第54話  エピローグ

 その日は土曜日、僕は京都に来ていた。京都にある大きな楽器店に行こうと思ったのだ。


 交差点で信号待ちをしていると、信号の向こうに見慣れた女性を見つけた。

 見慣れた女性は、ずっと僕が探していた女性だった。

 僕は、金縛りにあったかのように動けなかった。

 女性が僕に気付いたようだ。微笑んでいる。

 信号が変わった。女性がこちらに向かって歩いてくる。僕は、まだ動けない。

 女性が目の前に立った。


「久しぶりやなぁ、崔君」

「楓……」


 僕はようやく言葉を発することが出来た。


「沢山、素敵な恋愛をしてきた?」

「何人かと付き合ったよ、多分、良い恋愛もあったと思う。けど、多分、誰にも惚れることは出来なかった。僕は楓に惚れたままやったから」

「女の子、泣かせた?」

「ううん、泣かせてない」

「女の子を笑顔にしてあげた?」

「わからないけど、多分、笑顔にしてあげられたと思う」

「良かった。少しカッコよくなったで、崔君。元からカッコいいけど」

「僕はあんまり変わってないよ。楓が少し変わったのはわかるけど」

「私、どこか変わった?」

「少しだけ痩せた。体調は? 大丈夫?」

「大丈夫やで。少しダイエットしただけやから」

「元々細身やねんから、ダイエットなんかせんでもええやろ?」

「もっと細くなりたいと思っただけ。なあ、他に変わったところは?」

「少し髪が長くなった」

「正解! 流石、崔君やね」

「髪の色も微妙に違う。ちょっとだけ赤くなった?」

「正解」

「メイクも少し変わった気がする。気のせいかな?」

「ううん、気のせいやないよ」

「後は、後は……」

「ううん、もう探さなくてええよ、多分、全問正解やから。崔君、よくおぼえてたなぁ。私のこと、ほんまにずっと好きでいてくれたんやね」

「誰と付き合っても、ずっと、無意識に楓を探してたんや」

「崔君、泣いてるで」

「泣いてへんよ、楓が泣いてるんやんか」

「泣いてへんよ、誰も泣いてない」

「そやな、誰も泣いてない」

「街で偶然会えたね」

「うん、会えた」

「約束、おぼえてる?」

「当たり前やんか、また僕と付き合ってや」

「うん、ええよ」



 この物語のエンディングは、洋画のラブコメのようなキスだった。いや、これは終わりじゃない。これから始まるんだ。







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