第19話 一網打尽

「凄い凄いっ!! こんなのチートじゃないっ!!」


 ミサは新しい杖の実力に愕然としていた。


 さっきまではゴブリン相手に杖を振っていたため、魔力の使用は控えめにしていたのだ。


 が、相手は強さもわからない盗賊団ということでちょっぴり本気を出してみたのだが、これは凄い……。


 洞窟から吹き出してくる黒い霧と、その霧に巻き込まれて洞窟から引きずり出されてくる盗賊団たち。


 この技の名前を『盗賊ホイホイ』と名付けよう。


 そんなことを密かに心に誓いながらも、洞窟から出てくる盗賊団を眺めるミサ。


「ぎゃああああああっ!!」


 と悲鳴を上げながら盗賊団が出てくるわ出てくるわ。


 いったい洞窟はどれぐらい広くて、どれぐらいの人がいるのだろうか?


 あまりの人数の多さに動揺を隠しきれない。


 が、数分間、盗賊の吸引作業を続けていると出てくる盗賊団の数は減っていき、最後はなんだか全身に宝飾品を身につけた小汚い中年の男と、手足を拘束された少女が飛び出して来て吸引作業は終わった。


 おそらく拘束されている少女は悪い子ではない。


 そう判断したミサは彼女を除いて、動きを止めると彼女に近づいて木刀で拘束具を切断してあげた。


 手足の自由を手に入れた少女は何やら怯えた様子でミサを眺めていたが「大丈夫よ。私は悪い人じゃないから」と伝えると、少し安心したようにペコペコとミサに頭を下げる。


 さて、ミサは予期せぬ形で盗賊団を一網打尽にしてしまった。


――さすがにこいつらを制止させたまま魔物討伐を続けるのは面倒そうだ。


 魔物討伐を始めて2時間近くは経過しているし、グラスたちは麓でずっと待機しているのだ。


 あまり長時間彼らを待機させておくのはかわいそうだ。


 ということでミサはこのまま下山をすることにした。彼女は盗賊団の山へと右手を向けると彼らを軽々と空中に浮かせて、グラスの待つ麓へと歩き始めるのだった。


※ ※ ※


 盗賊団員を手土産に麓へと戻ってきたミサに、さすがのグラスも引いているようだった。


「こ、これは凄いですね……。ミサさまには厳しく指導するつもりではいますが、これは手放しに褒めるしかなさそうです……」

「グラスが私を褒めるなんて天変地異の前触れかしら」

「いや、憎まれ口を叩くほどの余裕がないだけです」


 ということらしい。グラスを始めとした騎士団員たちは目の前に積み上がった盗賊たちに戦々恐々としていたが、グラスの「仕分けをして拘束しろ」の言葉で我に返ったのか、用意していたロープで彼らを拘束し始めた。


 が、それでも人手が全然足りなかったようで、途中から誰が連れてきたのか他の兵士たちもやってきて盗賊団は拘束、金銀財宝は一旦没収という作業を朝まで続けたそうである。


 ちなみに解放された少女はレビアの花屋の娘だったらしく、ここで見たこと聞いたことは他言無用だとグラスが言いつけて解放したようだ。


 そして、ミサはというと、応援の兵士たちがやってくる直前にグラスによって城まで馬車で送って貰った。


 ミサの実力を知っているのはグラスとごく一部の騎士団員のみである。他の兵士にミサの姿を見られるのはマズいのだ。


 ミサがその後どうなったのかを聞かされたのは翌朝のことである。


「でかしたぞグラスっ!! さすがは我が近衛騎士団長だ。褒美については王都に戻ってから検討するから今のうちに何が欲しいかゆっくりと吟味しておけ」

「ありがたき幸せにございます」


 シーファー捕縛の報告を聞いたザルバ4世も上機嫌で、朝から高級ワインを空けて即席の祝賀パーティを開いたほどである。


 ちなみにシーファー捕縛はグラス率いる一部の近衛騎士団が行ったということになり、国王のグラスへの信頼がさらに厚くなった。


 ミサとしても鍛錬の恩返しができて本望である。


 捕らえられたシーファーたちは牢獄にすし詰め状態で拘束されており、現在取り調べを受けている。


 団員たちは皆口々に赤い髪をした化け物に襲われたと証言したそうだが、それらの言葉は全て薬物を常用している彼らの見た集団幻覚だということで片付けられた。


 が、一部の兵士は彼らが口にした赤い髪の化け物という証言を噂するようになり、その噂は他の部隊へと伝播していったのだが、それは別の話である。


 それはそうと今回のシーファー殲滅で少し困ったことも起きた。


「あ、ありえない……こんな少人数で、それも短時間で……」


 プルートス伯爵はシーファー殲滅の報を聞いて愕然としていた。


 聞いた話によると伯爵はすでに何度もレビアの兵を山に送り込んでいたそうだ。


 が、彼らは山の中を転々としているためアジトを見つけるのは困難だった上に、仮に見つけられたとしても、彼らが山に入るとすぐに情報が伝わり完全武装で返り討ちに遭うことも多かったようだ。


 そんな厄介な敵であるシーファーを一晩で、それも騎士団数名で制圧したと聞いて動揺せずにはいられなかった。


 が、牢獄には確かにシーファーのボスを始めとして多くの団員が収監されている。


 確かにそれが事実だと理解した伯爵は、何度もグラスにレビア兵の指導をするよう懇願するのであった。


 そんな伯爵の言葉をグラスは珍しく苦笑いを浮かべながら聞いていた。

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