第41話  崔はファミレスで出会う!

 僕に腕枕をされながら、詩音が言った。


「ねえ、崔君」

「何? 詩音さん」

「めっちゃ良かったわ」

「ありがとうございます。喜んでもらえたなら嬉しいです」

「私の出会った男達の中で一番上手かも。それとも相性がええのかな?」

「最初の彼女が風俗嬢だったから、いろいろ教え込まれたんです。でも、相性が良いというのはあると思います」

「そうかぁ、最初の彼女が風俗嬢やったんかぁ……なるほど、納得やわ」

「納得してもらえましたか?」

「うん、風俗嬢に育てられた男って貴重やなぁ、崔君がどんどん魅力的に見える」

「貴重なんですかね、自分ではよくわからないんですけど」

「ねえ、私、本当に24歳に見える?」

「見えますよ……って、違うんですか?」

「29歳やで」


 詩音はクスクス笑っている。


「まあ、もう好きになってしまった後なんで、29歳でも僕の気持ちは変わりませんけどね」

「私、本当にOLに見える?」

「見えますけど、違うんですか?」

「私、本当に独身に見える?」

「見えますけど……って、まさか結婚してるんですか?」

「結婚してるで」


 詩音はクスクスと笑っている。


「でも、指輪もしてないし」

「もう指輪はしてないねん。旦那とは、お互いに干渉しないようにしてるし」

「家庭内離婚みたいな感じですか?」

「うん、だから旦那との営みは全く無いで。でも、男性が欲しくなるやんか。だから、OKしたの。勿論、誰でもいいってわけやないよ。崔君やったからOKしたんやで。そこ、誤解せんといてな。私は誰とでも寝るような女じゃないで」

「どうして離婚しないんですか?」

「子供のために決まってるやんか。子供のために離婚はしないって旦那と決めたから」

「じゃあ、僕は詩音さんの何なんですか?」

「旦那にはなられへんけど、彼氏かセ〇レじゃアカン?」

「僕はちゃんと恋人として付き合いたいんです。彼女が欲しいんです」

「ええやん、私と定期的に抱き合えるんやから損は無いやろ?」

「でも……人妻は……罪悪感が……」

「大丈夫やで、旦那も浮気しまくってるから。私も浮気してるけど、さっきも言うたようにお互いに干渉せえへんねん」

「どうしようかなぁ…」

「アカンよ、私は崔君を手放さへんで。ええやん、セ〇レで。それとも、彼氏と呼んだ方がいい?」

「そんなの、呼び方の問題だけじゃないですか! 彼氏と言っても、結局はセ〇レなんでしょう?」

「まあ、そうやねんけど。気分が違うかなぁと思って」

「もういいです、セ〇レでいいです。ああ、でも、こんな展開は望んでなかったのになぁ、ちゃんとした彼女がほしかった」

「まあまあ、まだ時間はあるで。もう1回しようや」


 また、セ〇レが出来てしまった。こんなはずではなかったのに。


 もしも、僕がタカなら、セ〇レのいる現状を喜ぶのだろう。だが、僕は違う。僕が欲しいのは彼女だ、恋人だ。毎日デレデレしながら電話をしたり、外でイチャイチャとデートしたり、記念日をお祝いしたり、些細なことを喜び合いたいのだ。まだ、浴衣で花火というイベントも達成していない。僕はラッキーなのだろうか? ついてないのだろうか? わからなくなってきた。普通の彼女が何故できないのだ?



 そんな時、以前にバイトしていたファミレスの店長から久しぶりに連絡があった。急だった。“大型連休中、人手が足りないので手伝いに来てくれ”ということだった。僕は引き受けた。急だったが、店長にはお世話になったからだ。


 真亜子や三田村先輩が辞めたことは知っていた。というより、僕の知っているスタッフは半分もいなかった。三分の一くらいしかいないか? なんだか寂しかった。


 休憩で、1人の女性と一緒になった。知らない人だった。その人はホールの制服ではなく、厨房の白い制服を着ていた。


「お疲れ様です。初めてお会いしますね。水樹です」

「お疲れ様です。崔です。こちらには連休中の繁忙期だけのヘルプで来てます」

「そうなんですか、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

「以前もこちらへ?」

「はい、もう3,4年前ですけど」

「そうなんですね、じゃあ、知り合いも多いんですか?」

「いえ、半分も残っていません。寂しかったので、話しかけてもらえて嬉しいです」

「そう言ってもらえるなら、話しかけて良かったです」

「水樹さんは社員さんですか?」

「ふふふ、社員さんに見えますか? いえいえ、ただのバイトです」

「ええと、水樹さんは……」


 僕はスタッフのシフト表を見た。


「僕と同じですね、連休中はずっとシフト入ってるんですね」

「はい、店長から頼まれましたから」

「こんなに休日に入っても大丈夫なんですか? 予定とか無いんですか?」

「特にすることもありませんから。旦那もいませんし」

「独身なんですか? なんだか家庭的な雰囲気がしますけど」

「あ、バツイチなんです。子供が一人いて、今は両親と暮らしています」



 改めて水樹を見る。年齢は、正直言ってわからない。29歳の詩音を23~24かと思ってしまった失敗もある。女性の年齢はわからない。だが、30代ということは無いだろう。20代には違いないと思える。水樹はかわいい顔をしている。スタイルも良さそうだ。バツイチ子持ちのかわいい系……うーん、ありだ! 水樹は僕のストライクゾーンに入っていた。僕の恋愛スイッチがオンになった。







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