第49話 あっさりバレる

――いや、ここどこっ!?


 城の庭へと出たはずが、なぜかミサは屋内にいた。辺りを見回すと、そこはミサがあてがわれた寝室よりも2倍ほどの広さはある空間で、部屋には天蓋付きの薄ピンク色のベッドと、高級そうなソファが置かれている。


 誰かのプライベートルームのようだ。


「はわっ!? はわわわわわっ……」


 と、そこでベッドから声が聞こえた。ベッドへと目を向けるとそこには驚愕したように目を丸くしながらミサを見つめる少女が座っていた。


 おんなのこ座りをしたその少女は下ろした長いブロンドの髪で月光を反射させながら瑠璃色の瞳をミサに向けていた。


 どうやらここはリズナの寝室だったようだ。


――いや、なんで私、リズナの部屋にいるのっ!?


「なんで私、ここにいるのっ!?」


 思わずそう叫んでしまうが、リズナはそんなミサの声にまた「はわわっ!?」と驚いたような声を出すと瞳に涙を浮かべ始める。


「そ、それはこっちのセリフですわっ!! どうしてあなたが私の部屋のいますのっ!?」


 と、至極真っ当すぎるお言葉をリズナから頂戴するミサだが、ミサにはその正論に返事ができるほど冷静ではいられない。


 どうして自分はリズナの部屋にいるのだろうか? 確かにミサは東屋に魔法陣を置いてきたはずだ。


――というか、魔法陣はどこ?


 慌ててミサは辺りを見回すと、なぜか魔法陣はリズナの部屋の壁に画鋲で固定されていた。


――い、いや、なんで……。


「どうして魔法陣があんたの部屋にあるのよ」


 相手がレビオン王国の王女だということも忘れて、タメ口でリズナにそう尋ねると彼女は「ま、魔法陣ですの?」と首を傾げる。がすぐに何かを思いだしたかのように「あ、あぁ……」と声を漏らす。


「東屋で拾ったのですわ。ミユウに聞いたら魔除けのお守りに似ているって言われて、それで壁に貼っておいたのですわ」


 ミユウ? メイドか何かの名前だろうか?


 とにもかくにもミサの置いてきた転移魔法陣はリズナに拾われてしまったようだ。


 さて、面倒なことになった。ここは大人しく部屋に戻った方が良さそうだ。


「あ、なんだかわからないけれど、失礼しやした……」


 とりあえず愛想笑いを浮かべたミサは、壁に貼られた転移魔法陣へと手を伸ばして部屋に戻ろうとする……が。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし」


 そんなミサをリズナが呼び止める。


「なに? 私急いでるんだけど」

「も、もしかしてそれ、転移魔法陣じゃなくって?」


――あ、やばい……バレてる……。


 そんなリズナの言葉にミサは引きつった笑みを浮かべる。


「リズナさまったらまたまたご冗談を……。私はギート王国の王女ですよ? そんな私が転移魔法陣なんて扱えるはずが」

「本当のことを言わなきゃ叫び声をあげますわっ!!」

「リズナさま、悪趣味なご冗談は……」


 ミサは内心ガクブルである。ミサが仮にここで逃げたとしても魔法陣はリズナの部屋に残り続ける。それを見たミサの家臣たちはすぐにこれが転移魔法陣だと気づくだろう。


 リズナがその気になれば、ミサが突然リズナの部屋を訪れて彼女の命を狙おうとしたみたいな筋書きを作ることができるのではないか……。


 それは色々と面倒すぎる。さらにはグラスにミサが部屋を脱出したことがバレて叱られる。


――ま、マズい……。


 なんて色々と想像力を膨らませながらガクブルするミサ。そんなミサを眺めながらリズナはぴょんとベッドから飛び降りるとミサのもとへと歩み寄る。


 彼女の腕には抱き枕にでも使っているのだろうか、ウサギの大きなぬいぐるみが抱えられている。


「ミサさま、もしかして転移魔法が使えますの?」

「ま、まさか……」


 と答えるもののリズナは全く信用していない。ぬいぐるみを抱えたままミサのもとへと歩み寄ってくると何やら真剣な目でミサを見つめてきた。


 どうやら彼女は風呂から出たばかりのようで、少ししっとりとしたブロンドの髪からはなにやら甘い香りが漂ってくる。


「ミサさま、私にも転移魔法の使い方を教えてくださいまし」


 真剣なまなざしでミサを見つめるリズナは、そんなことを口にした。


「…………はあ?」

「聞こえませんでしたの? 私にも転移魔法の使い方を教えてくださいまし……」


 何を言い出すかと思えばそんなことを言い始めるリズナ。


「い、いや、だから私は転移魔法なんて……」

「もしも嫌だとおっしゃるのであれば、私、叫び声を上げますわ。ミサさまから命を狙われたと家臣に言いつけてこの魔法陣を提出しますわ」

「…………」


 もしも白を切れば面倒事になりそうだ。


 が、当然ながら転移魔法なんてものは教えようとして教えられるものではない。


「リズナさま、転移魔法を使用するには莫大な魔力が必要です。教えようとして教えられるものではありません」

「だったら、ミサさまの転移魔法をしようして私を連れて行って欲しい場所がございますの」

「連れて行ってほしい場所?」

「私をママのところに連れて行ってくださいまし」

「はあっ!?」


 なんだかよくわからないがリズナには思惑があるようだ。


 ミサは転移魔法から手を離して「はぁ……」とため息を吐いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る