追記   回想

 僕は中学から女子と接点の無い暗黒時代を過ごしてきた。そして、高校に入ったが既に3年生。男女共学とは名ばかりの、男ばかりの高校に入ってしまったからだろうか? いや、そんなことはない気がしてきた。普通の共学校のように半分が女子だったとしても、モテない僕は、やっぱり彼女が出来なかったかもしれない。そもそも、中学の時にあれだけモテなかったのだ、それが高校生になったからといっていきなりモテるわけがない。高校1年生の時の、僕の“高校時代に彼女を作る!”という決意も時間切れになりそうだった。季節は秋、というより冬が近かった。



「なあ、崔、知ってるか?」


 或る日、級友が声をかけてきた。


「なんや?」

「聞いたか? 坂上、また男と別れたらしいぞ」

「マジ? あいつ、これで何人の男をふったんやろか? あいつ、魔性の女やな」

「崔、それを言うなら、“これで何人の男と付き合ったんや?”やろ? あいつ、何人の男と付き合ったと思う? ちょっと多すぎるんとちゃうか?」

「何人かは誰も数えてへんやろ、でも、崔、もしかすると、坂上やったら付き合えるんとちゃうか? どうや?」

「付き合われへんわ、どうせ僕がふられる。僕は3連続で紹介されても、1度もマッチング出来なかった男やで。僕のモテない力(りょく)をなめるなよ」

「そう言わずに、もう一度チャレンジしてみろや、崔。崔は以前、“学校の少ない人数の女子の中で、しいて好みのタイプを言うなら坂上や”みたいなこと言ってたやろ? 俺、おぼえてるで」

「好み? まあ、校内の女子なら坂上、それはそうやけど。あいつ、まあ、かわいいやんか? そう思わへん? それに、僕は小柄な娘(こ)が好きやねん」

「ほな、坂上が“付き合ってくれ!”って言ったらどうする?」

「そんなん……付き合うに決まってるやんけ! 喜んで付き合うわ! 僕の“彼女が欲しいという願望”の大きさをなめたらアカンで」

「ほな、行けや! こういう時に行くのが崔やろ? 煽るつもりは無いけど、坂上をを気に入っているなら今がチャンスなのは間違いないで、俺達、応援するぞ」

「そんなん言われても……言われなくても行くっちゅうねん!」



 僕はまず、いきなり坂上の隣に座った。坂上は少し驚いたようだったが、何も言わなかった。坂上は身長146センチ、小柄でかわいい、というか僕の好みだ。だが、体育の時に、坂上は結構胸があることはチェック済みだった。僕が隣に座っても、坂上が無言で、僕に話しかけてくれる気配が無いので(そりゃそうか、いきなり隣に座られてもね)、僕の方から話しかけた。共通の話題として、“好きなバンドの話”を選んだ。僕はバンドには詳しいという自信があった。マニアックなバンドまで知っている。CDだって、尋常じゃないくらいに持っているのだ。坂上が好きなバンドは、マニアックな京都のバンドだった。だが、僕はその“知る人ぞ知る無名バンド”をよく知っていた。CD(アルバム)も3枚持っていた。バンドのトークなら自信がある。意外と、話は盛り上がった。そうなるとどうなるか? 僕は期待し始めてしまった。


「あのバンド、好きやねんけど、CDはあんまり売ってへんねん。だからCDは持ってないねん。欲しいんやけど」

「ああ、小さな店では売ってへんねん、僕、アルバム3枚持ってるからあげるわ」



 翌日。


「はい、あげる。感想を聞きたいから、休み時間にでも聞いてや」


 その頃、坂上は女子の中では浮いていて、1人で休憩時間を過ごすことが多かった。だから、僕は坂上の暇つぶし役になろうとしたのだ。こういうところから接近したらいいと思っていた。僕は、小型のCDプレイヤーも渡した。


「あ、私、この曲、好きかも」

「なんて曲?」

「〇〇〇〇っていう曲」

「ああ、サビが〇〇〇〇~♪の曲やな、僕も好きな曲やわ。曲を選ぶセンスが似てるなぁ、僕達」


 休憩時間に自然なトークが出来ているような気がする。そこで思った。“これは!? 親しくなってるんじゃないのー!?”テンションが上がって行く。期待が大きいと、実らなかった時のショックも大きいから、なるべく期待しないようにした。



