第5話  崔は紹介される!

 僕は、珍しくおとなしくしばらく過ごした。いつの間にか、高校2年生になっていた。しかも、季節はもう秋。冬が近い。真亜子と会わなくなってもうすぐ1年が過ぎようというのに、未練がましい僕は、まだ真亜子への想いを引きずっていた。


 そんな時、自宅の最寄り駅で中学時代の知人、中橋と再会した。


「おう、崔やんけ。久しぶりやな」

「おお、久しぶりやな。ギター担いで、相変わらず中橋はカッコええなぁ」

「おう、まだバンドやってるねん」

「バンドかぁ、やっぱり中橋はカッコええなぁ」

「崔は、もうベースはやってないんか?」

「ぼちぼちや、家で弾く程度やな。僕は下手くそやから」

「今、時々ライブハウスでライブやってるねん。来るか?」

「それは、やめとくわ。ごめんやけど。そうかぁ、中橋はライブハウスでやってるんやぁ、めちゃくちゃカッコええなぁ」

「ところで、崔、なんか元気が無いなぁ、何かあったんか?」

「バイト先で好きな女性がいたんやけど、フラれたんや」

「告白したんか?」

「してへんよ。告白する前に、その女性は他の男と付き合い始めた。戦わずして負けた。1つ年上の女性で、めっちゃくちゃ好きやったんやけど」

「ほな、彼女をつくったらええやんけ。彼女ができたら、前に好きやった女なんかスグに忘れられるで」

「そう簡単に言うなや、男ばっかりの学校やのに、そんなに簡単に彼女なんかできへんわ。今はバイト先での出会いも無いし」

「でも、俺も男子校やけど彼女おるで」

「それは、中橋がイケメンで、しかもバンドやっててカッコええからやろ?」

「わかった! ほな、俺が女の娘(こ)を紹介したるわ」

「え? ええんか?」

「おう、セッティング出来たら連絡するわ」

「ほんまにええんか? なんか、悪いなぁ、でも、無理せんでもええで」

「大丈夫や、俺の彼女は女子校やから、彼氏のいない女の娘は沢山おるねん」

「そうか、ほな、迷惑じゃなければ頼むわ」

「おう! 任せとけ」


 その晩、早速、中橋から電話があった。次の日曜、女の子を紹介してもらえることになった。まさに棚からぼた餅。思いがけない急展開だけど、せっかく貰ったチャンスだ。頑張ろうと思った。



 その女の子は、身長165センチくらいのスレンダーな女性だった。名前は優美。顔はというと……第一印象、“普通!”だった。ブサイクでもないし美人でもない。つい、真亜子と比較してしまう。真亜子と比べると劣る。だが、もしも僕と付き合ってくれるなら、僕は必ず優美を大切にする!


 その日は、午後からアイススケート場でデートだった。僕は、一応、滑れる。だけど、止まり方はわからない。自己紹介がそれぞれ終わると、みんな自由に滑り始めた。ここで大切なのは、優美との会話だ。僕は、“女の娘と何を話したらいいのかわからない病”だったが、だからといって、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。とにかく会話をしようと、僕は必死だった。


 それで、優美に話しかけようとすると、なんと、優美が逃げる。中橋の彼女の彩香にピッタリとくっついて離れない。ちなみに彩香はキレイだしかわいい。胸は無さそうだが、スレンダーで、そこそこ背もあってカッコイイ。魅力的な女性だった。


 “優美ちゃんは紹介される気があるのか?”


 結果、僕は中橋と滑った。“なんだ、これは?”。


「なあ、中橋」

「なんや、崔?」

「これ、どういうことなん?」

「いやぁ、俺もまさかこんな展開になるとは思わへんかったわ」

「なんなん? 優美ちゃん、男を紹介される気あるんか?」

「俺に聞くなや、まあ、この後で晩飯食べるから、その時に会話してくれや」

「はあ、晩飯ねぇ」


 僕は、


「足が痛い」


と言って、ベンチで休むことにした。これ以上、心を削られるのはツライ。僕が見ていると、3人で仲良く滑っていた。僕なんか、いない方がいいんじゃないのか?



 そして、夕食。ファミレスで食事をした。楽しく会話した。僕以外の3人は……。僕は会話に入れず、ずっと黙っていた。やがて解散となった。僕は、全員の食事代を払って帰った。今回、絶対に優美からのOKはもらえないという自信があった。



 その晩、中橋から電話があった。


「崔、今日の紹介の件やねんけど」

「うん」

「アカンかったわ」

「そやろなぁ、あれでOKやったらビックリやわ」

「ほんで、なんでアカンかったか? その理由なんやけど」

「うん、理由は知りたい」

「好みのタイプじゃなかったらしいわ」

「そんなん、僕の努力でどうにかなるようなもんとちゃうやんか」

「そやねん」

「整形か? 僕が整形したらええんか?」

「まあ、落ち着けや。そういうこともあるやろう」

「そやけど、ありがとう、中橋には感謝してるわ」

「まあ待てや、崔」

「何?」

「まだチャンスはあるから」

「どういうこと?」

「紹介、第2弾や」

「え! そんなことあるの?」

「もうセッティングは出来てる! 来週の日曜、出動や」

「こんどはどんな娘なん?」

「かわいいで。俺の知ってる娘やねん。俺の彼女よりええで」

「中橋の彼女、彩香ちゃん、めっちゃキレイでかわいいやんか。スタイルもええし」

「そうなんかな? 俺は今度崔に紹介する娘の方がええけど」

「そんなに素敵な娘なん?」

「うん、めっちゃスタイルがええねん。胸も大きいで。俺の彼女は胸が小さいけど」

「そんなこと言うたらかわいそうやで、彩香ちゃんは魅力的な女の娘やんか」

「まあ、ええわ。とにかく、日曜は出動や。今度はテーマパークやで」

「わかった!」



 棚からぼた餅の第2弾、思いがけず、2回目のチャンスを貰えることになった。せっかくのチャンスだ、僕はもっと頑張らないといけない。結果を出さないと、中橋にも申し訳無い。僕は気合いを入れてデートの日を待った。







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