第50話  崔は違和感をおぼえる!

 紅葉も見に行った。倫子が京都の花見の名所を見つけてくれた。有名らしい公園、座ってゆっくり紅葉を愛でることが出来た。その時も、倫子は弁当を作ってくれた。


「僕なぁ、桜は好きやけど、実は紅葉を見に来たんは今日が初めてやねん」

「あ、そうなんやぁ」

「紅葉もええもんやな」

「そうやなぁ」

「でもな、本当は桜でも紅葉でも何でもええねん。倫子と一緒にいられたら、それでええねん」

「そやなぁ、私もそうなんかもしれへん。崔君と一緒やったら、それでええのかもしれへんわ」

「あ、うちの文化祭来る?」

「そやなぁ、文化祭シーズンやもんなぁ、勿論、行くで」

「友達と来てもええし、一人で来てもええで」

「わかった。そやなぁ、今回は友達と行くわ」

「チケットとか無いねん。誰でも入場できるから。場所は知ってる? 知らんよね? 地図を書くわ」

「大まかな地図やなぁ、まあ、目印は書いてくれてるし、この地図で行くわ」

「大丈夫、その地図で辿り着けるから」

「何時くらいに行ったらええかな?」

「3時くらいにバンドで舞台に出るわ」

「バンドやってたんや」

「文化祭バンドやで、ライブハウスとかではやれへんよ。僕、ベースやけど下手やから見られるのは恥ずかしいんやけど」

「ほな、出店でご飯食べるとして、お昼頃から行くわ」

「うん、12時に校門の前に立って待っとくわ」

「ほな、12時に。ちゃんと待っといてや」

「うん、わかった」



 学校。男ばかりの学校だが、この文化祭の2日間だけは女性が来る! それは、男達にとって最高の2日間だった。この文化祭に女性を呼べたらカッコイイのだ。


 そこへ、12時ピッタリに倫子が来た。お友達と一緒だった。お友達は身体にフィットした黒のニットシャツ越しに、身体のラインが強調されていた。顔を見た。整った顔立ち、僕は倫子を贔屓目で見ているが、もしかすると倫子よりも美人かもしれない。そして色気があった。倫子にこの色気はない。僕はお友達に少し惹かれた。


「私の短大の時の友達で、三原響子さん」

「崔です。初めまして」

「三原です、初めまして」

「三原さんは、彼氏とかいるんですか?」

「いえ、今はいません」

「ほな、うちのクラスから1人、案内役をつけます。2対2の方がいいでしょう?」


 僕は、まず自分のクラスに2人を連れて行った。


「この中で一人、三原さんの案内役をやってくれる人?」

「「「「「「「「「「俺!」」」」」」」」」」

「はい、1番速かった仁君、お願いね」

「やった! 俺、立花仁です」

「三原響子です」

「三原さんは、今、彼氏がいてへんらしいから頑張れ、仁」

「おう、頑張るぜ」

「そんなに張り切らなくてもいいですよ、立花さん」

「はい!」


 張り切る仁と4人でクラス展示をまわって見て、出店でつまみ食いして軽い昼食。

 

 その頃には、仁が響子にピッタリつきまとっていた。響子ちゃんの笑顔が引きつっていくのが仁にはわからない。温度差があり過ぎるのだ。仁のハイテンションでは、そりゃぁ相手は引くだろう。でも、多分、僕も楓と出会う前だったら、仁みたいな感じだったのかもしれない。改めて、僕は楓に感謝した。


 僕もチラチラと響子を見ていた。ニットで描かれた線、巨乳なのは間違いない。Eだろうか? Fだろうか? 多分、響子は自分のスタイルの良さを自覚している。身体の線がわかりやすい服装だ。


「崔君、響子のことが気になるの?」

「いや、仁の様子を見てるんや、あいつ、今日はやたらテンション高いからな」


 慌てて言い訳をした。響子を見ていたら倫子にチェックされる。危ない、危ない。倫子に言われてハッと気付いた。僕は確かに響子を意識していた。楓と付き合っていた時は、誰が相手でも楓以外は目に入らなかった。この違いは何だろう? 違和感を感じる。僕は倫子に惚れているのか? 惚れていないのか……?


