追記   回想2

 僕には小学生の時に憧れていた先生がいた。その名も朱音先生。僕は朱音という名前も気に入っていた。なんか、赤が似合いそうでカッコイイ! 実際、背も高くてスレンダー、容姿もカッコ良かった。 


 僕が小学校の中学年の時(だったと思う)に赴任してきた先生だった。しかし、残念ながら直接担任になってもらったことはない。担任になってほしかったのに。


 担任ではなかったけれど、僕は密かに朱音先生に憧れていた。朱音先生は大人の女性らしい色気を放っていた。僕は大人の女性の色気に敏感だった。普通、同級生などを好きになると年頃だと思うが、僕は小学生の時から年上が好きだった。スレンダーだけど、意外に胸はそこそこある。学校のプール開放日、朱音先生が当番の時に水着姿の朱音先生のボディラインをチェックしていたのだ。そして、僕は勿論何も出来ずに卒業した。


 そして、中学の時に朱音先生の旦那様がお亡くなりになったと聞いた。その話を聞いたとき、朱音先生がかわいそうだと思った。落ち込んでいるだろうから、慰めてあげたいと思った。だが、当時の僕は中学生、何も出来なかった。ただ、それから朱音先生のことを時々思い出すようになった。既婚者には手を出せないが、朱音先生は独身になった。もしかしたら手が届くかもしれない! と、少しだけ思った。


 そして、僕は18歳になった。そして、もうすぐ19歳になってしまう。なのに、僕には恋人がいなかった。今まで恋人がいたことが無い。いわゆる、彼女いない歴=年齢という奴だ。そこで、少し前から考えていた、なかなか勇気の必要な大胆な作戦を実行することにした。朱音先生と付き合いたい!


 まず、卒業アルバムに載っていた朱音先生の自宅の電話番号に電話をかけた。


「はい、堀田です」

「あ、朱音先生ですか?」

「はい、そうですけど」

「僕、直接朱音先生に担任になってもらったことは無いんですけど、○○小学校の崔と申します。先生は僕のことご存知ですか?」

「勿論、おぼえてるわ。やんちゃやったけど、真面目になったらしいやんか」

「おぼえててくれたんですね! ありがとうございます! 嬉しいです!」

「ほんで? 今日はどうしたん?」

「実は、先生に相談したいことがありまして、一度お会いしたいんですが」

「相談? ええよ、今度の土曜でもええかな? 場所は○○駅の改札出たところでいい? 時間は、12時にしようか? 一緒に食事しようよ」

「ありがとうございます、お願いします」

「でも、なんで私なん? 他にも先生はいてるのに」

「いや、僕にとって、朱音先生は特別なんです」

「そうなん? まあ、ええけど」


 約束の土曜日、待ち合わせていた朱音先生が現れ、その姿が変わっていなくて安心した。僕が小学生だった頃と変わらない。相変わらず、『年上のお姉さん』という感じで、朱音先生から大人の色気を感じた。もしかすると、僕が小学生だった頃よりもキレイになったかもしれない。


 僕はあえて、客の少ないレストランに入った。更に、周囲に他の客がいないテーブルに座った。客は少ないが料理は美味い。朱音先生には、その店は好評だった。食事して、コーヒータイム。朱音先生にはワインをすすめたが、朱音先生は、


「こんな真っ昼間から飲まれへんよ」


と言って、飲んでくれなかった。僕も未成年なので飲めない。で、僕も朱音先生もシラフだった。僕がしたい話は酒が入っていないと恥ずかしい話だが、僕は勇気を振り絞ってシラフで斬り込んだ。


