第16話 崔はしくじる!
「え? 15分のツーショット勝負? まあ、いいですけど。あれ? タカさんも素子ちゃんを気に入ってるんですか? そんな素振りは無かったと思いますけど」
「だって、彼氏おらんの、素子ちゃんだけやんか。素子ちゃんを口説くしかないやろ」
「え? そういうノリなんですか? そんな軽いノリで口説いたら、素子ちゃんがかわいそうですやん。僕は、そのノリには乗れません」
「そうか? 要は素子ちゃんが惚れてくれたら、それでええわけやろ? 素子ちゃんは、俺に惚れさせる。俺に惚れたら、素子ちゃんも幸せになれるやんか」
「ちなみに、ブーも彼氏いませんよ」
「だから何やねん? 崔はブーを口説くんか? 崔の選択肢にも入ってへんやろ?」
「まあ、ブーは絶対に口説きませんけど」
「ほな、なんやねん、この無駄な会話。ブーの話はやめろ」
「いや、ちょっと考えましたが、やっぱりそのノリで素子ちゃんを口説いたら、素子ちゃんがかわいそうですよ」
「だから勝負するんやろ」
「ほな、僕は負けるわけにはいかないですね」
「おう、俺から素子ちゃんを守ってみいや。これは勝負なんや」
「どっちが先攻ですか? 僕はどっちでもいいですけど」
「ほな、崔が先でええよ」
「了解。……素子ちゃん、ちょっと」
「ん? 何?」
「15分だけ2人で話したいねん。ちょっと向こうへ行こうや」
「うん、いいけど」
みんなから見えないところまで移動する。
「で、話って何?」
「いや、素子ちゃんの元彼って、どんな人やったんかな? とか思ったりして」
彼氏の話は避けた方がいいかな? とも思ったが、どんな男が好みか知ろうと思って言った。タカに勝つには、僕が“素子が求める男”になればいいのだから。
「え? 私? まだ誰とも付き合ったこと無いよ」
「え? そうなん? そんなにかわいいのに? モテたやろ?」
予想外の答えだった。僕も女性と付き合ったことが無いのでリードしてもらうつもりだったのに、これでは僕がリードしなければいけないのか? 正直、かなり焦った。少し気持ちが重くなる。だが、タカに負けたくない。
だが、いまだに女性と付き合ったことの無い僕、成功体験の無い僕、これでは百戦錬磨のタカに勝てるわけがない。僕は敗北の予感がした。
「モテないよ。でも、どうして彼氏の話を聞くの?」
「いや、素子ちゃんの好みのタイプを知ろうと思っただけやねん」
「なんで私の好みのタイプを聞くの?」
「僕は、素子ちゃんの好みのタイプなのかなぁとか思って。僕はどう? 男として」
「うん、結構いい感じ。好感は持ってるよ」
「それマジ? 良かった、ごっつ嬉しいわ」
「で、崔君は本当に彼女いないの?」
「おらんよ。せやから、いい女の娘(こ)を探しに来たんや」
「それはわかる。私も出逢いを求めてた。でも、崔君は彼女がいそうに見える」
「おらんよ、信じてや。それを言うなら、タカさんの方が彼女いてそうやろ?」
「じゃあ、崔君を信じてみようかなぁ。でも、みんなの胸を揉んでたしなぁ」
「え? 何か意味ありげなお言葉やな。何? ハッキリ言ってくれてええよ」
「うーん、もしかして、誰でもいいとか」
「なんで? そんなわけないやんか」
「でも、私が1番胸が小さかったでしょ? 私、魅力が無いから」
「大きさの問題とちゃうよ。小さかろうが大きかろうが、好きな子の胸が1番やで! 僕は素子ちゃんの胸を揉んだとき、ちょっと幸せを感じてたわ。信じてや」
「私、昔から胸が小さいのがコンプレックスなの」
「素子ちゃんは背が高くて脚が長くてモデルさんみたいで、かっこええで。小顔やし。もっと自信を持った方がええで」
「そう言われると嬉しい。良かった。ありがと」
そこで、見つめ合ってしまった。
ここはキスか? キスなのか? キスするところなのか? でも、僕はキスをしたことが無い。だから、思い切って僕は素子を抱きしめた。ハグ。それが、僕の精一杯だった。ハグだけでも、僕は自分を褒めてやりたいと思ったが、これでは足りないのだろう。足りないとわかっていながら、最後までキスは出来なかった。
「僕のこと、弟やと思わんといてや。僕は男やで」
「うん、わかってる」
「これから、男として見てや」
「うん、崔君は男の子だよ」
「素子ちゃん、ありがとう」
その時、声がした。
「おーい! 崔―! どこやー?」
「ここや、ここや-!」
タカがやって来た。
「時間や。交代やで」
「わかった」
結局、また僕はキスすべきところでキスが出来なかった。猛烈に悔いた。
僕は、みんなのところに戻った。英美子や繭と話をするのだが、素子のことが気になって話に集中出来ない。英美子や繭という美人と話しているのに、どうして素子のことが気になるのか? 自分でも疑問だった。素子に好感は持っているが、まだ惚れているわけではないのに。そう、真亜子の時と比較すればわかる、僕はまだ素子に惚れてはいない。タカに遊ばれることを心配していたのかもしれない。
やがて、素子がタカと戻って来た。素子はタカに肩を抱かれていた。しかも素子は顔を赤らめて無口だった。僕は、“あ、キスして来たな”とわかった。僕もキスをしておくべきだったと改めて悔いたが、同時に、“ああ、素子はタカを選んだんだな”と思った。タカを選んだ素子に、急に興味が無くなった。不思議だった。
後で、タカがキスしただけではなく、素子の生乳を揉んだと聞いた。だが、その時には素子に興味が無くなっていたので、
「あ、そうですか」
負け惜しみでは無く、本当にクールに返事をすることが出来た。
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