第57話 ミサ収監

 なぜかわからないが、レンドブルグに到着するなりミサは住民たちに追い回されることになった。


――いや、なんでっ!? なんで追われてるのっ!?


 とりあえず再びルーア藍染め店に行ってユリに会いに行くつもりだったのだが、棍棒や掃除用のブラシを握って追いかけてくる住民たちのせいでそれどころではなさそうだ。


「おいっ!! 逃げても無駄だっ!!」

「俺たちは何があってもリリの味方だっ!! 例え王国軍が攻めてきても最後の一人になるまで戦い抜いてみせるからなっ!!」


 などなど全くもってミサには理解できないことを叫びながら追いかけてくる住民たち。


 彼らから逃げ切ること自体は別に難しくはないのだが、このままではユリにリズナを会わせることなんて到底無理そうである。


 いったい何が彼らをここまで奮い立たせるのだろうか?


 さっぱりわからない。……が、わからないのであれば彼らに直接尋ねるしかなさそうだ。


 ということでミサは足を止めた。


 ここは逃げるよりも捕まったほうが早いかも知れない。まあ、仮に捕まったとしても転移魔法が使えるミサにとっては大した問題ではないのだ。


 足を止めると追いかけてくる住民たちを眺める。あっという間に怒り心頭の住民たちはミサの元へとやってくると力任せに棍棒やブラシを振り上げる。


 が、相手は幼い少女である。さすがに彼らにも倫理観はあるようで逃げも隠れもしない一見無防備なミサをしばらく眺めると振り上げた腕を下ろした。


「いったい私をどうするつもりなの?」


 ミサはできる限り恐怖しているような表情を浮かべると彼らを見つめた。


 すると住民たちはミサの演技にほんのわずかに罪悪感を抱いたようで。


「お、お嬢ちゃんが誰に頼まれたかしらないが、リリの敵は俺たちの敵だ。悪いが嬢ちゃんをこのまま街から逃がすわけにはいかない」


 『肉』と書かれた前掛けをした男はそう言うと懐から手枷を取り出すと、ミサの両手にそれを嵌めた。


 ということでミサはどこかへと連行されていくことになった。


※ ※ ※


 それからミサは住民たちにぞろぞろと引き連れられて『リクテン文具店』と書かれた建物の地下牢へと閉じ込められることとなった。


 石の床に薄っぺらいゴザのような物が敷かれており、手枷は外して貰えたが当然ながら鉄格子によって外に出ることはできない。まあミサがその気になれば出られるのだけれど。


――ってかなんで当たり前のように文具屋の地下に牢屋があるのよ……。


 そんな素朴な疑問を抱きながらもひとりぼっちの牢獄内で退屈をしていると、なにやら足音が聞こえ階段から屈強そうな中年の男がこちらへとやってくる。


どうやらこの中年の男はなにやらミサに敵意を持っているようで険しい表情をミサに向けながら鉄格子の前までやってきた。


「おいガキ、てめえがレビオン王国に使わされてやってきたことはわかってんだっ!! 泣かされたくなければ素直に白状しやがれっ!!」


 男はミサを睨みつけるなりなにやら怒号を飛ばしてくる。


「う、うえ~ん……」


 と、試しに嘘泣きをして男の表情を確かめてみるが「嘘泣きはやめろっ!!」と一発で看破されてしまった。


――バレたか……。


「ってかなんで私が捕まらなくちゃいけないのよ。わけがわからないんだけど」

「はあ? 決まってんだろ。お前がリリのことを知っているからだよ」

「いや、知ってるってリリさんがリズナのお母さんだってことしかしらないんだけど」

「それだけで十分だっ!! なんでお前みたいなクソガキがそんなことを知ってるんだよっ!!」


 ということらしい。なんとなくそんな気はしていたがやはりユリはこの街に匿われていたようだ。


「おい白を切るのもそれぐらいにしておけよ。言っておくが俺たちは王国の脅しに屈するつもりはねえ。リリの命を狙うつもりなら殺されても抵抗するからなっ!!」

「別に殺すつもりなんてないわよ。私はユリさんに用があるだけだし」

「そんな下らん嘘に騙されるか。しかしレビオン王国も汚えまねをするもんだ。こんな子どもを刺客に送り込んで油断させるとはな」

「いや、だから刺客じゃないし。というかどうしてレビオン王国がユリさんの命を狙う必要があるのよ……」

「決まってんだろ。リリが生きていられたら困るからだよ」


 なんだかよくわからないがユリが生きていることがレビオン王国にとって不都合なようだ。


 が、そんな男の話を聞いてミサはふと素朴な疑問を抱く。


「そもそもユリさんを殺すつもりだったら、わざわざ城を追放なんてせずに城にいるときに殺せばよかったじゃない。わざわざ追放してから殺す意味なんてないでしょ?」


 ミサには事情はわからない。が、もしもレビオン王国にとってユリが不都合な存在だったらさっさと殺してしまえば良い。


 が、そんなミサの疑問に男は「はあ?」と首を傾げる。


 白昼堂々リリを殺したらさすがに国王にバレるだろ。


「はあ? 何を言ってんの? 国王がユリさんを殺そうとしているのにバレるもクソもないでしょ」

「はあ?」

「はあ?」

「はあ?」


――なんだろう……話がかみ合っていない気がする。


「お前、王妃の使いだろ? それとも事情を聞かされていないのか?」

「王妃? なんで王妃の話が出てくるのよ……」


――わけワカメ。どうしてそこで王妃が出てくるの?


「知らないのか? リリが追放されたのは王妃に罪を着せられたからだ。そのことが国王の耳に入ると困る王妃がリリの命を狙ってるって話だよ」

「罪を着せられる? 罪を犯したのはユリさんの方でしょ?」


 そう尋ねると男は頭を抱える。


「かわいそうに。本当のことも聞かされないでリリを殺せと命じられたんだな?」

「本当のことってなによ……」

「リリさんは罪なんて犯していない。諸悪の根源は全て王妃にある」

「…………」


 なるほど……どうやら今回の問題は思っていた以上に根深いようだ……。


 そんな男の話を聞きながらなにやら面倒事に巻き込まれたとミサは頭を抱えるのだった。

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私がなりたいのは冒険者であって王女じゃない~箱入り娘は退屈なので夜は転移魔法で城を抜け出して魔物を滅ぼします〜 あきらあかつき@5/1『悪役貴族の最強中 @moonlightakatsuki

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