第39話  崔は相談に乗る!

 何か話がありそうだと僕は察していたが、食後のコーヒーが出て来るまで倫子は雑談しかしなかった。結果、僕の方が痺れを切らした。


「何か、お話があるんでしょう?」

「わかった?」

「最初からわかってましたよ」

「彼氏のことやねんけど」

「彼氏さんが、どうかしたんですか?」

「最近、私に冷たいねん」

「どんな風に冷たいんですか?」

「私がちょっとヤキモチを焼くと、“うるさい”とか“黙れ”って言うねん」

「それはちょっと冷たいですね」

「よくお酒飲んで二日酔いになるから、“大丈夫?”とか心配しても“うるさい”とか“黙れ”とか言われるねん」

「それは確かに冷たいかもしれませんね」

「それに、もう長いこと外でデートしてへんねん。デートはいつも彼氏の部屋」

「外でのデートもしたいですよね、花見に行ったり、海に行ったり、花火を見たり、テーマパークへ行ったり……」

「そう、そうやねん」

「彼氏さんから“うるさいとか“黙れ”とか言われたとき、なんて答えてますか?」

「“あ、怒らせてしまった”って思うから、いつも“ごめん”って私が謝ってる」

「それがよくないですね、次に“うるさい”とか“黙れ”って言われたら、電話なら電話を切ってみてください。会っている時なら彼氏を置いて帰ってください。倫子さんのことが本当に好きなら、きっと反省するはずです」

「そんなに冷たい態度をとってもええんかな?」

「いや、倫子さんは既に冷たく扱われてるじゃないですか、お互い様ですよ。それに、言いにくいんですけど、話を聞いていると、彼氏さんは倫子さんの身体が目的っぽく思います。そんな、都合の良い女になって悔しくないんですか?」

「でも、冷たくしてフラれたらどうしよう?」

「なんでそこで別れるのを怖れるんですか? こっちも冷たくしてフラれるなら、早くフラれた方がいいですよ。身体が目的だと思うんで」

「でも、最初は優しかったし……」

「どうするかを決めるのは、倫子さんです。でも、僕は早くハッキリさせた方がいいと思いますけど」

「わかった、次に“うるさい”とか“黙れ”とか言って来たら、こっちも冷たい態度をとってみるわ」

「それがいいですね」


 その後、少し雑談をして、盛り上がってから解散した。不安そうな倫子が笑顔になったことを確認してから帰ったのだ。



「崔君、また時間ある?」

「今日ですか? いいですよ」


 数日が経って、また倫子に食事に誘われた。


「どうなりました?」

「また“うるさいとか“黙れ”って言われたから電話を切ってみたわ」

「それで?」

「“なんで途中で電話を切るねん!”とか“お前なんかもうええわ”って、留守電に入ってた」

「それで?」

「なんて返したらええんかわからんから、放置してるねん。何て返したらええかな?」

「私と付き合ってるのは身体が目的なんでしょう? って、メールで返してみてください。言いにくいでしょう? だからメールでいいです」

「そんなストレートな言葉、送られへんわ」

「一方的に、それだけ送ればいいんです」

「それで、もし“その通りや”って返って来たらどうしよう?」

「さっさと別れて、もっとイイ男を探せばいいんです。身体目的の男と付き合っていても時間の無駄ですからね」

「わかった、怖いけどメールを送ってみるわ」


「どうでした?」

「うん、身体が目的やろう? って送ってみた」

「なんて返って来ましたか?」

「一言だけ、“そうや”って……」

「じゃあ、“さよなら”だけ言ったらいいんじゃないですか?」

「うん、さよならは送った」

「そしたら?」

「彼氏も“さよなら”って」

「良かったですね、早く別れることが出来て。さあ、次の恋の準備をしましょう」

「うん、もしも崔君がいなかったら絶望してたと思うけど、崔君がいるから思ってたよりも冷静でいられるわ」

「冷たい身体目的の男と別れて絶望しないでくださいよ」

「でも、なんやろう? 情みたいなものはあったから」

「情なんか、通じる相手とちゃうでしょう? 今度は、素敵な恋をしましょうよ。倫子さんは、セ〇レにされるような女性じゃないですよ。ちゃんと愛してくれる男性と付き合った方がいいと思います」

「うん、わかった、そうする。相談に乗ってくれてありがとう。私、一人やったら泣いてたかもしれへんけど、崔君がそばにいてくれたから笑顔でいられるわ」

「いえいえ、お安い御用です。僕も彼女と別れたので、僕も新しい彼女を見つけます」

「ほな、どっちが先に新しい恋人が出来るか競走しよか?」

「いいですよ、負けた方が食事を奢るということで」

「じゃあ、勝負!」


 それから、今まで以上に倫子とバイト中に会話をするようになった。倫子は、僕が一緒にいると楽しいと言ってくれる。倫子はスッキリしたようだ。笑顔が眩しい。楓から“沢山の女の子を幸せにしなさい”と言われていたので、倫子の役に立てたなら嬉しい。なんて言っている場合じゃない。僕は、自分の恋人を見つけないといけないのだ。僕も茜というセ〇レの存在に喜んでいる場合じゃない。


 でも、どこで探す? こんな時に限って合コンのお誘いも無い。ナンパか? ナンパなのか? ナンパをしてみるべきなのか?



 僕はナンパをすることにした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る