第52話 バーくん
グラスと作戦会議をした結果、とりあえずリズナの母親探しのための行動を開始することにした。
とりあえず王国の首脳同士の会議をグラスに全て任せたミサは、グラスから許可をもらったことにより堂々と転移魔法陣を使用してガルバス大陸へと向かうことにした……のだが。
『ミサ……私はミサに見捨てられたのかと思って寂しかったぞ……』
ガルバス大陸にやってきたミサが笛でバジルカを呼び出した結果、バジルカが最初に口にした言葉だ。
ミサは勝手にバジルカを孤独を好む孤高のドラゴンだと思っていたのだが、案外さみしがり屋だったようだ。
――うむ、なかなかに可愛い。
そんなバジルカを「ごめんね。ちょっと訳あってガルバス大陸にはこれなかったの……」と、慰めて彼の背中をさすってやった。
バジルカをしばらく慰めたところで、彼女はさっそく彼に指示を出す。
「私をミサキ15のところに連れてって欲しいの」
今回のガルバス大陸訪問の理由は残念なことに魔物退治ではなく老人探しだ。そんなミサの指示にバジルカは首を傾げる。
『ミサキ15とは何者だ?』
「ほら、前に会ったじゃん。バーくんのことをしもべにしようとしていた」
『そ、そういえばちょっと面倒くさそうな老人がいたな』
「そうそうそれそれ。あれからその老人のこと見た?」
『ああ見たさ。あれから老人は私の元を訪れて、この間の非礼を謝ってきた。その時に名前を聞かなかったからミサキという名前にピンとこなかったが』
「今はどこにいるかわかる?」
『わからんが、昨日は兵士が作っている港の近くで見た』
「じゃあそこまで連れてって」
ということでミサはバジルカの背中に乗ると、港へと向かって飛び立った。バジルカの背中に乗り、ものの10分ほどで、バジルカは港の上空へと到達する。
そこでは今日もレビオンの兵士たちが土嚢や石をせっせと運んで港作りに勤しんでいた。見た感じ港はかなり完成に近づいているようで、軍艦が埠頭のそばに停泊しているのが見える。
砂浜には彼らの居住スペースでもあるのだろうか、大小いくつものテントが並んでいる。
ということで、バジルカは港へと向かって高度を下げていった。
「あ、あれはなんだっ!!」
「ま、まさかあれは伝説の竜バジルカじゃねえかっ!?」
「おいおい、あんなのに襲われた一溜まりもねえぞっ!!」
なんて叫び声を耳にしながらミサはポケットから目出し帽を取り出して、それを頭に被った。
まるで銀行強盗が悪役レスラーのようなミサは、叫び声を無視ししてバジルカの背中から陸地へと降り立った。
10メートルほどの高さから飛び降りたミサは、なんなく陸地へと着陸すると辺りを見回す。
兵士たちは突然の怪しい小さな人間の登場に恐怖……というよりは困惑していた。
そんな彼らを眺めたところで、ミサは魔法杖の先をわずかに動かすと近くにいた若い兵士を一人、自分の元へと移動させる。
「え? あ、うおっ!! なんじゃこりゃああああっ!!」
と、叫び声を上げながら引きずられてきた兵士にミサキの場所を訪ねることにする。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「はあ? 聞きたいことっ!? ってか、もしかしてお前子どもか? なんでこんなところに」
「細かいことはいいじゃない」
「いや、全然細かいことじゃねえよっ!! なんでガルバス大陸に子どもがいるんだっ!? お前は何者だっ!!」
と、パニックを起こす兵士。
面倒くさい。
「早く私の質問に答えなさい。宙に浮かせて上空から落とすわよ?」
そう言って兵士の体をわずかに浮かせると「え? わっ!! わっ!! やめろっ!! 教えるからやめろっ!!」と叫んでどこかを指さした。
指さす方向へと目を向けると、そこにはいくつも並んだテントの中でも一際大きなテントが立っているのが見える。
「ありがとうっ!!」
ということで2メートルほどの高さまで浮き上がった兵士を解放してやると、砂浜に落下した兵士は背中を強打したようでゲホゲホと咳き込んでいた。
ミサは魔法杖の先端から闇を放出すると、兵士の指さしたテントの中の人物を全員彼女の元へと引きずり出していく。
「お、おいっ!! なんじゃこりゃっ!!」
「やめろおおおおっ!! 俺はまだ死にたくねええええっ!!」
絶叫とともに、数名のレビオン兵らしき男と見覚えのある老人が闇とともにぞろぞろとテントから引きずり出されてくる。
が、ミサが用があるのはミサキだけである。他の兵士を解放してやりミサキ老人だけを自分の元へと引っ張ってきた。
