第44話  崔は天国を味わう!

 さあ、これからが肝心だ。今日はキスで留めて、次回のデートでもっと斬り込むべきか? 今日、盛り上がっている状況で最後まで進んだ方がいいのか? なんだか、次回のデートまで待ったら、冷められて断られそうな気がする。僕は、今すぐ斬り込むことにした。こんなことが出来るようになったのも、強キャラになれたおかげだ。ひいては楓のおかげだ。


「今のキスで良かったですか?」

「もっとディープなのがいいです」


 ちょっとディープなキスをした。


「どうですか?」

「かなり良い感じです」


 やはり、今すぐ攻めるべきだと思った。鉄は熱いうちに打て!というではないか(急がば回れともいうけど)。


「夜の営みは好きですか?」

「夜の営みも好きです」

「今夜、ホテルに泊まりましょう」

「いいですよ。日本の男性、初めてです。期待でワクワクします」

「僕もアメリカの女性は初めてです。期待でワクワクしています」


 手を繋いだ。それだけで伝わる。ああ、もう言葉はいらなくなったのだ。こうなると、言葉の壁なんて気にする必要は無いのだと知った。


 その夜、僕達はホテルに泊まった。



 それは、とてもとても幸せな時間だった。



 同じ人間なのだから当たり前かもしれないが、相手が金髪の白人でも、日本人の普通の営みで満足し合えることを知った。日本人男性は、外国人女性に通用するのだ!



 ソフィアとの交際がスタートした。ソフィアは京都のマンションに一人暮らしだった。スグに合い鍵を渡された。彼女の家から学校に通う日々が始まった。僕は楓と付き合ってから、ずっと女性の部屋から学校に行くことが続いている気がする。


 だが、僕は“彼女が出来た”とは、周囲になかなか言わなかった。聡子と付き合った時のことを思い出す。結果的に、めちゃくちゃ短い付き合いだった。今度も短い付き合いになるかもしれない。“付き合いました”、“もう別れました”ということになると、めちゃくちゃカッコ悪い。僕はしばらく様子を見ることにした。正直、“僕の彼女、アメリカ人やねん!”と言いたくてしかたなかったし、ソフィアを見せびらかしたくて仕方なかったのだが。


 ソフィアは性欲が強かった。日本に来てから、そういうことをしていなかったから溜まっていたらしい。自分でも、“日本に来てから男性に飢えていた”と認めていた。毎晩求めてくるので、毎晩それに応えた。ソフィアは、“日本での生活が、やっと充実するようになりました”と言っていた。



 1番の想い出は、花火だった。ソフィアが青い浴衣を着てくれたのだ。その姿はとてもセクシーで、よく似合っていた。僕は写真を撮りまくった。


 花火で喜んでくれるソフィアを愛しいと思った。また、道行く男共が振り返る。そして、“なんで、こんなイイ女にこんな冴えない男がくっついているんだろう?”という視線を浴びる。こういう視線には慣れているものの、いつになってもいい気分ではなかった。どうせ、僕は冴えない男だ。だが、僕には勇気があったのだ。勇気があったからソフィアを口説けた。勇気の無い通行人には何も言わせない。ちなみに、僕は169センチでソフィアは172センチだった。せめてあと5センチ、僕は身長がほしかった。


「崔君、花火に連れてきてくれてありがとう」

「こちらこそ、一緒にいてくれてありがとう。一緒に花火を見ることが出来て嬉しいよ。浴衣を着た美人の恋人と花火を見るのが夢だったから」

「日本の花火、とてもキレイです」

「花火はキレイだけど、ソフィアの方がキレイだよ」

「浴衣、どうですか? 本当に似合ってますか?」

「とても美しい。とても似合ってる。ソフィアと一緒にいられることが嬉しいよ」

「ありがとう。浴衣、気に入りました。アメリカでも着てみようかと思っています」

「アメリカの人達が、みんなビックリすると思う。美し過ぎて」

「みんな、私達を見ています」

「私達、じゃなくてソフィアを見てるんだよ。誰よりもキレイだから」

「私、キレイじゃないですよ、ふふふ。でも、崔君にキレイと言ってもらえるのが嬉しいです。崔君はいつも私を褒めてくれます。ありがとうございます」

「美しいものを美しいと言ってるだけだよ」

「また、浴衣を着たいです」

「夏祭りがあるから、その時にまた着れるよ」

「では、夏祭りも一緒に行きましょう」

「海とかプールはどうかな? 行きたい? 行きたくない?」

「行きたいです。連れて行ってください」

「じゃあ、プールから行こうか」



 ソフィアの水着姿は、破壊力抜群だった。本当に、誰もが振り向いた。青いビキニでは隠しきれないスタイルの良さと、色気を兼ね揃えていた。肩より少し下で揃えられた金髪も美しい。そして、また、“なんで、こんなイイ女がこんな冴えない男を連れ歩いているのだろう?”という、男共の羨ましそうな視線。何度も言わせないでほしい、通行人よ! 放っておいてくれ、僕には声をかける勇気があったからソフィアと一緒にいるんだ。勇気の無い奴に文句は言わせない。と、心の中で何度叫んでも、やっぱり通行人にはジロジロと見られる。僕は、この視線がいつも不愉快だった。でも、ソフィアと一緒にいられることが、ちょっと誇らしい。


「崔君」

「何?」

「私達、注目されていませんか?」

「だから、私達、じゃなくてソフィアが注目されてるんだよ」

「私、何かおかしいですか?」

「おかしくないよ。ただ、美し過ぎるだけ。美しいものは見たくなるでしょ?」

「ふふふ、崔君はいつも私をキレイと言ってくれますが、私は美人じゃありません」

「美人だよ。スタイルも良すぎる。胸が大きくて、ウエストは細くて、脚がキレイで長い。そりゃあ、みんな見るよ。ごめんね、僕がイケメンじゃなくて。ソフィアと僕は、不釣り合いかもね」

「不釣り合いじゃないです。崔君、自信を持ってください。崔君、みんな私達を見て、みんな何か話してます」

「どうせ、“なんで、こんなイイ女がこんな冴えない男を連れ歩いているのだろう?”とか、言ってるんだよ。今、言ったでしょ? 僕はイケメンじゃないし、チビで冴えないからね。身長も僕は169センチ、ソフィアより低いしね」

「崔君は、冴えてます。素敵な男の子です。今、言いましたよね? もっと自信を持ってください。私は崔君が大好きです」

「ありがとう、ソフィア。僕も大好きやで」



 要は、僕達が幸せなら、周囲から何を言われてもいいのだ。ソフィアが堂々としてくれているので、僕は次第に通行人の視線が気にならなくなっていった。アメリカ人は、みんなこんな風に堂々としているのだろうか? 僕も少しだけ自信が持てるようになってきた。この調子なら、友人、知人に、“金髪美女の彼女ができたでー!”などと言ってもいいのかな? いや、まだ早いかな。







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