第28話 夢のような大陸
というわけで謎の大陸に上陸したラッドたち一行だったが、ラッドを初めとして全員、ここがどこかは全くわからない。
少なくともそこには見渡す限り大自然が広がっており、見えるのは延々と続く砂浜とジャングルだけである。
どう考えてもひと気はないし助けを呼ぶどころの騒ぎではない。
それでも久々に陸地に降り立ったことに彼らは安堵したのだろうか、彼らは上陸するなり砂浜に座り込むと頬を緩める。
「あぁ~陸地だ~。やっぱり揺れない地面ってのは最高だな~」
なんて満天の青空を見上げながら、心から喜びを露わにするラッド。
ちなみにミサは毎日のようにひそかに陸地に降り立っているので、ラッドの気持ちはよくわからない。
が、まあ、少なくともここでは海竜に襲われることも、荒らしに見舞われて転覆の恐怖を味わうこともないだろう。
が、やはり、ここにいても何も事態は好転しないのでは?
そう思ったミサはラッドの肩を揺する。
「ラッド、どうやって助けを求めるんですか? ここには民家はなさそうですが」
「な~に心配ねえさ。この海には毎日何百何千って数の船が大陸間を移動しているんだ。いずれ、この辺りにだって船がやってくるさ。その時に狼煙を上げて助けを求めれば良い」
ということらしい。
「それに見てみろミサ」
そう言ってラッドは近くに生えるヤシの木のような木を指さす。
「あの実の中には栄養満点のミルクが入っている。あれを飲んで適当に魚でも釣って食ってれば飢え死にすることもないさ。南国を満喫しながら助けが来るのをのんびり待っていれば良い」
と、なにやら楽観的なラッド。
が、不意に少し不愉快そうな表情を浮かべると、わずかに腰を浮かせて尻の下を眺める。
「石か? さっきから尻に当たって痛くて仕方がねえ」
どうやら砂浜に石でも埋まっているようだ。ラッドは砂浜を掘るとそこに埋まっている物を確認した……のだが。
「…………」
「…………」
砂を掘って現れたのはどう見ても人間の頭蓋骨にしか見えない真っ白な物体だった。
顔を見合わせるラッドとミサ。が、ラッドはすぐに頭蓋へと視線を戻すとゆっくりと頭蓋骨を埋め直して引きつった笑みを浮かべた。
「な~に、すぐに助けはやってくるさっ!! それまでみんなで楽しくキャンプといこうじゃねえか」
――あ、こいつ今現実逃避した……。
「そ、そうですね……」
が、彼らに現実を突きつけるのはあまりにも酷なので、ミサは引きつった笑みを返すとラッドに同調することにした。
※ ※ ※
それからラッドたち一行は、その場でしばしの休憩を取ることにした。彼らは久々の陸地を満喫するように、その場に寝そべると次々とすやすやと寝息を立て始める。
ミサもまた彼らの真似をして砂浜に寝そべっていると、次第にうとうとし始めて眠りに落ちてしまった。
が、しばらく眠ったところでミサは絶叫によって目を覚ます。
「「「「ぎゃああああああああああああっ!!」」」」
「お、おい、誰か武器を持ってこいっ!!」
「あ~もう終わりだ……俺たち、ここで死ぬんだ……」
なんて物騒な声で目を覚ましたミサが瞳を開くと、そこには怯えたようにジャングルの方を見つめるラッドたち一行の姿。
ということでミサもジャングルの方へと目をやったのだが。
「おおっ!! おおおおおおおおおおおっ!!」
ジャングルを見た瞬間に、ミサの心が躍る。
ミサの視線の先には魔物、魔物、そして魔物の姿。
――え? なにこれっ!? もしかして神様からのプレゼントっ!?
ジャングルからぞろぞろと姿を現したのはミサにとっては魔物オールスター集団だった。
左から順番にアナコンダ……よりも数倍大きそうな大蛇、鎧を纏い手には剣を掴んだオークの集団、さらには同じく鎧を身に纏ったアンデッドの集団と、さらにはドラゴンが3匹ほどが、獲物を見るような目でミサたちを見つめていた。
盆と正月が一気に来たような光景である。
さらに言えばどいつもこいつもギート王国で討伐した物よりも数倍大きく、顔つきも心なしか獰猛なようにミサには見えた。
――あぁ~私、嬉しすぎて絶頂しそう……。
その淑女らしからぬ気持ちがこみ上げてくるのをぐっと抑えながら、ミサはぴょんっと立ち上がる。
目をキラキラさせながら集まってくれた魔物たちを眺めていたミサだったが、彼女は凡ミスを犯していた。
ここのところ船上で退屈な時間を過ごしていたせいで、不要だった魔法杖をギート王国に置いてきてしまった。
ちなみに木刀は船の中だ。
が、その程度のミスはご愛敬である。武器がなければその場で調達すればいい。
「とりあえず皆さんは急いで船に戻ってくださいっ!!」
とりあえずミサは小舟を指さして、ラッドたちに避難するように促す。
普通ならばラッドに『無謀だっ!!』と言われそうなところだが、彼らは海竜をミサが撃退したところを目撃している。
「だ、大丈夫なのか?」
と一応ラッドはミサに尋ねるが「大丈夫ですっ」と答えると、彼らは顔を見合わせて船へと移動していった。
これでミサが暴れ回ることのできる土壌が整った。
ということでミサは行動を開始する。
とりあえず地を蹴って彼らの元へと駆けていくと、そのままジャンプをして近くのヤシの木もどきへと跳び蹴りを食らわす。
ミサの跳び蹴りにヤシの木もどきは弓を引いたように大きくしなると、限界までしなってからヤシの実もどきとともにミサの軽い体を弾き飛ばした。
魔物たちの視線は一斉にミサへと向く。
弾き飛ばされたミサはそのまま一匹のオークめがけて飛んでいくと、両手を伸ばしてオークの剣を掴んで、オークから剣を奪い取る。
ミサはくるっと宙返りをして地面に着地すると、剣を興味深く眺めてから軽く振ってみる。
――これってオークが自分たちで作ったのかなぁ? それともドワーフが作った物を貰ったの?
その辺の裏事情はよくわからないが、わりとしっかりとした出来の剣である。見たところ刃こぼれも見当たらないし錆びもない。
後は強度だ。
とりあえず側にいたアンデッドに魔力を込めずに剣を振るってみる。剣はなめらかにアンデッドの胴体を通過して、足下にバラバラと骨が散らばった。
切れ味は申し分ない。なんならば巡幸中に立ち寄った武器屋で触った剣よりも頑丈な気さえする。
あとよくわからないが、アンデッドの骨は何かしらの相互作用で結合しているようで、それがなくなるとバラバラになってしまうようだ。
ミサは、また一つお利口さんになった。
彼女は一度、ぴょんっと後方に跳ねて宙返りをして、彼らとの距離を取ると一度オールスターたちを眺めやる。
「さあ、やっちゃうかっ」
ミサは一度ニヤリと笑みを浮かべると、彼らへと向かって駆け出すのであった。
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