第24話  崔は歌う!

 或る日、僕はアコースティックギターを家から持って来た。


「何これ?」

「アコギ」

「それは、わかってるねん。なんでいきなりアコギなん?」

「ちょっと練習して、一緒に弾き語りしようや」

「私、エレキギターしか弾いたことないで」

「だから、練習するねん。弾き語りって、結構、ストレス発散になるんやで」

「弾き語りかぁ……ちょっと、いや、かなり恥ずかしいかも」

「嫌かな?」

「ううん、おもしろそう」

「そうこなくっちゃ」

「曲は? 誰の曲を歌うん?」

「〇〇〇〇と△△△△の楽譜、持って来たから」

「え? 〇〇〇〇を歌うの? 誰も知らへんって」

「でも、△△△△があるからええんとちゃうの? △△△△やったら知ってる人も多いんとちゃうか? 勿論、他に何か歌いたい曲があったら追加するけど」

「私、××××がええわ」

「なんでなん? いきなり売れ筋やん、△△△△とえらい違いやんか」

「ええやんか、××××を歌いたいねん」

「わかった、明日、楽譜を持ってくるわ。10曲くらい出来る様になったら駅前でやろうや。大丈夫、カラオケで聞いた限り、楓の歌は最高や。みんなに聞かしたれ!」

「うわ、なんかドキドキしてきた。ライブやってた頃を思い出すわ。なんか懐かしい」

「そやろ、やっぱり音楽はストレス発散になるねん」

「崔君も練習してや」

「え? 僕も? いやいや、僕はベースやし、下手やし、歌わんでもええやろ?」

「アカン、2人でしよう。その方が楽しい」

「残念ながら、僕はギターを弾くとコードチェンジに時間がかかるねん」

「せやから、一緒に練習しようって言うてんねん」

「わかった。僕も頑張る。けど……」

「けど?」

「僕が歌うより、楓が歌った方が観客は喜ぶと思うけどなぁ。楓みたいなカワイイ子がキレイな声で弾き語りしてたら目立つと思うんやけど」

「私が、崔君の歌を聴きたいねん。崔君、私に崔君の歌を聴かせてや」

「わかった。そういうことなら僕も頑張る」

「うん、一緒に頑張ろう。いつまでにコピーするの? 1ヶ月くらい?」

「いや、1ヶ月と思ってたら2ヶ月かかる! 2週間や! 2週間を目標に頑張るんや。どうせなら早い方がええやんか」

「2週間? わかった、頑張るわ」

「2週間なんか、あっという間やで」



 あっという間に2週間。


「うわぁ、人通り多いなぁ」

「ここら辺でええんとちゃう?」

「よし、場所はここに決定。さあ、頑張れ楓!」

「なんで? 1曲目は崔君がやってよ」

「いやいや、僕は文化祭でしかやったことないから。ここはライブハウス経験者の楓からスタートやろ」

「アカン、アカン、お願い、崔君、最初の1曲だけ。雰囲気を見てみたい」

「わかった、1曲目だけやるわ」


 1曲目、△△△△の歌を僕が熱唱した。数人の男が足を止めた。僕の歌で足を止めたのではなく、隣に座っている楓が美人だから足を止めたということはよくわかっていた。悲しいけど、これが現実だ。


「はい、終わり! さあ、楓、行けぇ!」

「わかった! 歌ってみる」


 楓が、売れ筋の××××の曲の弾き語りをした。

 練習する前からわかっていたことだが、改めて思った。楓はかなり歌が上手い。声も綺麗だ。しかもビジュアルにも恵まれている。更に足を止める人が増えた。楓の容姿、声が大勢の通行人のハートを掴む。


「崔君、なんか、段々観客が増えてるんやけど、どうしよう?」

「その調子で2曲目、行こうや」

「えー? 崔君は?」

「僕もまた後で歌うから」

「わかった!」

 

 楓が更に××××の曲を歌う。足を止める人が多くなる。すごいぜ、楓パワー。僕1人で弾き語りをやっても、こんなには集まらない。僕が弾き語りをやってもせいぜい数人しか足を止めてくれないのだ。僕のテンションも上がってきた。


 観客は、僕と楓を交互に見ている。きっと、“なんで、こんないい女とこんな冴えない男が一緒にいるのだろう?”とか思っているのだろう。悲しいけど、そう思う気持ちはよくわかる。そんな僕だが、自分に自信は無いが、楓のためにも気を強く持つようにしようと思った。


「崔君、どうしよう? めっちゃ人が集まってきたで」

「その調子で3曲目や!」

「アカン、次は崔君! 絶対に崔君! 私は休憩!」

「よし、わかった、とっておきの曲を披露するわ」


 僕は、名作アニメのED曲を歌った。

 すると、誰もいなくなった。


「崔君、アカンやん!」

「あれ? なんでやろ?」

「なんで、ここでアニソンなん?」

「だって、名曲やんか」

「誰もいなくなってしもうたで」

「大丈夫、楓が歌えば、また人は集まる」

「でも、人前で大声で歌うってええなぁ」

「気分はどう?」

「最高! めちゃスッキリした」

「〇〇〇〇、全然歌わへんやんか」

「私は、××××を歌いつづけるわ」

「え? なんで?」

「さっきのアニソンで怖くなった。メジャーな歌以外、歌いたくない」

「試しに〇〇〇〇を1曲歌ってみてや」

「えー? 一曲だけやで」

「よっしゃ、行け!」


 楓が歌うと、やっぱり足を止める人が現れる。


「ほら、メジャーな曲やなくても、楓が歌ったら人は集まるんや」



「あの、すみません」







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