第54話 一方、町の北側では①

 フィンフィン町の北側。


 武装した集団が集っていた。剣や槍を装備した戦士、ローブを着た魔術師、弓矢を構えた射手がいた。彼らはコパー商会会長のフェリックス、フエンジャーナー王国の騎士団長ラファエル、第一王女のルティアが集めた腕利き達だ。そして、フィンフィンの街に駐在していた全ての衛兵と町の人々で形成された自警団もいた。


 フィンフィン大市場おおいちばという大きな行事があったおかげか多くの者が集まった。総勢約一〇〇〇人の戦闘員がいた。


 しかし、北方諸国にいる者は幼少の頃から太古の魔物の話を知っており、その凶悪性を把握していた。


 空に届くほど大きな魔物。


 目に移る者全てを踏み潰す獣。


 止まることを知らない殺戮者。


 数多の国が太古の魔物に滅ぼされ封印するしかなかったという事実。


 この場にいる者達は今日までその魔物の存在を半信半疑に思ったり、過大評価されていると思っていたが――


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドンッ!


 ――地面全体が地響きが鳴るたびに揺れ動くため、太古の魔物にまつわる話が本当だったのではないのかと実感していた。


 そして、ついにその姿を人々は視認した。


「……なんだあれは!? あんなもん存在していいのかよ」


「なんだよあれ……でかすぎる……!」


 遠くから巨大な四足歩行の魔物がやってきていた。その魔物にとって人間は豆粒のように矮小な存在だった。


 全長八〇メートル。黒い皮膚に覆われており、容貌は牛に近いが顔の両側頭部から枝分かれした角が一本ずつ生えており、鹿のようにも見えた。


「太古の魔物の伝説は本当だったんだ……剣なんか持って近づいても踏み潰されちまうよ……」


「あれに魔法なんて効くわけないわ……」


 刃を持った者も魔法を扱う者も戦う気概を無くしていた。


「士気が低いわね……ますます勝てなくなるわ」


 ルティアは周りの人々を見て、頭を悩ませていた。


「あんなデカいもん見たら無理ないって、とりあえず俺が全力で魔力による斬撃を飛ばすんで、それで様子見ようか」


「……相変わらず軽いわね」


 飄々としているラファエルの様子にルティアは怪訝な目つきを向けていた。


「こういうときこそ明るくならないとさ」


「そんなもんかしら……でも助かるわね。正直、私も怖いわ、あんな大きなものがゆっくり近づいてくるのは恐怖以外の何物でもないわ」


「帰るかい?」


「自分でいうのもなんだけど私、魔力は年不相応に多いわ。戦える私が他国とはいえ、民を捨てて逃げると思い?」


 二人が話している間にも太古の魔物はズドン! ズドンッ! っと近づいてきていた。


 皆、太古の魔物が破壊衝動のみで動いている魔物だと肌に突き刺さる圧迫感で感じとっていた。


 歩く度に鳴る地響きは、まるで地獄の到来を知らせているようだった。


 その間にラファエルはフィンフィンの街の自警団長と衛兵長と話して最初に斬り込むことを伝えるとフェリックスが口を挟む。


「知っておると思うがわしはランド自治領で一番の商会を経営するものじゃ。むろんあの魔物に傷を付けることができるかもしれない兵器も持っておる」


「「おおお!」」


 自警団長と衛兵長が歓喜する。


「用意はできたかの!」


「はい! 会長! 皆さんそこをどいてください!」


 フェリックスに応じるように武装集団の背後から男の声が聞こえた。


 武装集団が一斉に背後を振り向くと、コパー商会の者達がタイヤ付きの大砲を一五台転がしていた。普遍的な大砲と比べれば筒が長く、砲口が広い。


 金属製のタイヤをゴロゴロと鳴らしながら商会の者達は大砲を武装集団の前へと移動させた。


「会長これは?」


 フェリックスは大砲を不思議そうにペタペタと触っていた。


「遺跡で発掘した古代兵器じゃ。魔力を充填するタイプの大砲で光線を発射するんじゃ。以前、魔物に対して使ったところミノタウロスを一撃で倒しておる、ただ一回撃つと魔力を充填するのに時間がかかることと射程距離が短いことが難点じゃ」


 ミノタウロスを一撃という言葉を聞いた周囲の者達は一斉に口を開く。


「あのミノタウロスを一撃で!?」


「そんな恐ろしい兵器あるのかよ」


「つってもあのデカブツに効くのか……」


 驚嘆する者や不安そうにする者がいた。


「安心して欲しいのじゃ、この大砲はミノタウロスごと後ろに並んでいた木を三本貫いておる」


「それは凄い!」


 周りの者達は期待を込めた眼差しを大砲に向けていたが、ラファエルだけは真剣な目で大砲を見ていた。これは太古の魔物に本当に効くのか……? と疑っていた。


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドンッ!


 依然、鳴り響く足音。


「あ……あぁ、近づいてきた……」


 一人の男が青ざめた顔で前方を指をさす。


 太古の魔物は僅か五キロ先にいた。


「射程距離に入ったら撃つんじゃ!」


「「「はいっ!」」」


 フェリックスの言葉にコパー商会の者達は小気味よく返事した。


 太古の魔物は地上にいる者達を射殺すかのような目つきで見ていた。


 そして、太古の魔物との距離が三キロになった頃。


 足腰を震わせる者が多い中。


 前方に置かれた一五台の大砲の口が青く光る。そしてその眩い光が収束したかと思えば―――――


 ――――ビュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュュン!


 大砲からレーザーによる砲撃が行われた。それも一五台の大砲が一斉に。


 太古の魔物の顔、胴体、足の部分に各レーザーが直撃すると轟音と共に噴煙が舞い上がり、太古の魔物の姿は見えなくなっていた。


「おお! やったか!? これは絶対に倒したにちがいない! ミノタウロスを貫いたんじゃ! 絶対に太古の魔物は穴だらけじゃ!」


 フェリックスはフラグを立てた。

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