「先生!」

「え! 何? いきなり真剣になってビックリなんやけど」

「真剣な話なんです! 相談のことなんですけど!」


 緊張して、つい力んでしまう。ここで自然体で話せるくらい口説き慣れていたら、きっと既に恋人ができていただろう。当時の僕は、ガチガチに緊張していたのだ。


「うん、何? とりあえず話してや」

「先生は、僕の憧れの女性なんです!」

「え? あ、そうなん? ありがとう」

「小学校を卒業しても、ずっと先生のことだけを一途に想っていました(←嘘)!」

「え! そうなん? ちょっと崔君、いきなり過ぎるんやけど」

「僕、ずっと恋人がいません。恋人にするなら朱音先生がいいと心に決めていたからです(←嘘、本当はモテなかっただけ)! 僕には朱音先生しか見えません」

「え! 崔君、どないしたん? そんな真剣な顔をして、汗ビッショリやし」

「緊張すると汗をかくんです。真剣です。先生、僕と付き合ってください! 僕を男として見てください!」

「えー! そんなこと言われても-!」

「僕の初めての彼女になってください! そのままゴールインしても構いません!(←これは本気。朱音先生なら結婚してもいいと思ってた)」

「えー! 告白? いきなり過ぎるわ-!」

「今日は告白したくて呼んだんです。すみません。僕が18歳になったから、少しは大人として見てもらえるかな? と思って先生を呼びました」

「えー! アカン! アカン! アカンよ、崔君! 崔君、まだ学生やんか、ちょっと落ち着こうね、結婚とか、今から考えるのはちょっと早いで」

「ほな、社会人になったら付き合ってくれるんですか? それなら社会人になるまで待ちます。僕、大企業に就職するつもりですから。安定した生活が出来ますよ」

「アカン、それでもアカン、崔君は生徒なんやから。まだ若いし」

「もう大人ですよ、18歳です。もうすぐ19歳なんですよ」

「アカンねん、生徒は歳をとっても、いつまでも生徒としか見られへんねん」

「僕と付き合った時のことを想像してください。そのまま結婚してもいいんです。どうか僕を恋人に選んでください。明るい未来を想像出来ませんか?」

「想像してみた。ごめん、やっぱり無理! 絶対に無理! 一生無理やから! ごめん、こればかりは無理やねん。生徒を男性として見られへんねん、ほんま、ごめん」

「わかりました。ほな、思い出として、これから一緒にどこか行きませんか?」

「え? どこに行くの?」

「水族館とか、映画とか」

「それって、完全にデートになってしまうやんか! ごめん! 無理!」

「えー! 思い出作りもダメなんですか? 先生とデートできたら、その思い出を大切にしながら生きていけるのに」

「ダメ! どう考えてもアカン。崔君が社会人になっても、大企業に勤めても、崔君はやっぱり生徒としか見られへん。そういう相談やったら協力できへんわ。ごめんやで。じゃあ、私、帰る。崔君、ごめんな、崔君のことが嫌じゃないんやで。崔君じゃなくても、生徒とは付き合われへんから。教師って、そういうもんやねん。そこのところ、誤解せずに理解してや。ほな、さよなら!」



 朱音先生は、疾風のように去って行った。よく考えたら、それが常識的な反応だろう。僕は残って、飲みかけのコーヒーをゆっくりと飲んだ。僕だって、断られる可能性の方が高いとわかっていた。わかった上での暴挙だ。そして、見事に玉砕だ。



 玉砕! これが現実だ! 現実に『先生』と『生徒』の交際とか、ハッピーエンドなんかあるのか? 現実がこれだから、僕はフィクションの『先生と生徒』ネタを書くのだ。何故なら、『先生』という肩書きには幾つになっても萌えてしまうからだ。今回は、まずは僕の間違った勇気というか、無駄な行動力を笑っていただきたい。僕はアホです。今振り返っても、1番勇気が必要だった告白でした。



 こういうイベントを経た上で、僕は風俗店に行ったのでした。本編で書き忘れていた僕の思い出? こちらも書き足そうと思った次第です。







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浪速区紳士録【青春編】思ったよりも柔らかく、思ったよりも大きかった。 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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