第52話 太古の魔物を知った①

 僕はカーディの服と武器を『元素分解』でこの世から消滅させて戦えない状態にしたわけだが。


「カエサルさんよ! さっさと来てくれ!」


 カーディは顔を空に向けて屋上にいるであろう仲間に呼びかけていた。


 すると屋上から全裸のカエサルが顔を出してきた。


「おいお前らこっちを見ろ!」


 カエサルは地上にいる者の注目を集める。無論、僕も顔を向ける。あの状態で一体何ができるというのだろうか。僕は不思議に思い首を傾げているとカエサルは右拳を突き出し、


「雷光の明滅!」


 右手がまばゆく光り出す。その光は商館周辺の一帯に届き、思わず目を瞑ってしまった。きっと周りの者も目を瞑っていたに違いない。


 それは刹那の瞬間だったが、


「今だな!」


 カエサルの声が聞こえたかと思えば稲妻が迸る音が聞こえてきた。まだカエサルは漆黒の稲妻のようになって移動する魔力が残ってたらしい。


 次に目を開けると、カエサルは仲間のカーディの腕を引っ張ったかと思えば黒い稲妻となって宙へと向かう。おかしな光景だがカエサルに連れていかれたカーディは引っ張られた腕が稲妻の中に吸い込まれるように消えていた。彼らは商館の敷地から出ようとしたわけだ。


「まだ魔力が残っていたのか!」


 ラファエルさんはカエサルに向かって叫ぶ。


 カエサルは宙で稲妻状態から人の姿へと戻る。


「逃走する手段を残すのは傭兵団を率いる者として当然だ。俺だって敵わない相手とは戦いたくないからな」


「あばばばばあばばばばばあば」


 カエサルに腕を引かれているカーディは稲妻で感電しており白目を剥いて意味不明な言葉を発していた。自分自身を稲妻にすることはできても仲間は稲妻にできないようだ。


「じゃあな!」


「あばばああばばばああ」


 カエサルは稲妻となって消えていき、さらにジグザクに動いている。速すぎて僕の目じゃ捉えきれない。捕獲は不可能だ。


「逃げられたわね」


「わっりい、ルティア姫」


「僕の方も力及ばずですみませんでした」


 豆粒のように小さくなっていく敵を見るルティアさんに対してラファエルさんと僕は申し訳なさそうに謝った。


「貴方達のせいじゃないわ、ただ思ったことを言っただけよ……ラファエル、そして貴方に国を代表して感謝いたします。お礼は必ずします」


 ルティアさんは慇懃な態度で頭を下げてくれる。


「僕は僕のできることをやったまでです」


「謙遜しなくていいわ」


 ルティアさんは微笑んでくれた。するとエリアナはルティアさんのスカートをちょんちょんと摘まんで彼女の気を引いた。


「お姉様、あのカーディって人が……時間稼ぎはこれで十分だと言ってたのが妙に引っかかるのですが」

 

「そうねあいつらの目的が分からないわ」


「僕、心当たりがあります。実はここに来る前に下水道で南海傭兵団と戦闘したのですが、彼らの会話を盗み聞きしたときにお金と魔物が目的だということを言ってました」


「お金はともかく魔物って何かしら」


 僕の発言で皆、険しい顔で考え込む。


 そのとき、町の衛兵達が商館の敷地内へと入ってきた。


「おおーい、皆さん無事ですか!」


 彼は南海傭兵団が町で爆発を起こしたときに衛兵を指揮していた茶色髭の男だ。


「衛兵長さん」


 フェリーさんが茶色髭の男もとい衛兵長に声をかけた。


「大丈夫でしょうか、敵はどこへ!?」


「敵ならもういないです。ただ敵が去り際に妙なことを言っていたので皆で敵の目的を考えていたのです」


「目的なら捕らえた傭兵から聞きました!」


 衛兵長の言葉で皆、目を丸くしていた。


「あの南海傭兵団を捕らえたのかい? あいつらって確か傭兵団長の魔法で捕まる前に魔法で毒殺されるから口を割るどころか捕獲すら不可能と聞いたんだが……どうやったのさ」


 ラファエルさんは驚嘆しながら衛兵長に問いかけた。


「いやそれがその噂の魔法が発動しなくて……運が良かったんですかね」


「そういうこともあるのか……」


 衛兵長もラファエルさんも不思議そうにしていた。きっと、僕が傭兵団の舌に刻まれていた術式を消して魔法による毒殺を防いだおかげだ。


「彼らは誰かに依頼されて今回のような凶行に至ったのです?」


 フェリーさんは衛兵長に問いかける。


「いや、南海傭兵団は誰からも依頼を受けていない。南海傭兵団のカーディ……『堕ちた剣帝』は帝国の王族でもあったので噂でルティア姫とエリアナ姫がお忍びでこの町に来ていることを知っていたのです。彼らは二人を誘拐して王国に身代金を要求しようとしています」


「それで狙われたわけね……」


「貴方は?」


「私がそのルティア姫よ。この子は妹のエリー……エリアナよ」


「おお、貴方達がそうだったのですか! 傭兵から聞いたときは半信半疑だったのですが本当におられるとは」


 どうやら衛兵長はエリアナ達が来ていることを知らなかったらしい。


「それとあいつらのもう一つの目的は太古の魔物を蘇らせることなんですよ!」


「太古の魔物を!?」


 衛兵長とフェリーさんは驚きを露わにしていた。太古の魔物とは?


「そういや太古の魔物っていう空に届くぐらいバカでかい魔物が北方諸国を滅ぼしまくったって話があったな。今はこの近くで封印されてるんだっけ」


 ラファエルさんは顎に手を当てて考えながら口を開いた。


 そんな凶悪な魔物がいたのか。カーディ達が言った時間稼ぎとは太古の魔物を復活させる時間のことだろう。


「まさかあいつら太古の魔物を復活させたんじゃないんでしょうね」


「そんなことはできないはずです。太古の魔物の鍵はこの商館の地下にあります」


 ルティアさんが不安気な顔をするとフェリーさんが彼女の言った言葉を否定した。


 しかし、ルティアさんの不安が的中したかのように商館の入口から頭から血を流したふくよかな中年男性が歩いてこちらへとやってきた。

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