第42話 崔は強気で押す!
「ほな、ご結婚が早かったんですね」
「そうですね、少しだけ早かったかもしれません。若気の至りでスグに離婚でしたけど、ふふふ」
「失礼ですが、離婚の理由は?」
「旦那の浮気です。恥ずかしいです。笑ってください」
「笑いませんよ、良かったじゃないですか、早く別れることが出来たんですから。浮気する男性は、許してもまた浮気すると思いますから」
「そうですね、でも、子供がいるせいか、私、中身はオバチャンですよ。女として生きることは、もう出来ないのかなぁと思ったり」
「その家庭的な雰囲気、良いと思います。なんだか一緒にいて落ち着きます。水樹さんは素敵な女性ですよ」
「そう言ってもらえたのは初めてです。ありがとうございます」
連休中、ずっと水樹と休憩が一緒になった。おかげで、短期間で随分話しやすくなった。親しくなると、少しプライベートに踏み込む会話も発生する。
「崔さんは、今、彼女はいないんですか?」
「ええ、いません。募集中です。水樹さんはいらっしゃるでしょう?」
「いないですよ。子供もいますし」
「子供がいても、水樹さんくらいかわいければ、いくらでも相手はいるでしょう? それとも、選び過ぎてるんですか?」
「全然、かわいくないですよ。それに、選ぶどころか、男性は全く近寄って来ませんよ。崔さんは、彼女とどんなデートをするんですか?」
「そうですね……車で琵琶湖を一周したり」
「あ、ドライブいいですね! 私もドライブに行ってみたいです」
これは、“誘ってもOK”のサインだろうか? 誘うか? 誘ってみるか? 誘ってみるのか? しかし、もし間違っていれば、とんでもない勘違い野郎に認定されてしまう。リスクはある。どうする? まあ、よく考えたらアタックして失敗しても、失うものは何も無い。ここでのバイトは連休中だけだ。恥をかいても構わないではないか。そう考えたら、リスクなんかない! よし、ここは果敢にアタックだ!
「水樹さん、今度、僕とドライブしますか? 琵琶湖一周。今、車が無いからレンタカーですけど」
「え! 連れて行ってくれるんですか? 行きたいです」
“よっしゃ、成功!”やはり強気に出た方がいいみたいだ。強キャラになってから、弱キャラの時には出来なかった、『押す』ということが出来る様になった。この変化は大きい! 以前は押せなくて失敗していた。自分の成長が感じられる。嬉しい。僕達は、ドライブの日時を決めた。
「うわー!湖、とてもキレイですね」
「琵琶湖は何年ぶりですか?」
「子供の頃に泳ぎに来たけど、ドライブで来たのは初めて。っていうか、デートが久しぶり」
このドライブは、水樹にはちゃんと“デート”と認識されているらしい。良かった。これは脈がある。僕のテンションは上がった。
途中、洒落たフレンチレストランで昼食をとった。水樹にはワインを飲ませた。
良い感じで、水樹の身体にアルコールがまわる。目がトロンとしてきた。
「水樹さん、僕のデートは女性から見て合格点ですか?」
「勿論! こんなに楽しいのは久しぶり。デートなんて、もう2年ぶりくらいかなぁ」
「水樹さん、若くてキレイなのに、誰ともデートしないなんて勿体ないですよ」
「爽子って呼んで」
「じゃあ、僕のことも崔さんはやめてください」
「だったら……崔君って呼ぶから」
「出ましょうか、このまま湖岸をドライブしますけど、どこか行きたい所はありますか?」
「崔君にお任せ」
「僕が行き先を決めてもいいんですね? わかりました、任せてください。ほな、行きましょう」
僕は、ホテルの駐車場に車を停めた。爽子は拒まなかった。
それは、とても幸せな時間だった。
僕に腕枕をされた爽子が言った。
「私、崔君の彼女になれたのかな?」
「それは、爽子さん次第です。爽子さんが彼女になってくれるなら歓迎します」
「じゃあ、崔君の彼女に立候補するわ」
「じゃあ、僕の彼女に決定です」
「バツイチの子持ちでもええの?」
「相手が爽子さんだから、バツイチの子持ちでもOKです」
「今度は、いつ会える?」
「爽子さんの都合になるべく合わせますけど、土日や祝日がいいですね」
「うーん、土日、祝日は仕事してることが多いからなぁ、平日は無理なん?」
「難しいですね、平日は学校があるから……」
「え? 学校?」
「はい。学校です」
「崔君って、歳は幾つなん?」
「もうすぐ二十歳です。え? 僕のこと、何歳やと思ってたんですか?」
「20代の半ばやと思ってた! レストランの社員さんやと思ってたわ」
「そういう爽子さんは何歳なんですか?」
「27」
「ああ、7つ年上だったんですね。若く見えますね。27とは思いませんでした」
「私も学生とは思わへんかったわ」
「すみません、僕、老けて見られるんです」
「どうしよう、19歳の学生さんと深い仲になってしまった」
「もうすぐ二十歳です、子供扱いはやめてください。そうですね、お互いに誤解があったようですが、どうしましょうか?」
「どうしたらええと思う?」
「簡単です。付き合えばいいんです」
僕は爽子を抱き寄せた。爽子が何か言おうとしたが、その唇を唇で塞いだ。
そして僕は、もう一度爽子を抱いた。
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