第47話 ささやかな仕返し
――クソガキぶっ殺してやろうか……。
わざわざ港まで出迎えてくれたリズナ殿下をぶっ殺したくなりながらも、ミサは終始営業スマイルを振りまきながら馬車に乗り込んで王都へと向かうことにした。
「なんだか田舎の匂いがしますわね……」
などなどリズナはちょいちょいミサを馬鹿にするような発言を挟んでいたのだが、馬車に乗る頃にはミサの意識はリズナから他のことに移っていたので、彼女の耳には入らなかった。
――そんなことよりも。
「わぁ~」
ミサは馬車から見える景色に思わず息を呑む。
――げ、ゲームと一緒だっ!! 私、本当にゲームの中の世界にやってきたんだっ!!
彼女の瞳に映る景色は紛うことなきゲームの世界だった。初めて訪れる場所にもかかわらず、新鮮さよりも懐かしさと実家に帰ってきたような安心感が勝る。
「す、凄い……」
思わず感嘆の声を漏らすミサだったが、リズナの方はそんなミサを見て何かを勘違いしたようで「そりゃギートの田舎と比べれば、ここは大都会ですわね」と得意げな表情を浮かべていた。
お互いに勘違いをしている間に馬車は王都の中心にそびえ立つ巨大な城へとたどり着いた。
「お、おおおおおっ!!」
そして、レビオン王家の城を目の当たりにしたミサはまたもや興奮する。
――い、一緒だっ!! ゲームと一緒だっ!!
そこにそびえ立つ城はかつてミサの操るミサキシリーズが、魔王を倒して王女を送り届けた城である。ここでミサキは割れんばかりの民衆たちの歓声に出迎えられ、国王から称えられた。
そして、この城の二階部分にあるバルコニーで救った王女と口づけを交わしたのだ。
ミサにとっては目に映る光景全てが聖地である。
馬車を降りたミサたち一行は使用人によって客間へと案内される。ここで長旅の疲れを取りたいところだが、ミサは荷物を置くなりすぐにグラスに呼び出され使用人の案内のもと謁見の間へと向かうことになった。
なんでもこれからレビオン国王に謁見するのだという。
正直なところあまり乗り気ではないが、断れる案件でもなさそうなので仕方がない。
ということで謁見の間へとやってきた。
前世の学校の体育館ほどの広さのその空間には、何やらゴシック風の頑丈そうな柱が並んでおり高い天井を支えている。中央に敷かれた赤絨毯を歩いて行くと玉座に座る国王らしき姿が見えた。
とりあえず玉座の前までやってきたミサはその場に跪く。すると王の側近らしき男が「陛下、ギート王国の第三王女ミサ・クリント・ギート殿下にございます」とミサを紹介する。
「表をあげよ」
ということなので表を上げると、そこには玉座に座るご機嫌そうな中年の男が見えた。
見覚えのない顔だ。おそらく『レビオンクエスト』の時代から代替わりをしているのだろう。
ということはゲームで国王の側にいたモブ王子が即位したのだろうか? なんて考えていると国王はミサに微笑みかけてきた。
「ミサ殿、よくぞレビオン王国にお越しくださった。我が名はフェルディナンド2世だ。クリント家と我々ルボン家は縁戚関係にある。まあ、私のことは親戚のおじさんとでも思ってくれ」
「いえ、恐れ多いことにございます……」
どうやら小生意気なリズナを見ただけに、どれほど横柄な態度を取られるのだろうと身構えていたが、父親の方は常識人のようで安心した。
「ところでリズナとはもう会ったかなね?」
と、そこで国王の口からクソガキの名前が飛び出して、ミサは思わず眉間に皺を寄せてしまう。
そんなミサの顔を見て国王は何かを察したのか「がははははっ!!」と笑い始めた。
「その様子だと、またリズナのやつが貴殿に失礼な態度をとったのであろう」
「い、いえ……そのようなことは……」
「隠さなくてもよい。あやつが貴殿にどのような態度を取ったかなど手に取るように理解できる。あやつに代わって私から謝っておく。すまないことをしたな」
「いえ、めっそうもございません」
「が、今回の貴殿の案内役、世話役はリズナに任せようと思っておる。あやつは末っ子で兄や姉とも年が離れているからな。貴殿のように年の近い王族と接するのは初めてなのだ。彼女にとって良い経験になるだろう」
――陛下、私をあのクソガキの経験値にするのはやめて頂けませんか?
そう思わなくもないが、口が裂けてもそんなことは言えない。
「まああやつは素直でないところはあるが、あれで意外と優しいところもあるのだ。あまりに目に余ることがあれば叱るつもりではあるが、どうか彼女に付き合ってやってほしい」
「も、もちろんです……」
ということらしい。まあ一週間ほどの我慢なのだ。あまりにお痛が過ぎるようであれば一発ぶん殴って黙らせよう。
そう心に誓ったミサは国王に愛想笑いを振りまきながら謁見の間を後にした。
※ ※ ※
「どうしてかしら? 大都会だったはずのレビオン王国が急に田舎くさくなりましたわっ!!」
根は良い子みたいな空気を出していた国王だったが、少なくともミサの目には現状リズナは生意気なクソガキにしか見えない。
謁見の間を後にしたミサは、リズナから庭の東屋でのお茶会に誘われたとグラスに聞かされた。
まあ、リズナが誘ったというよりは、そういう予定になっており渋々誘ったのだろうが、とにもかくにも誘われてしまった以上断るという選択肢はミサにはない。
ということでミサもミサで渋々お茶会のお誘いを受けて東屋へとやってきた。
――いや、お互いに渋々のお茶会とか誰得なのよ……。
そう思いながら東屋へとやってきて、使用人が出してくれた紅茶と茶菓子を頂いていたミサだったが、リズナは相変わらずである。
――リズナちゃん、そろそろ手が出るよ。
なんて思っていたが「ミサさま」と何かを察したグラスに釘を刺されてしまう。
「美味しい紅茶ですね。これはなんという銘柄なのですか?」
「え? そんなこともわかりませんの?」
――イラっ……。
「これはマリアーノと呼ばれる貴族や王族の間ではポピュラーな紅茶です。ミサさまであればこの程度当然ご存じかと思っていたのですが」
――イライラ……。
と、何やらご機嫌そうに紅茶を啜るリズナ。が、そこでふと近くに立っていたメイドがリズナに耳打ちをする。
するとリズナは目を丸くして「そ、そうですの?」と小声でメイドに返す。
直後「えっへん……」と咳払いをした。
そして、
「これはラクラインと呼ばれる貴族や王族の間ではポピュラーな紅茶です。ミサさまであればこの程度当然ご存じかと思っていたのですが」
――言い直しやがった……。
どうやらリズナも間違えていたようだ。その間違いをなかったかのように平然と言い直す。
――うむ、これは少し懲らしめてやらなきゃダメそうね……。
そう思ったミサはティーカップを掴むリズナの手をじっと見つめる。すると、直後、リズナの手からティーカップが滑り落ちて、彼女は紅茶をテーブルにぶちまけた。
「あらあら、リズナさまはティーカップの扱いに不慣れなのですか?」
「そ、そんなことはありませんわっ!! ミユウ、このティーカップ、少し滑りやすいですわっ!! 別の物と取り替えてくださいまし」
とリズナは顔を真っ赤にして近くのメイドにそう命じた。
――ざまあっ!!
魔術をかけられたことにも気づかずにあたふたするリズナを眺めながら、ニコニコとミサは微笑む。
が。
「ミサさま」
釘を刺すようにグラスが少し強めの口調でミサの名を呼んだ。
どうやらグラスにはバレていたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます