第31話 ダメなものはダメ
「おそらくミサさまが漂着したのはガルバス大陸でしょう」
ラッドたちと感動的な別れを済ませたミサは、城に戻ってから漂着した場所についてグラスから根掘り葉掘り聞かれることとなった。
その結果、グラスはミサの聞いたことのない大陸の名前を口にする。
「ガルバス大陸? 聞いたことないけど……」
「ミサさまがご存じないのは当然でしょう。ガルバス大陸は人の住んでいない場所ですから」
「人が住んでない? それって魔大陸なの?」
「いえ、それはまた別です」
そう言ってグラスは説明を始めた。どうやらガルバス大陸はレビオン王国の南側にある大陸と島の中間のような小さめの大陸らしい。
鉱物資源が豊富な夢のような大陸らしいが、獰猛な魔物が多く生息している危険な場所で未開の土地となっているようだ。
正直なところミサとしては鉱物資源がどうだとかは興味はない。が、グラスの口にした獰猛な魔物が多く生息しているという言葉に胸を躍らせる。
「ガルバス大陸には最強レベルの魔物がたくさん生息しているってことっ!?」
「そうですね。どうしてミサさまがそんなことを嬉しそうに尋ねるのかはよくわかりませんが……」
確かに浜辺に現れた魔物はギート王国にいたものと比べてサイズも大きかったし獰猛だった気がする。
そんなことを思い出してミサは妙に納得する。
さて、ミサはグラスの発言によって、そのガルバス大陸が夢のテーマパークだという事実を知ってしまった。
知ってしまった以上、ミサにはガルバス大陸で暴れ回る以外の選択肢はない。
「話はわかったわっ!! じゃあ、私はそろそろ寝るから部屋に戻るわね」
そう言って早々にグラスの前からお暇しようとしたのだが。
「どうぞお疲れでしょうからゆっくりとお休みください。あ、魔法陣については私が預かっておりますのでご安心ください。ちなみにミサさまが寝室にて密かに制作し、隠し持っておられた魔法陣についてもすでに私が回収して管理しておりますのでご安心ください」
なんてことを別れ際に口にするグラスにミサは足を止める。
「あ、あはは……グラスってばまさか私のことを疑ってるの? そんな危険な大陸、二度と行かないわ。だから魔法陣を返して」
「それはできかねます」
ミサはグラスの元へと歩み寄る。そしてグラスの足下で土下座した。
「グラスお願いっ!! 私に転移魔法陣を返してくださいっ!!」
突然、配下の者に土下座を始めるミサ。そんなミサにグラスは少々慌てた様子で「ミサさま、配下の者にそのような態度はお止めくださいっ!!」と、ミサの肩を掴んで体を上げさせる。
「グラス、私もう満足できないのっ!! 狭いギート王国の魔物ではもう満足できないのっ!! 私をガルバス大陸に行かせてっ!!」
「それはなりません。ガルバス大陸は危険すぎます。ミサさまの身に何かがあった場合の責任が私には取れません」
「大丈夫よ。すでにあっちで何体か魔物は討伐しているわ」
「え? あ、いえ……それにガルバス大陸に関する問題は魔物だけではありません」
そう言ってグラスはガルバス大陸が帰属未確定地で、下手に足を踏み入れると国際問題になりかねないことを説明した。
「ガルバス大陸は帰属未確定地です。ミサさまの魔術の能力の問題ではありません。何人たりとも足を踏み入れてはならぬのです。諦めてください」
どうやら政治的にかなり面倒くさい場所らしい。
ならばいくらミサとて諦めるほかない。ということでミサは「わ、わかったわ……」と一言立ち上がると、とぼとぼと寝室に引き上げようとする。
が、グラスはそんなミサの前に回り込むと、通せんぼするように立ちはだかった。
「な、なによ……」
「ミサさま、グラスのご無礼をお許しください」
「ご、ご無礼?」
ミサが首を傾げていると、グラスは彼女の前でしゃがみ込んで、ミサのお腹や背中、果てにはお尻にまでペタペタと触れてきた。
「ちょ、ちょっと……グラスっ!?」
突然、体に触れられたミサは頬を真っ赤にしてグラスを手で押しのけようとするが、その前にグラスはミサのスカートのポケットに何か入っていることに気がつき、ポケットから一枚の紙切れを取り出した。
「ミサさま、これはなんですか?」
その紙には魔法陣が描かれている。
「な、何って……ただの落書きよ……」
「そうですか、ただの落書きであれば破っても問題ありませんね」
そう言ってグラスは魔法陣の書かれた紙をビリビリと破り捨てた。
「ぐぬぬ……」
これでミサのガルバス大陸への移動手段は全て失われた。
「ミサさま、これはミサさまのことを思ってのことだということをゆめゆめお忘れになられぬようお願いいたします」
「グラスのいじわるっ!!」
ミサは瞳に浮かぶ涙を拭うと、寝室へと駆け出した。
※ ※ ※
ミサはその日から一週間ほど体調を崩して寝込むこととなった。
その結果城は大パニックとなり、愛娘の体調を心配した国王ザルバ4世は王国中から名医と呼ばれる医者を連れてきたが、そんな彼らをもってしてもミサの体調不良の原因がわかることはなかった。
高熱にうなされるミサの手を握りながら国王は「ミサーっ!! ミサーっ!!」と愛娘の名を叫ぶ。
そんな父の愛情に呼応するようにミサは「まもの……まもの……」とうわごとのように呟いた。
「ま、魔物っ!? み、ミサ、夢の中で魔物に襲われているのか? だ、誰かっ!! 美佐の夢の中に現れた魔物を退治できる者はおらんのかっ!!」
「まもの……まものを……かり……」
「あぁ……可愛そうに。こんなか弱い少女を襲うなど……魔物には血も涙もないのかっ!!」
そんなミサと国王ザルバ4世の姿を眺め、グラスは苦笑することしかできなかった。
ちなみにミサの高熱は一週間ほどで下がった。
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