第55話 会談
ミサが自分の起こしたミスの尻拭いをしているとき、グラスとギート王国から派遣された高官たちは城でレビオン王国高官との会談を行っていた。
ミサの目的はこのゲームの聖地であるレビオン王国での冒険だが、ギート王国の目的は他にある。
城の三階に位置する広い部屋には10人以上が腰を下ろせそうな巨大な楕円形の円卓が置かれており、そこにはギート王国の高官が5人、対面にはレビオン王国の高官が5人腰を下ろしていた。
ちなみにレビオン国王の姿はない。
ギート王国の高官相手にわざわざ国王が出向く必要がない。というのがレビオン王国の姿勢である。
とはいえ会談の内容は当然ながら国王の耳には入るのだが。
グラスは用意されたティーカップに口を付けると、正面に座る国防大臣へと目を向ける。
「我々ギート王国とレビオン王国の王家は縁戚関係にあたります。我々ギート王国としては、広義の家族としてレビオン王国と友好関係を続けていきたいと考えております」
グラスが聞き出したいのはレビオン王国の野心についてである。
レビオン王国はこれからも世界会議に所属し続けるのか?
それとも世界会議を脱退して新たな枠組みを作るのか?
そのことが知りたい。が、単刀直入に尋ねたところでレビオン王国側が素直に答えることはないだろう。
だからジャブを打ちながら、徐々に本音への道筋を探っていくのだ。
「当然ながらレビオン王国としてもギート王国とはこれからも友好関係を維持していきたいと考えております。距離は離れていても同じ血が流れる者同士深い絆で結ばれていると私は信じております」
そう答える国防大臣。
ここはお互いにとって挨拶のようなものだ。その後もお互いの高官は上っ面の友好関係を再認識するような会話を続けて行く。
が、ずっとこんな中身のない会話をしていても意味がない。
そこでグラスはギート王国の国防大臣へと目配せをした。国防大臣はグラスの意図をくみ取った上でうむとわずかに頷いた。
国防大臣は口を開く。
「これまでの会話でギート王国とレビオン王国が深い絆で結ばれていることを再認識することができました。そのような間柄であるということを前提に、我々ギート王国からレビオン王国の皆様の耳に入れておきたい情報がございます。具体的な話はグラスにさせましょう」
ということでここからが本題だ。
グラスは再びティーカップに口を付けて緊張を和らげると強めのジャブを打つ。
「これはレビオン王国を訪れた商船からもたらされた話なのですが、どうもガルバス大陸で良からぬことを考えようとしているならず者がいるそうです」
そう口にした瞬間、レビオン王国の高官たちの表情がわずかに強ばった。
「あくまで商船の乗組員が口にしたことですので誤りである可能性もあります。国籍不明の軍艦がガルバス大陸の北方で港の建設を行っているのだとか……」
あくまで国籍不明だと言っておくのがミソである。
「それは由々しき事態ですね。ガルバス大陸は世界会議によって帰属未確定地に指定されております。そのような場所に港を作るのは世界会議の秩序を乱しかねない」
「ごもっともです」
勿論グラスも予想はしていたが、レビオン王国はそれが自分たちであると白状するはずがない。
が、高官の表情を見るにかなり動揺をしているようではある。そんな彼らの表情を見てグラスは確信した。
おそらくミサキはレビオン王国にミサのことを話していないであろうというこを。
もしもミサキからミサのことを聞いていたとすれば、当然ながらグラスのそんな指摘を彼らもあらかじめ想定していただろう。
が、この動揺はギート王国からの指摘を全く予想していなかったようだ。
少し安心したグラスは話を続ける。
「われわれギート王国はこの件を世界会議に通報し、調査の依頼を行うつもりです」
グラスの言葉にレビオン王国の高官たちはまた動揺する。このグラスの言葉にどう返すべきなのか高官たちは国防大臣へと目を向ける。
国防大臣は何やら不気味な笑みを浮かべてグラスを見やった。
「世界会議に属する国として当然の行動ですな」
「ですな」
「ギート王国のお好きになられるのがよろしいかと」
虚勢だろうか? いや、こんなところで虚勢を張ったところでレビオン王国に利益があるとは思えない。
となるとレビオン王国には仮に世界会議に通報されたとしても困らないだけの何か秘策があるということになる。
考えられるとすれば魔大陸の後ろ盾だ。
グラスはそう考えた。仮に世界会議を敵に回したとしてもすでにレビオン王国と魔大陸との間で話がついているのだとすれば話は色々と変わってくる。
「では早急に世界会議に報告を」
「ギート王国はどうするおつもりだ?」
と、そこで国防大臣がなにやらニヤリと笑みを浮かべながらグラスたちギート王国の面々を見やる。
「どうするとはどういうことですか?」
「あなた方はこれからも世界会議にとどまるつもりかと聞いている」
国防大臣は砕けた口調で単刀直入にそんなことを尋ねてくる。
開き直ったようだ。
グラスはそう判断する。
ギート王国に軍港建設のことがバレている以上これ以上回りくどい会話をしても意味がないと思ったのだろう。仮にここで白を切ったとしても世界会議が調査をすれば軍港を建設していることはバレるのだ。
開き直り横柄な態度をとる国防大臣の態度に今度はギート王国の高官たちが動揺しはじめる。
そんな彼らをいさめるようにギート王国国防大臣はえへんと咳払いをした。
「貴殿のおっしゃっていることが理解しかねます」
大臣はそう冷静に返すが相手は相変わらず余裕の笑顔である。
「いやわかっているはずだ。今回レビオン王国にやってきた目的も我々の目論見を確認しにきたのであろう」
「あくまで我々は――」
「もしもギート王国が世界秩序の新たなアプローチを模索しているというのであれば、我々は貴殿の相談に乗ろう。冒頭で申し上げたとおり我々レビオン王国とギート王国は深い絆で結ばれていると信じている。貴殿が我々の力を借りたいのであれば我々も歓迎する」
そう言ってレビオン王国の国防大臣はニヤニヤと笑みを浮かべたまま立ち上がると、そのまま部屋を出て行ってしまった。
そんな大臣の背中を眺めながらグラスは思う。
国防大臣の言葉を要約するとこういうことだ。
レビオン王国は魔大陸と手を組んで世界会議に対抗するだけの組織を作る。もしもそれに乗っかりたいと言うのであればギート王国が参加しても良いということ。
レビオン王国の自信は戦争も厭わないという確固たる意志があるからだろう。
本当に困った……。
仮に戦争をするとなればギート王国としてはどちら側についても、それ相応のコストを支払うことになる。
できるのであれば戦争は避けたいグラスにとっては頭の痛い問題になりそうだ。
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