「ひさしぶりねっ!!」
そう挨拶をするとミサキ老人はまるで死に神でも見るような瞳でミサを見やった。
どうやらミサキは覆面をしていてもミサのことをすぐに理解したようで「ひ、ひさしぶりだな……」と返事をした。
「で、今日はなんの用じゃ?」
「あんたに色々と聞きたいことがあるの」
「はあ? 聞きたいこと?」
「とっても大切な話。できればひと気のないところで話がしたいのだけれど……」
そう言うと、ミサキは辺りを見回したのでミサも見回す。兵士たちは何が起こっているのか理解していないようできょとんとした顔でミサたちを見つめていた。
「本当にどこまでもマイペースなじゃじゃ馬じゃ……」
ミサキは「はぁ……」とため息を吐くと「私はこやつと話がある。テントを使うので許可をするまで誰も入るな」とミサをテントへと案内した。
※ ※ ※
なんだかよくわからないが、案内されたテントは快適そうだった。床にはなにやら高級そうな絨毯が敷かれており、そこに執務机や高級そうなソファなどが所狭しと並べられている。
「ジュースでいいか?」
「うん、いいわよ」
ということで応接セットのソファに腰を下ろすと、目出し帽を外す。すると、ミサキがグラスにオレンジジュースを入れて持ってきてくれた。
至れり尽くせりである。
「美味しい……」
と、ストローでジュースをチュウチュウしていると、対面にミサキ老人が腰を下ろす。
「で、話ってなんじゃ……」
「リズナのお母さんについて聞きたいの」
「り、リズナ……誰じゃそれは……」
「いや、あんた親戚でしょ? ルボン家のリズナ王女のことよ」
「なっ…………」
ミサの口にした言葉にミサキ老人は表情を凍らせる。
どうやらミサの口から王女の名前が出るのが予想外だったようだ。
が、しばらく凍り付いていたミサキ老人はなにやら不意に合点がいったように頷く。
「ただ者ではないとは思っていたが、やはりそうか……」
と、一人で納得しかけるのでそれをミサが手で制す。
「ちょっと待って。それ以上は口に出しちゃダメよ」
「わかっておる。お前のことは別に詮索せん。で、どうしてリズナ王女の母の話を私にするのだ」
「リズナの母親を探しているの。聞いた話によると城を追い出されたとかなんとか……」
「…………」
その質問にミサキはなにやら黙り込む。
「なによ……なんだか事情を知ってそうね」
「悪いが私の口からそのことは話せん」
「はあ? また足の骨を折るわよ」
「なっ……。い、いや……さすがに骨を折られてもこれは口にはできん。王家のことはレビオン王国の最高機密だからな」
ということらしい。ミサにはよくわらないが、なにやら複雑な事情があるようだ。
「じゃあ話せる程度のことを私に教えて」
「うむ…………」
「リズナがママに会いたがってるのよ。訳あって私はその願いを叶えなきゃいけなくなったの……」
「なんでミサがリズナ殿下にそのような命令をされるのだ……」
「別にいいじゃない」
「…………」
ミサキは黙り込んだまま、コーヒーを口にした。
「あまり詳しいことは話せんが、レンドブルグと言う街に藍染めを生業にしている商人がおる」
「それがどうしたの?」
「五年ほど前だったかな、そこで私は風呂敷を購入した。そのときにお茶をごちそうになったのだが、お茶を出してくれた奥さんがとても美しかった記憶がある」
「だったらなんなのよ……」
「ミサ、そろそろ察せ」
「…………あぁ……」
なんで老人の与太話を聞かされなきゃいけないのかわからないミサだったが、何かを察した。
「私の口から言えるのはそれだけじゃ」
「わかったわ。とりあえず私もそのレンドブルグというところに行ってみるっ!!」
ミサはジュースを一気に飲み干すと、ミサキにお礼を言ってテントを出ようとした。
が、ふと何かを思いだしてミサキ老人の元へと戻ると懐から一本の羽を取り出した。
「お礼にこれをあげるわ」
「なんじゃこれは……」
「バジルカの羽で作った羽ペン。バジルカから一本拝借して作って貰ったのよ。結構価値があると思わない?」
「下手したら家が一軒建つやもしれんぐらいには価値がある。もっとも、これが本当にバジルカだと証明できればの話だが」
「あんたは信じるでしょ?」
「あぁ……ありがたく貰っておくよ」
「じゃあまたね」
ということで今度こそミサはテントを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます