第47話 『黒い雷』と戦った②

 僕はスキル【元素操作】の中で対象の体を消滅させることができる『元素分解』を行使しようとした。


「何か考えがあるって顔してるな、だが俺も考えがある」


 男は片眉を吊り上げたあと、漆黒の稲妻となって僕を迂回し、僕の背後にいるであろうエリアナとルティアさんの方へと向かった。


「まずい!」


 僕は振り向きざまに思わず叫ぶ。いくらスキルが強力でも弱点がある。相手の動きが速すぎると相手を捉えることができず、スキルの発動が間に合わない可能性がある。


「なっ! いねえ!」


 男は実体化しエリアナとルティアさんがいた場所に立って戸惑っていた。


 エリアナは隠蔽魔法という透明になる魔法を使える。彼女が機転を利かせて姉ごと自分も透明になって移動したのだろう。


 とにかく今しかない!


「『元素分解』!」


「っ!?」


 僕は手のひらを男に向けてスキルを行使する。スキルは発動させるのに手を向ける必要はないのだが、立ち止まっているとはいえ確実に相手を捉えたいと思った僕は自然と手のひらを向けていた。


「ぐああああああああああああっ‼」


 男は雄叫びを上げながらうつ伏せに倒れてしまう。僕は男の右腕と左足をこの世から消した。無くなった身体の部位からはおびただしい量の赤い液体が流れていたが、


「ぐっ……し、自然の癒しよ、俺を助けろっ……」


 男は仰向けになって、なんとか回復魔法を唱える。すると傷口が光り出し出血量が少なくなっていた。


 回復手段も持っているとは思わなかったがこれで無力化できたはずだ。


 にしてもエリアナ達はどこに行ったんだろう。僕は首を振って辺りを確認すると。


「カシュー様! すごいです!」


 エリアナは僕の横方向から現れて駆け寄ってくる。一方、ルティアは悠然とした態度で歩いていた。


「まだ油断するのは早いわ。あいつは南海傭兵団の「カエサル・ハーバー」。カエサルは戦場にて無敗と知られているわ。稲妻となって敵を一方的に屠り、そして圧倒的な回復能力で怪我を負わないという噂よ」


「その回復能力って、あの人が唱えた魔法のことですか?」


 僕は訝し気に倒れているカエサルを見る。すると、「くははは……あんなガキに体の一部を持っていかれたな」と自嘲気味に笑っていた。


「噂に聞くと半身が大砲で吹っ飛んでも再生したらしいわよ」


「それが本当なら大したもんですね」


「禁呪サクリファイス……」


 ルティアさんに応じているとカエサルが上体を起こして静かに口を空けた。僕達は咄嗟に彼を見た。


「俺の寿命を対価に復元せよ」


 カエサルの無くなった腕と足はみるみるうちに元に戻っていく。


「はぁはぁ……クソ!」


 彼は立ち上がろうとするが、すぐに膝を床について息を乱している。相当、魔力を消費しているのを感じられる。だが、稲妻になって動かれると面倒だ。


「『元素分解』」


「な……なにぃ!?」


 僕はカエサルが身に付けている武器と服を消し去った。相手は全裸になった。


「きゃ!」


「……なにしてんの」


 エリアナは両手で目を覆い隠し、ルティアさんには溜息を吐かれた。


「ガキ! なにしやがる!」


「羞恥心が働いて逃げることはできないと思ったので全裸にしました」


「い……イカれてんのかこいつ」


 カエサルは僕の発言に引いていた。急に少女二人を攫うようなやつに言われたくなかった。


「一言言います。僕はさっきのように君の体の一部を消したように全身を消し去ることができます」


「脅しのつもりか? …………何者だお前」


 カエサルは敵わないと思ったのか全裸のまま両手を上げていた。


「しがない村人ですよ」


「そんなわけあるか。あと俺が手を上げているのはお前の珍妙な能力のせいだ。全裸なんて全然恥ずかしくないからな。別に誰に見られてもなんとも思わないからな。全然平気だからな」


 彼はなんか強がっていた。


 そのとき、屋上の空いた床から人が二人飛び出してきた。


「逃げてんじゃねぇ!」


 一人は今喋った茶髪の青年。もう一人は陽気そうな金髪の中年男性だった。


 二人は睨み合っていたが僕達の方を見たかと思えば自然とカエサルの方を見た。


「「なんで裸!?」」


 二人は裸のカエサルを見て戸惑っているようだった。

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