第55話 一方、町の北側では②
コパー商会が遺跡で発掘した古代兵器によって太古の魔物は噴煙で見えなくなるとフィンフィンの町を防衛していた者達は歓喜の声を上げた。特に古代兵器である大砲を用意したフェリックスは大喜びだった。
「皆の者やったぞ! きっと蜂の巣のように穴だらけじゃ!」
「「おおおおおお!」」
破顔する者が多い中。ラファエルや戦闘経験が豊富な戦士は訝し気に噴煙の向こう側を見ようとしていた。
次第に噴煙は晴れていき、フェリックス達は期待を込めて太古の魔物の様子を遠目で窺おうとするが、
「あ……ああ……! そんな馬鹿な!」
集団の中にいる一人の男が血の気を失った顔をし、他の者達は顔を引き攣らせて前方を見て固まっていた。
太古の魔物はレーザー砲撃を食らう前と同様の出で立ちだったのだ。
「しょ、しょんな……嘘じゃ!」
フェリックスは尻餅をついて言葉を噛んでいた。
「ひぃ……会長……あんな化け物私達立ち向かう勇気はないです……」
「お、お前達は下がっておれ」
「は、はい!」
大砲を使っていたコパー商会の者達は蜘蛛の子を散らすように武装集団の中へと消えていった。
「こりゃ思った以上の化け物だ」
ラファエルはこめかみ辺りを指で掻いて悩んでいた。
「ら、ラファエル殿! どうすればいいんじゃ!」
「そうだなぁ……皮膚が固いなら、柔らかそうな部分攻めるしかないよな。口の中とか目とか……」
「そ、そうじゃな! よし誰か大砲に魔力を充填してくれ。これだけ人がいるんじゃ、気を逸らして大砲で口の中や目を上手いこと攻撃できるはずじゃ! 魔法で総攻撃してヘイトを稼ぎつつ、大砲から気を逸らすんじゃ。大砲の方にはラファエル殿にいておしいんじゃ、もしあの魔物がこちらに気を向けたら全力の一撃を放ってくれ」
フェリックスは立ち上がって気を取り直す。少し傲慢なところもあるが人を見る目がある男である。彼が成り上がったのは商才だけではなく人の意見にしっかりと耳を傾け、適材適所に人材を配置する商人だからだ。
「おっけ、おっけ分かった」
ラファエルは親指を立てて快く頼みを引き受けた。
そのとき、上空から黒いフード付きのローブを着た黒髪ロングヘアの女性がゆっくりと地上へと降り立つ。彼女はフィンフィンの町を防衛している者達と向かい合うように歩いている太古の魔物の前に位置していた。
「――そうはいかない」
「「「!?」」」
一同は上空から聞こえる声の主に目を向ける。
「なんだあの女は!?」
「とてつもない魔力の持ち主だわ……」
突如、現れた女性に目を見張っていると不可解な出来事が起きた。
常に前進していた太古の魔物は足を止めていた。
フェリックスは震えながら女に指を差す。
「あ、あの女じゃ……! あの女こそが南海傭兵団団長のリドミナじゃ!」
「確かにリドミナだ! 昔、南方の戦場で見たことあるぞ!」
斧を持った屈強な戦士も女のことをリドミナと呼んでいた。
「お前がリドミナか……さっき『そうはいかない』と言ったがどういう意味なんだい?」
ラファエルは大剣を抜きながら口を開いた。
「太古の魔物は私の魔法で魅了して操ってる。つまり、太古の魔物がどこを攻撃するのも私の意のまま。お前たちの狙い通りにはならない」
リドミナが両腕を広げると、何もない空間から刃渡り二メートル幅四センチの大鎌が出現した。リドミナは大鎌の真っ赤な柄を右手で掴む。
「私のこと知っているなら、私の使う魔法を知ってるはず。鎌に触れたものは魂を狩り取られる。おまけに太古の魔物も自由自在に操れる、この通り」
リドミナは空いている左手を前に向けた。
『グォォォォォォォォォォォ!』
太古の魔物の咆哮は大気を震わし、人々の恐怖を煽る。そしてその口からは魔力の塊で出来た光線が放たれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます