第23話 久々に女神さんらに会った

 木に止まった蝉がミンミンと鳴く、蒸し暑い日がやってきた。


 僕は涼むために神樹の中に入った。壁には根が張り巡らされており道は三又に分かれていた。真っすぐ進めば転生した僕が現れた場所、祭壇がある。


「そうだ」


 僕は女神さんとの会話を思い出した。


 確か、女神さんの像の前で祈ったら女神さんとまた話せるらしい。


 八年ぶりに会ってみよう。


 右の道を進むと上の階へと繋がる梯子が掛けられており、上った先にある部屋に女神像が置いてあったはずだ。


 僕は上の階へと行った。


 上の階も根が張り巡らされたような内装になっていたが女神像の部屋だけは違った。全体が石造りになっており、壁に掲げられている篝火かがりびは青く燃えていた。そして扉から奥まで絨毯が敷かれていて、その奥に豊満で麗しい女神像が設置されていた。ちなみに実際の女神さんはもうちょっと全体的に痩せているはずだ。


 僕は女神像の目の前に行き、片膝をついて、手を組んで祈る。


 そして目を瞑り。女神さんと会いたいということを強く願ってみた。


「!」


 瞼の裏から強い光を感じた。


 僕はゆっくりと目を開ける。


 白色の空間が辺り一帯に広がっていた。


 そして僕の目の前にグレーの髪と瞳を持った神秘的な女性がいた。女神さんだ。


「お久しぶりです。女神ルナティックと申します」


「お久しぶりです」


「あれから何年も経ちましたね」


 あれからというのは初めて会ったときのことだ。


 とりあえず、僕は会釈した。


「「…………」」


 そして目が合ったまま無言だった。


 僕は首を傾げた。


「なんでしょうか」


「なんでしょうかじゃないですよ!」


 女神さんは大仰に腕を上下に振った。


「あれから八年も経ちましたよ! 一回も私を呼び出さないなんて忘れられたかと思いましたよ!」


「女神さんってもしかして寂しがりですか」


「べ、別にずっとこの空間にいるから人に会ったりお喋りしたいなんて思ってないですよ」


 女神さんは頬を指で掻きながら喋っていた。


 分かりやすい人だ。


「僕、女神さんにお話があります」


「ふふ、さぁ、なんでしょう!」


 女神さんは待ちに待ったと言わんばかりに微笑んでいた。


「精霊女王さんと話したいので精霊女王さんを呼んでください」


 僕の言葉で女神さんは前のめりにこけそうになっていた。


 たくさん動く人だ。


「私にお話があるのでは⁉」


「うん、精霊女王さんを呼び出して欲しいという話です」


 女神さんは「はぁ」とため息を吐いたあと、額に人差し指と中指を当てる。


「レガリア、貴方の化身がお呼びよ」


 どうやら精霊女王さんと通信しているらしい。


 数秒後。


 女神さんの横で光の柱が立ったかと思えば、そこから精霊女王さんが現れました。


「お久しぶりです榎秋かしゅうさん。精霊女王のレガリアですわ」


「お久しぶりです」


 僕はぺこりと会釈した。


「私に何か用とか?」


「はい」


「と、その前に!」


 女神さんが口を挟もうとしていた。


「なんでしょうか」


「女神として漆原うるしはらさんを褒め称えます」


 女神さんは改まって両手を前に組んでいた。


「この八年、レガリアの森の人々を手助けし、様々な福をもたらしたことを神を代表してお礼を言います」


 女神さんが頭を下げると精霊女王さんもニコっと笑って頭を下げる。


「こちらこそ、良い場所に転生させてもらってありがとうございます」


 僕もぺこりと頭を下げた。


 次に僕は本題を切り出した。


「精霊女王さんに尋ねたいことは僕が扱える魔法についてです」


「魔法ですか」


「はい。あの森の民達は精霊女王さんの加護によって、生まれながらにして扱える魔法を把握するんですが僕は魔法の知識こそあれど扱える魔法が全く分からないのです」


「森の民の加護は私の力によるものですが、正確には私の力を宿した神樹によるものですわ。あそこの森で生まれた者は自動的に加護を受けるのですが榎秋さんは赤子の姿になって森に現れましたから、加護を受けれなかったと思いますわ」


「なるほど」


 精霊女王さんが意図的に加護を森の民に与えたわけじゃなくて、自動的に生まれた者に与えられていたということだ。


 森の中で生まれてない僕は加護をたまたまもらってなかったらしい。


「榎秋さんは私と同じ種族、精霊族にしましたわ。精霊族はどんな属性の魔法も扱えます」


「そもそも魔法を使ったことないんですが」


「精霊族の榎秋さんなら魔法をすぐに扱えるようになります。これをどうぞ」


 精霊女王さんは手元を光らせて古びた本を取り出す。そして宙に浮いた本は僕の下へとくる。


「これは?」


「私が扱う魔法が載っている呪文書です。精霊族にしか扱えない魔法ですわ。どの魔法も莫大な魔力を使いますので気を付けてください」


「ありがとうございます!」


 これに載っている呪文を唱えて魔法を放てばいいと思う。でもさすがにいきなり魔法を放てる気がしないのでリルに魔力の使い方を教えてもらおう。


「あの漆原さん、ちょっといいでしょうか? 私達も頼みたいことがあるのですけども」


「はい」


 なんだろう女神さんと精霊女王さんの頼みって。


 僕が叶えてあげることができるのだろう。

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