第53話 太古の魔物を知った②
「お父さん!?」
フェリーさんは商館から出てきた中年男性に駆け寄った。どうやら彼がフェリーさんの父親であるコパー商会の会長フェリックス・コパーらしい。
フェリックスさんは頭から流れている血を手で押さえながらとぼとぼ歩いていた。
「た、大変じゃ……大変なんじゃ」
フェリックスさんは狼狽えながら娘と一緒にこちらへと歩いてきていた。
「ラファエル騎士団長……とにかく大変じゃ!」
「どうなされたんですか会長」
「太古の魔物を封印していた鍵が盗まれたのじゃ!」
「っ!」
フェリックスさんの言葉で皆、息を呑んでしまった。
「すまない皆の者、魔物を封印していた鍵は商館の地下室で保管しておってな、わしが地下に入るための鍵を保管していたのだが襲撃されてしまったんじゃ。わしの部屋は荒らされて地下室へと繋がる鍵を盗られてしまった次第じゃ……」
フェリックスさんは尻すぼみに喋って肩を落としていた。
「でもお父さんは腕利きの者を護衛として雇っていたはずです」
「……護衛の一人に南海傭兵団が姿を変えて化けていたんじゃ」
「その人一人で他の護衛を倒したということです?」
「そうじゃ……化けていた者の名前はあのリドミナじゃ」
「リドミナ……?」
聞き覚えがない名前なのかフェリーさんは怪訝そうな顔をする。南海傭兵団は南方を拠点にしているらしいので北方諸国の者達が知らなくても不思議ではない。
「リドミナか、そりゃいくら腕利きでも敵わないな……」
ラファエルさんは険しい顔をしていた。
一体何者なんだろうか?
「リドミナってそんなに強い人なんですか?」
僕はラファエルさんに問いかけた。
「リドミナは南海傭兵団の団長さ。異名は『処刑女王』。リドミナは鎌を扱う女性なんだけどさ、その鎌の刃先に触れるだけで魂を刈り取られる魔法が発動すんだ」
「そのリドミナが直々に潜り込んでいたというわけですか」
「本気で太古の魔物を手に入れようとしているに違いないや」
ラファエルさんはやれやれとかぶりを振った。
「ラファエル……余裕ぶってる場合じゃないわ。この町で戦える者を集めないと」
ルティアさんは早速、行動しようとするが、フェリックスさんが手をかざして待ったをかけた。
「太古の魔物が封印されているのはここより東にある森じゃ。馬に乗って急いで行っても二日はかかるじゃろうて、今のうちに避難して各国の強者を集めるのじゃ」
「そうね……それがよさそうです」
ルティアさんはフェリックスさんに同調した。
どうやら太古の魔物とやらは離れた場所にいるのですぐに襲ってこないらしい。明日には僕はこの町を離れることになるのだが残ったほうがいいのだろうか。僕の力があれば太古の魔物はなんとかなると思うんだ。
考えを巡らせていたそのとき。
ズドン! ズドン! ズドン! ズドンッ!
一定のリズムで地面が揺れ動くと共に、地響きが耳に届いた。
周囲の者達はパニックになり、右往左往する。
「まさか……これは……太古の魔物がもうやってきたんじゃないのか⁉」
ラファエルが事態を予測するとルティアと衛兵長が応じた。
「嘘でしょ……ラファエル、すぐに戦えるものを集めましょう!」
「衛兵長として私も戦える者を集めましょう!」
「お姉様わたくしはどうすれば?」
「エリーはここにいて、フェリーもここを離れない方がいいわ」
「分かった」
「にしてもどうしてなんじゃ……離れた森で封印されている太古の魔物がどうして……もうやってきたんじゃ……」
フェリックスさんは頭を抱えていた。
皆、慌ただしく動き始める。ルティアさん、ラファエルさん、衛兵長は戦闘に備えて屋敷の敷地外へと出て行った。フェリックスさんもこのフィンフィン大市場を機にやってきた腕利きの者達を集めにいってしまった。
この場に残ったのは僕、エリアナ、フェリーさん、そして猫族のリーンさんだ。
僕以外は商館に入っていこうとしていたがエリアナがくるりと僕の方を振り向く。
「カシュー様はどうするのですか」
「え、まあせっかくだから皆の手伝いしにいくよ」
「ふふっ……なんだが軽いノリですね」
エリアナは静かに笑った。
「僕が出向いたら太古の魔物を一撃で倒せると思うからね」
「こんなときに冗談も言えるんですね。とっても心が強いんですね」
いやだって、実際に僕が出向いて『元素分解』を使えば一発で消滅させることができるからね。でも、対象の体そのものを元素レベルでバラバラにするなんて説明してもこの世界の人達にはイマイチ伝わらないのかもしれないので黙っておこう。
「あの、お気をつけください」
「うん気を付けるよ」
僕は身を翻してその場を去った。さて、太古の魔物はどんな生き物なんだろうか?
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