「崔、一緒に帰ろうや-!」

「ええけど、僕、今日は寄り道するで。買い物や、買い物。急ぐねん」

「買い物? 何を買うんや?」

「坂上へのプレゼントに決まってるやんけ!」

「ほな、俺等も付き合うわ」


 そう! 単純な作戦だ。僕は坂上に貢ぐことにしたのだ。僕のいた高校は苦学生も多い、裕福な家庭は少ない。僕の家も裕福ではない。しかし、僕はずっとバイトをしていたから、他の学生(ライバル)と比べ小遣いには困っていない。この経済力をここで活かせる! 活かそう! と思っていたのだ。めちゃくちゃ姑息な手だと思うけれど。もう、なりふり構っていられない。短期決戦だ!


 級友に付き合って貰い、坂上が某漫画家の大ファンだと聞いたので、買う物は決まった。級友のナイスなアドバイスだった。ということで、某漫画の主人公がプリントされたトレーナーを買って、翌日、坂上に渡した。坂上は流石に驚き、


「高かったやろ? これを受け取るのはさすがに申し訳無いわ」


と言ったが、


「受け取ってもらわな困る。サイズが合わないから、僕は着られへん」


と言ったので、気を遣わせてしまったが受け取ってもらえた。時間が無いのだ。クリスマスが近い! 僕は仏教徒だが、このイベントを外すことは出来ない。クリスマスは坂上とデートしたい! 僕の目標はそこにあった! プレゼント攻撃は有効なのだろうか? なんだかお金で解決するみたいでモヤモヤしてしまうが、仕方ない。



 終業式、僕は坂上に小箱を渡した。坂上が開けると、箱の中にはネックレス! これは一生懸命選んでもらったものだ。誰に選んでもらったか? 勿論、僕の恋愛の師匠の亜子だ。亜子とは知人の紹介で知り合い、僕の恋愛にアドバイスしてくれることになった同い年の女子校の生徒だ。亜子は“忙しい”と言っていたが、結局、買い物には付き合ってくれた。僕は、亜子に御礼ということでピンキーリングをプレゼントした。亜子は機嫌良く帰ってくれた。


「崔君、何? これ」

「クリスマスプレゼントやんか!」

「え! でも、まだクリスマスちゃうやんか」

「クリスマスは学校で渡されへんから、早めに! と思ったんや」

「これは流石に受け取ることは出来へんわ、ちょっと重い」

「なんで? なんで重いの?」

「だって、彼氏でもないのに」

「ほな、僕を彼氏にしてや。っていうか、女性向けのネックレスやから、とりあえずそれは受け取ってくれないとアカンねん。受け取ってもらわないと困る」

「うーん、私、崔君を彼氏には出来へんわ」

「なんで?」

「崔君はなぁ……」

「崔君は?」

「私の好みのタイプとちゃうねん! ごめん! 崔君!」


 僕は気絶しそうになったが耐えた。


「わかった。でも、ネックレスは受け取ってや。坂上に渡そうと思って買ったものやから、他の女子には渡されへん」

「わかった……ありがとう」


 僕はカバンを担いで教室を出た。


「「「崔!」」」

「すまん! 今は何も言わんといてくれ!」



 まだだ、泣くのはまだ早い。泣くのは自宅の布団に潜り込んでからだ。自宅まで電車でちょうど1時間、通学で苦痛に思ったことは無いが、こんな時の1時間はキツイぜ! 僕の涙腺は1時間ももつのだろうか?



 やっぱり、高校を卒業するまでは暗黒時代だった。悪あがきをしても無駄だったのだ。付き合ったわけでもなく、恋と言うには儚すぎて淡すぎる。たいしたことじゃない。良い思い出じゃない。そう、思い出したくない。思い出したくないのに、どうしてだか忘れることが出来ない。



 こういうイベントを経て、僕は風俗店に足を運ぶことになったのですが、本編では書き忘れたこの小話を、書き足そうと思った次第です。







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