第37話  崔は復活する!

 彼女にフラれたら、凹む。多分、それは当然のことだろう。僕は、仕事で手を抜くことは無かったが、バイトをしていても、しばらく憂鬱な気分で過ごした。目が死んでいたと思う。それだけ、聡子との別れがショックだったのだ。“相手は大手証券会社の証券マン? はいはい、どうせ僕は学生ですよ。僕を選ばなくて当たり前ですよね?”ショックのために、僕はふてくされていた。友人、知人に聡子のことを話さなくて良かった。“付き合いました! 別れました!”ではカッコ悪すぎる。


 そんな僕に話しかけてきたのは、茜だった。


「崔君、最近、元気が無いなぁ」

「あ、わかりますか? 最近、ちょっと、落ち込むことがありましたから」

「聡子さんと別れたからやろ?」

「え? なんで知ってるんですか? 聡子さんは、“同じ職場で付き合ってるのがバレたらマズイから、内緒にしておこう”って言ってたんですけど」

「実は、私だけは全部聞いてたの」

「え? 全部ですか?」

「そう、始めから終わりまで、全部」

「そうでしたか、それなら察してもらえると思いますが、聡子さんにフラれて凹んでるんです。これはどうしようもないです。心の傷を時間が癒やしてくれるのを待つだけです」

「じっと待つだけなん? もし気分転換したいなら、私が付き合ってあげるで」

「え? 付き合ってくれるって?」

「今度の日曜、食事に行こうや」

「え? 僕なんかが相手でいいんですか?」

「私、崔君に興味があるねん。プライベートの時は、どんな男の子なのかなぁって」

「そうなんですか? ほな、是非、食事に付き合ってください」

「聡子さんと行った、フレンチの店に連れて行ってや」

「そこでいいんですか?」

「そこがええねん。聡子さんが気に入ってた店やから行ってみたいねん。そこへ私も連れて行ってや」

「じゃあ、日曜、11時に〇〇駅前に集合でいいですか?」

「ええよ。楽しみにしとくわ」

「僕も楽しみです。予約しときますから」


 楓が言った通り、女性を忘れるには他の女性と付き合うのが一番かもしれない。僕は、茜とデート出来ることになって嬉しかった。僕は、手の平を返したかのようにウキウキし始めた。僕の接客に笑顔が戻った。作った笑顔ではなく本当の笑顔だ。



「ええ店やなぁ、料理も美味しいけど、お店の雰囲気がええわ」

「気に入ってもらえて良かったです。あえて、下町の、知る人ぞ知る名店を選んでるんです。周りは串カツ屋ばかりですが、そこであえてフレンチ、いいでしょう?」

「ごめんなぁ、私だけお酒飲んで」

「気にせず、いくらでも飲んでください。僕は未成年なので飲めませんけど」

「この後はどうするの?」

「すみません。ノープランです。カラオケか映画でも行けばええかなぁって思ってました。でも、テーマパークに行くには時間が遅いし。あ、水族館でも行きますか?」

「なんも決まってないんやぁ……ほな、私の家に来る? 一人暮らしやから、2人きりになれるで」

「いいんですか?」

「それとも、ホテルの方がいい?」

「茜さんの家に行ってみたいです」

「ほな、行こか」

「茜さんの家ってどこですか?」

「□□駅の近く」

「近いですね、タクシーで行きましょう」


 こんな棚からぼた餅みたいな話があってもいいのだろうか? 急展開だ。トントン拍子に話が進む。と思いつつタクシーに乗った。タクシーの後部座席で、ソッと茜の手を握ってみたら握り返してくれた。これは間違いない! いける! 何故いけるのか? その理由はわからないが、とにかく今日は茜を抱ける! そう確信した。



 茜の家は、1DKだった。聡子の部屋は、ぬいぐるみがあったり、女の子っぽい感じだったが、茜の部屋は、必要なもの以外は置いていないようだった。それが、茜らしいと感じた。キレイに整頓された部屋は清潔感があって好感が持てた。部屋や家具は、全体的に白と黒で統一されていた。カッコ良くてシブイ部屋だった。僕も1人暮らしを始めたらこういう部屋にしようと思った。やっぱり茜はカッコイイ。茜の彼氏って、いったいどんな男なのだろう? とんでもなくラッキーな男だ。


「キレイな部屋ですね」

「そんなことはええから、早く脱ごうや」

「え? 茜さん、もしかして酔ってるんですか?」

「全然、酔っ払ってへんよ。あのくらいで酔わへんわ。それとも、崔君、私を抱きたくないの?」

「めちゃくちゃ抱きたいです」

「ほな、ええやん」

「いいんですか? 抱いても」

「ええよ、今日はそのつもりで誘ったから」

「最初からですか?」

「言うたやろ? プライベートの崔君に興味があるって。聡子さんから、崔君はめっちゃテクニシャンやって聞いてるから、崔君がどんな風に抱いてくれるか興味があるねん。聡子さんを満足させた抱き方で抱いてよ」

「僕の腕試しですね」

「そうやで、期待を裏切ったら怒るで」

「わかりました、全力で抱きます」


 僕も茜も服を脱ぎ、ベッドに入った。僕は聡子の時と同じように、楓に教え込まれた女性の抱き方で対応した。燃えた! 茜がスタイル抜群なのはわかっていたが、脱がせてみて裸になると更にスタイルがいいということがわかった。茜が翌日も休みだったため、僕達は延々求め合った。“茜と付き合えたら、聡子のことを忘れられるかもしれない!”希望が芽生えた。茜が恋人なら最高だ!



 それは、とても幸せな時間だった。







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