第46話 『黒い雷』と戦った①

 僕は南海傭兵団の狙いがコパー商会の商館にあると思い、そこへと向かっていた。


 スキル【元素操作】で体を浮かして空を移動すると案の定、商館で戦闘が繰り広げられている様子が見て取れた。というか天井が吹っ飛んで黒い革鎧の男が出てきた。


「あれは」


 ぽつりと呟く。屋上に到達したその黒い革鎧の男は両脇に少女を一人ずつ抱えるように持っていた。エリアナとルティアさんだ。どう見ても捕らえられている。なんとかしなければ。


 僕は【元素操作】で空気中の酸素と水素を結合させて水を生成させる。そしてそれをレーザーのように真下へと放ち、直角に曲げて男に向かって放った。


 しかし、驚くべきことに男は寸前のところでレーザーを横跳びで避けた。そのあと、エリアナが口を空けて何かを言った。今いる場所の高度が高すぎて彼女の声は届かないが、どうやら僕の存在に気付いたようだ。男はエリアナの視線につられて僕を見ている気がする。


「近づこう」


 対話するために僕は高度を下げて男に近づく。


「妙なガキだなお前」


 男は両脇に抱えていた少女二人を手放す。


っ!」


「っ‼」


 二人の少女は屋上の床に体をぶつけてしまう。そのあとルティアはエリアナを守るように身を寄せる。彼女らの前に男が立った。僕のことを警戒していた。


「二人を解放してください」


「嫌だ、と言ったら」


「君を倒します」


「面白いことを言うな」


 男は二振りの剣を抜く。その瞬間に僕は水を生成して、水のレーザーを放つ。それも湾曲させた軌道で。


「魔力の感知に反応しねえ技だな!」


 男は漆黒の稲妻となって屋上の上を移動する。だが【元素操作】できる以上、水のレーザーを自由自在に操って追尾させることができる。しかし、男の稲妻の方が圧倒的に速かった。


「くる!」


 稲妻は僕の方に迫ってきていた。僕は水のレーザーを消して、体を粒子化させる。


「くたばれ!」


 男は僕に剣を振るうが、


「なんだこりゃ!」


 剣は僕の体をすり抜けてしまう。その瞬間、僕は体を撒布させた。


 それから僕は粒子化を解いて男の背後に現れた。男は僕の気配に気づき後ろを振り向く。


「攻撃が効かないのは面倒だな。だがその手の魔法を使うやつとは幾度も戦ったことあるんだよな」


 地上へと落下していく男は再び稲妻に変化して僕に突っ込んできた。


 僕は粒子化することで負傷することはなかったが、


「おらおらおらおらおら!」


 男は二振りの剣を左右に振り続ける。最初の攻撃と違って剣が漆黒の稲妻となった魔力を纏っているせいか剣は残像が残るほど速く動いていた。しかし剣は僕の体をすり抜けて空振りし続けた。


 そして男は宙に留まることができないせいか時折、稲妻になって周りを飛び回ってから斬りかかってきた。それが数分続いた。


 これはまずい。僕は剣を振るってくる相手を見ながら危機感を募らせる。


 この男は僕の粒子化の原理は分からずともこの状態には制限時間があると踏んで攻撃し続けているんだ。僕と違って戦闘経験が豊富な男だ。


 僕はたまらず体を周囲に散布させて視認できない状態になる。そして商館の屋上へと移動し、体を元の状態に戻す。数メートル後方にエリアナとルティアがいた。


「危なかった」


「やっぱりか! 制限自体があるんだな! その意味の分からない魔法には!」


 男は僕を見据えながら屋上のふちに立つ。その顔はまるで子供のように笑っていた。


 この男の機動力には勝てない。ならば『元素分解』で体の一部を消して一撃で決着を付けよう。

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