第4話 崔は焦がれる!
例え真亜子に男として見てもらえないとしても、例え“弟みたい!”と言われたとしても、僕は真亜子を側で見つめ続けていたかった。真亜子の顔、笑顔を見たい! 真亜子と一緒にいたい! 僕は今まで通りバイトを続けた。変わらない日常。真亜子にいじられ、安田にいじられ、真亜子の笑顔がある。この日常が、ずっと続いてほしかった。
ということで、真亜子との時間を僕はまだ楽しんでいたのだが、その日は突然訪れた。
「崔、知ってるか?」
「何を?」
「新田さんと三田村さん、付き合い始めたらしいで」
「嘘! マジか?」
「マジや、残念やったな、崔」
「残念やったなって言いつつ、ごっつ楽しそうやな」
「だって、俺より先に崔に彼女が出来たら悔しいやんか」
「安田は応援してくれてたんとちゃうんか?」
「応援したやんけ。チャンスは与えたやろ」
「確かに……チャンスはもらった。活かされへんかったけど」
「そやろ、俺が出来ることはやったで」
「ええなぁ、三田村さん。今頃、幸せの絶頂なんやろなぁ」
「そうでもないらしいで」
「え! どういうこと?」
「新田さん、三田村さんの好きなタイプじゃないらしいわ」
「ほな、なんで付き合うねん」
「告られて、今、好きな女性(ひと)がおらんから、とりあえず付き合ってみることにしたって言うてたわ」
「なんやねん、それ。そんなノリで付き合ったら、新田さんがかわいそうやんか」
「そんなん、俺に言うなや。三田村さんに言え。本人には言われへんやろけど。せやけどな、新田さんも、好きな男と付き合えるんやからええやんか。崔は、新田さんが幸せやったらええんやろ?」
「そんな……僕は納得できへんわ」
「みんながみんな、崔と同じではないねん。俺も、新田さんは美人やと思うけど、好みか? と聞かれたら好みのタイプとちゃうからなぁ」
「ほな、安田はバイト先で誰が好きなん?」
「三浦さん。俺は三浦さんが大好きや」
「あ、確かに。ほんまや、三浦さんのこと美人やと思うけど、僕の好みとちゃうわ。ああ、こういうことなんやな」
「そうそう、そんな感じ。三田村さんの気持ち、わかったやろ?」
「わかりたくないけど、わかってしまった。っていうか安田、三浦さんにアタックしてみたら?」
「アカンねん、三浦さんには彼氏がおるねん」
「そうか。でもな、やっぱり僕にとっては新田さんがこの世で1番の美人で、この世で1番素敵な女性なんや。その気持ちもわかってくれるやろ?」
「あのな、三田村さんは麗子さんのことが好きやったみたいやわ」
麗子さんというのは、前回名前が出て来た女性。バイト先で1番人気の女性で、女子大生だ。でも、相沢さんという(同じファミレスのバイトの)イケメン大学生と付き合っている。
「そういうことか」
「そういうことやねん」
「麗子さんと三田村さんやったら、安田と三浦さんみたいな雰囲気やな」
「そういうこと。気持ちはわかるやろ?」
「ほな、まあ、しゃあないな。でも、僕なら新田さんだけを愛せるのに」
「まあ、そういうことやから。バイトはいつも通り来いよ」
「わかった……」
例え三田村さんと付き合い始めたとしても、僕が真亜子を好きな気持ちは変わらない。そう、変わらないのだ。僕は真亜子と会えて、真亜子の顔が見られたらそれでいい。それでいいはずなのだが……。
僕の気持ちは変わらないはずなのだが……バイト先で、真亜子が三田村さんと仲良くしている(イチャイチャしているとは言わないが)姿をよく見るようになった。僕は、それを見ているのがツラかった。
「なあ、安田」
「おう、どないしたんや」
「僕、バイト辞めるわ」
「なんでやねん!」
「新田さんと三田村さんがどんどん親しくなっていくやろ? それを見ているのがツライねん」
「そりゃあ、付き合ってるんやから、あーんなことや、こーんなことをしてるやろうからなぁ」
「ああ、言うな! 言わんといてくれ!」
「現実から目をそらしたらアカンで」
「目をそらさせてくれ」
「まあ、童貞の崔にはキツイ現実かもな」
「安田もまだ童貞やろ!」
「俺は大丈夫や、俺はイケメンやから、その内チャンスはあるやろ」
「わかったよ、安田はイケメンで、僕は三枚目なんやろ?」
「三枚目とは言ってへんぞ」
「言わんでも思ってるやろ?」
「まあな」
「そんなことはどうでもええねん、とにかく、僕はバイト辞めるから」
「そうか、それは残念やな。崔がおらんと寂しなるわ、マジで」
「すまん。でも、ほんまに、もう新田さんと三田村さんを見てるのがツライねん」
「その気持ち、わかるで。だから、俺は引き止めへんから」
「そうか、ほな、辞めるわ。ごめんやで」
僕は、バイトを辞めた。困ったことに、バイトを辞めた後も、僕は真亜子のことばかり考えていた。バイトを辞めても嫉妬心に苦しむことになるとは思わなかった。僕は、どうすればこの苦しみから逃れることが出来るのだろうか? 僕は悩んだ。いくら悩んでも、答えなんて無いとわかっているのに。
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