜子ちゃんとは今日でお別れやな」
「友達としてやったら、時々会ったり電話してもええで。崔君、女の娘にもっと慣れなアカンやろ? 私が練習台になってあげるで。アドバイスもしてあげられると思うし。女子目線で」
「そうなん? それは助かるわ。ほな、師匠と呼ぶわ。これからよろしく」
「うん、師匠と呼んでや。ほな、よろしく。これも何かの縁やからなぁ」
僕達は握手した。
「崔、残念やったなぁ、またカップル成立しなくて」
「ええよ、3回もチャンスを貰ったんやから、僕はもう満足や」
「いや、こうなったら意地でも崔の彼女を俺が作る!」
「いやいや、気持ちは嬉しいけど、3連敗はさすがに心が折れたわ。もうええわ、ありがと、もう満足やねん。やれるだけのことはやったし」
「ほんまにええんか?」
「うん、おおきに」
「そうか、まあ、崔がそう言うなら仕方ないな。ほな、またな」
「うん、またな」
開幕3連敗。真亜子も含めたら4連敗。僕は、開幕から連敗した投手の気持ちがわかったような気がした。もう、勝てる気がしない。僕の心は折れてしまった。何か、流れを変える“きっかけ”が僕には必要だった。
だから、僕は亜子のアドバイス通り、掃除のバイト以外に、アイスクリーム屋のバイトも掛け持ちすることにした。また年上ばかりだが、女性が多いからだった。まずは、もっと女性に慣れないといけない! 僕は亜子に指導してもらえることになった。師匠を得て、これからが『彼女獲得』への修行の始まりなのだ!
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