第43話  崔は国境を越える!

 どうもスッキリしない。爽子はデートを重ねても、なかなか僕を認めてくれないようだった。学生というのが気になっているのだろうか? 二十歳ということが気になるのだろうか? これは、僕の求めていた恋愛じゃない。迷いのある爽子以外に、キチンとした彼女を作ろうと思った。要するに、僕も爽子を彼女だと思うことが出来なかったのだ。何故か、爽子は誘えば来るのだけれど。こんな雰囲気になるなら、爽子にはキチンと“別れ話”をしてほしかった。そうすれば、僕もスッキリと別れられる。


 そこで思った。“金髪美人と付き合ってみたい!”。なかなかハードルの高い目標だと思う。だが、僕には詩音という、ナンパで女性をゲットしたという成功体験がある。それなら、相手が外国人でも成功する可能性はあるのではないか? 成功する確率は低い、だが、ゼロ%じゃない。外国の方々が集まるのは京都だ。或る金曜日の夕方、僕は京都にいた。



 もう一度、ナンパをするのだ! 外国人を狙って! 成功するまで帰らない! 



 金髪外国美人と仲良くなるには言葉の壁がありそうだが、その点については秘策があった。


 ナンパをする時、僕は1人の孤独なハンターとなる。駅の構内を見渡しやすい柱にもたれて、静かに獲物を物色する。流石、京都の駅。行き交う金髪美人の数が違う。そして、中には僕のタイプの外国人さんも通る。


 ターゲットが決まった。スッと近寄り声をかける。


「エクスキューズ ミー」

「?」

「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」

「ノー」

「Oh、ソーリー、ソーリー、ハブ ア ナイス トリップ!」


 こうやって、まず日本語が話せるかどうか? 聞いてみる。これが秘策だった。日本語を話せる金髪女性に限定して誘えば、言葉の壁は乗り越えられる。乗り越えるのは相手であり、ちょっと他力本願だが、成功するためなら手段は選ばない。


 だが、


「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」

「はい、話せます」

「食事に行きませんか?」

「Oh!NO、行きませーん」

「失礼しました」


日本語が話せても、お断りされてしまう。


 気付いたら終電も無くなり 人気が無くなった。僕は駅の近くのカプセルホテルに泊まった。


 ナンパで1泊してしまった。僕は、“ナンパで成功するまで家に帰らない”と決めていたのだ。僕は自分でルールを設定することがある。この時も、“成功するまで帰らない”というルールを設定していたのだ。しかし、“このまま帰れなかったらどうしよう?”という不安が頭をよぎった。



 恐怖のナンパ2日目。僕は、朝からテンションを上げて挑んだ。狙い目は日本語が話せる金髪美女。これは、言葉の壁を乗り越えるためだけの秘策ではない。僕は、別に1晩だけの遊びをしたいわけではない。交際したいのだ。日本語が話せる人なら、日本に住んでいる可能性が高い。だから、長く付き合える可能性も高いはずなのだ。


「エクスキューズ ミー」

「?」

「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」

「ノー」

「Oh、ソーリー、ソーリー、ハブ ア ナイス トリップ!」


「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」

「はい、話せます」

「食事に行きませんか?」

「Oh!NO、行きませーん」

「失礼しました」


 何度、同じことを繰り返すのだろう? その時、僕は“ナンパで成功するまで何も食べない”という、更なる自分ルールを設定していたのだ。空腹と戦いつつ、声をかけ続けた。


 ところが!


「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」

「はい、話せます」

「食事に行きませんか?」

「いいですよ」


とうとうOKされた。勿論、選び抜いて声をかけているので、僕のストライクゾーンのど真ん中、理想の外見だった。外見が理想的なので、これから内面を知らなければいけない。と、いうよりも、ようやく食事が出来る。もう、夕方になっていた。



「何か食べたい物はありますか?」

「任せます」


 僕は、楓と一度行ったことのある居酒屋へ連れて行った。その店も、照明が無く、灯りは全て蝋燭の炎。カーテンでテーブル毎に仕切られた、雰囲気の良い店だ。


「この店で良かったですか?」

「いい感じです」

「僕の名前は崔です。あなたのお名前は?」

「ソフィアです」

「どこの国から日本へ?」

「アメリカです。ロサンゼルスから来ました」

「お仕事は、何ですか?」

「英会話学校の先生です」

「なるほど、それで日本語を話せるんですね」

「そうです。あなたのお仕事は何ですか?」

「まだ学生です。卒業したら、大きな会社に入る予定です」

「何歳ですか?」

「二十歳です」

「若いですね。私は24歳です」

「年下は嫌いですか?」

「そんなことないです。年下の男の子はかわいいです」

「僕はかわいいですか?」

「かわいいです。日本の男の人、おとなしいです。街を歩いていても、誰も声をかけてこないです。崔君は、よく私に話しかけましたね。崔君は勇気があります」

「今、恋人がいないんです。だから素敵な女性を探していました。ソフィアさんが美しいから、思わず声をかけました。」

「日本の男性から声をかけられたのは初めてですが、日本の男性も、みんな崔君みたいならいいですね。日本の男性は崔君みたいに積極的になった方が良いです」

「日本の男性は、好きですか?」

「日本の男性に興味はあります。でも、あなたみたいに積極的な日本人は初めてですので、今、驚いています」

「日本の男性と付き合ったことはありますか?」

「無いです」

「付き合ってみたいと思いますか?」

「日本の男性とのお付き合いですか? 興味あります」

「僕は、ソフィアさんが好きです」

「ありがとうございます」

「もっとソフィアさんを知りたいです」

「私も、崔君のことを知りたいです」

「キスは好きですか?」

「キスは好きです」



 僕はソフィアにキスをした。カーテンで仕切っているのはありがたい。







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