第22話 竹を見つけた②

 竹を村に持ち帰って以来、僕は竹をスキルで様々な形に変形させた。


 水筒だけではなく、ざる、かご、釣り竿、竹槍、竹製の盾や弓等様々だ。


 そして羊皮紙を使って竹の有用性を謳ったポスターも作ってみた。あまり小難しいことを書いても仕方ないので簡潔な説明だけ書いた。


『ワイテデル木は成長が速い! 建築にも使えるほど丈夫! 先端を切るだけで槍にもなる! 軽いので持ち運びがしやすい! しかも食べれる!』


 僕はポスターを木板に貼って家の壁にたてかけるように置く。そして、その前に台を置き、台に作った竹製の物を置いた。


 特に宣伝はしてないが長閑な村なので家の前で突っ立っていると三〇分でぞろぞろと皆、集まってきた。


 各々、興味があるものを取っていた。


「ほう……」


 興味深そうに竹槍を持つのはオーガスタさんだ。顎髭を生やした大人のエルフで村で一番武器の扱いが上手い狩人だ。


「これは確かに手軽に作れそうなうえに強力な武器だわい」


「ですがこの村には腕のいい職人がいるのでワイテデル木製の武器が必要ないのかなと思っています」


「確かにそうだわい。だが、そもそも森の民達は魔法を扱う者が多く武器に長けている者が少ない。本物の武器を握らせる前に子供たちや武器を触ったことないものに手軽なワイテデル木製の武器を使わせるのもありかなと思ったんだわい」


「訓練用としてはいいかもしれませんね」


 レガリアの森の軍事力を強化するにこしたことはない。


 うん、作っておいて良かった。


「あ、シウ」


 人間形態のフェンリルのシウがそこにいた。


「今日はモフモフじゃなくて残念だよ」


「二言目がそれか。喧嘩売ってる?」


 シウはフンっと鼻を鳴らす。


「撫でるから機嫌治して」


「撫でたいだけでしょ」


 その後、シウはじろじろと台の上を見る。


「あんまり、あっしに合うものがないわ」


「そうでもないと思うよ。水筒とか首にぶら下げたらいいと思う」


 僕はシウに近づいて竹製の水筒を首にかける。


「これ軽いわ」


「それがワイテデル木のいいところです」


 シウは獣の状態に戻る。


 上機嫌で四足歩行であちらこちらを歩いていた。


「他のフェンリル達にも勧めてくるわ」


「助かるよ」


 うん、水筒も作っておいて良かった。


「あ! シウ! 待って!」


 僕は去ろうとするシウを追いかける。


「なによ」


 シウは立ち止まる。


 僕はしゃがんでシウと目線を合わせたあと。


「よーしよしよし」


 シウの顎を指先でコチョコチョと撫でた。


「おお……ますます上達しているわ。中々の指さばき……ってやめぬか!」


 シウは首を振った。


「本音が出たね」


「くっ……不覚だわ。次はこうは行かないわ!」


 シウは立ち去っていく。


「なんで悔しがっているんだ」


 ナデナデの気持ち良さに耐えられないのが悔しいのかもしれない。


 しばらくすると村の皆はとある物の前でざわめきだす。


「これは本当に食べれるのか?」


「変なの」


 皆が見ているのは茹でたタケノコがいくつか載った皿だ。


 全員、怪訝な顔をしてタケノコを見ていた。


「それは成長する前のワイテデル木です。名付けるならワイテデル子です。食べれますよ」


 僕は簡潔に説明した。


「おっもしろそ~」


 料亭を営んでいるネオンさんは皿に添えられているフォークでタケノコをパクッと食べた。


「ん~面白い食感、風味に癖がなくて食べやすいな!」


 ネオンは未知の食べ物に興奮しているようだ。


「ワイテデル木はすぐに繁殖してしまうので食用にすることもお勧めします」


「エステルも食べよ~」


 エルフのエステルもタケノコをむしゃむしゃと食べる。その横でシャノもタケノコを食べていた。


 他の者達もそれに続いた。


「淡白な食べ物だ」「健康に良さそうね」


 再びネオンさんが口を開く。


「揚げ物にするのにもいいなこれ」


「穀物と一緒に炊くのもありかと」


「穀物か……なるほど、これでまた料理のメニューが増えるよありがとう」


 ネオンさんがニヤリと笑う。


「さすがカシュ―様」


 村の一人が僕を褒めると。


「さすがカシュ―様」


「さすがカシュ―様」


 怖いぐらい村人が同じことを連呼してきた。


 ちょっと怖い。


 ラッカー長老はニコニコした顔で近づいてきた。


「村に様々な物をもたらすカシュ―様はまさに福の神じゃ。カシュ―様万歳!」


「「「「万歳!」」」


 大人達が両手を上げて褒め称えだしてきた。


「うん、ありがとうありがとう」


 とりあえず優雅に手を振ってみた。


 宗教染みてきた。元々、僕の存在はここの風土性に根ざした宗教そのものであるので不思議な現象ではない。


「ワオーーン」


 フェンリルのシウも僕を称えるように吠えた。


「少し気恥ずかしい」


 僕は後頭部をぽりぽりと掻いた。


 そして、後日竹で出来た建築物が村の中に増えた。


 夏場を涼しむための屋根のみの建物。いわゆる東屋あずまやだ。


 そして丈夫な木の周りにはツリーテラスも建てられた。


 村の大工達は丈夫で軽い竹を気に入ったようだった。そして竹には柔軟性もあるので彼らの独創性が生かされた建物が生まれ、屋根が円状だったり、天井が湾曲していた建物も建てられていた。

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