 3時頃、舞台では僕の下手なベースが鳴り響いた、だけど、倫子は、


「カッコ良かったよ」


と言ってくれた。


「最後の1曲、崔君が歌ったやろ、あれが特にカッコ良かったで」

「おおきに」


 文化祭が終わって、4人で近くのファミレスに入った。学校の近くに、洒落た店が無かったのだ。


「ねえねえ、三原さん、今日は楽しかった?」

「うん、理工系の学校に来たのは初めてやから、クラス展示とか、専門的なことをやっていて驚いた。私は文系やから、理系ってカッコいいと思うよ」

「今日の俺、どうやった?」

「今日の立花君? うーん、テンション高かった」

「それだけかい!」

「いつも、そんなテンションなん?」

「美人の前では、誰でもテンションが上がるねん」

「ごめん、時々ついていかれへんかったわ」

「うわ、電話番号を聞こうと思ってたのに」

「ごめん、電話番号は教えられへんわ」

「玉砕か? 俺、今日1日頑張ったのに。1回だけデートしてくれへん?」

「うーん、考えとくわ」

「仁、もうやめとけって、引かれてるのに、ますます熱くなってどないするねん、三原さん、顔が強ばってるやんか。そういうところに気付かなアカンで」

「崔、こんなチャンスは滅多にないねん、なんとかしてくれや。俺と三原さんを仲良くさせてくれ!」

「とりあえず、落ち着け、普通のテンションに戻れ、とりあえず深呼吸や」

「ヒーヒーフー、ヒーヒーフー」

「よし、落ち着いたな、その調子で喋れ」

「崔君のお友達って変わってるなぁ」

「女性に慣れてないんや。僕も18歳までこんな感じやったかもしれへん」

「悪いけど、響子は男を見る目はシビアやで」

「そうなんや」

「響子はモテるから、じっくり選ぶねん。だからイケメンとか、金持ちとか…」

「倫子、喋りすぎ。そんなに高望みはしてへんで」

「はい、はい。失礼しました」

「ほんで、俺はどうやったら三原さんにデートOKしてもらえるの?」

「三原さんに聞け。三原さん、どうですか?」

「三原さん、俺、三原さんとデートするためなら何だってやります」

「そのテンションが怖いねん。これで2人きりになったら恐怖やんか」

「ああ、完全に怖がられてしまった」

「仁、失敗を繰り返して経験値を上げれば、いつかきっと誰かと結ばれるから、それまで頑張れ」

「それが結論かよ。俺は、今すぐ彼女がほしいんやぁ」

「仁、それはアカンで。誰でもいいみたいに聞こえるわ。三原さんじゃないとアカンねんってことを伝えないと」

「そう、それ! 私も同じ意見。私、崔君と気が合うみたい」

「響子、アカンで、崔君は私のものやから、なあ、崔君」

「その通り」

 

 なにはともあれ、楽しい文化祭だった。倫子は、学校に本当に女子学生がいないことが確認できて安心したと言っていた。ただ、後の電話で妙なことを言っていた。


「響子のことなんやけど」

「三原さんがどないしたん?」

「崔君のことを気に入ったんやって」

「え? 倫子の彼氏やのに?」

「うん、さっき電話で崔君のことばかり聞いてきた。変な感じやから、もう、響子と崔君を会わさないようにするけど、ええかな?」

「ええよ、倫子に任せるわ」

「うん、変な話してごめんな」

「気にせんでええよ」

「崔君って、モテるんやな」

「モテへんわ、モテへんから18歳まで苦労したんやんか。今でも、口説いて口説いて口説いて、やっと付き合ってもらってる感じやろ? 倫子と付き合うまでにも時間がかかったやんか」

「モテない彼氏よりモテる彼氏の方がええけど、崔君と付き合うと苦労しそうやな」

「そんなことないで、今回はたまたまや、今日は疲れたやろ、おやすみ」



 電話を切った。僕は、倫子がいるのに響子を意識したことについて、何か違和感のようなものを感じ始めていた。その夜は、深く考えずに眠ったけれど。







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